二体の悪魔
「もう力が使えるなんて恐れ入ったわ」
セミロングの茶髪を有した少女――マモンがテーブルの上に乗った市松模様のゲームボードを眺めながらそうつぶやいた。
岩肌を剥き出しにした山の一角に不釣り合いな、洋風でオシャレなテーブルの上に置かれたチェス盤にも見えるゲームボードだが、そこにあるのはチェスで使われる駒ではなく、動物の形をした駒が六つ、盤面のあちこちに点在している。そんななか、ライオンとキツネを模した駒だけが向かい合うように、隣同士で置かれていた。
「そうでしょう。さすが私の駒よ」
膝丈までの長さがある銀髪を手で振り払った少女――ルシファーは得意げにそう答えた。
「相変わらずね、アンタのその態度。どんな些細なことでも、少しでも上に立てばいい気になっちゃって。ちょっとはその態度を改めようとは思わないの?」
傲慢というにふさわしいルシファーの態度にマモンは“気を遣うかのように”、そう口にした。
「はぁ? なんで改める必要があるわけ? わけわかんないわ」
「あ~あ、知らないわよぅ、その態度。アンタはいつもそうやって自分の首を絞めるんだから……」
マモンはこれから先の展開が読めているかのように、ほくそ笑んだ。彼女は知っていた。滑り出しが順調な時ほど、ルシファーが失敗を犯すということを。
「今回は今までにないくらい楽しみにしていた暇つぶしよ。この日のために入念な準備をしてきたから心配なんて微塵もないわ」
だが、ルシファーはマモンの心配を一蹴し、聞く耳を一切持たなかった。
傲慢さは時に自身の士気を高め、行動を成功に導くこともある。しかし、その反面、弱点となる部分が多様に存在してしまう。傲慢は油断を生み、また、犯した失敗から何かを学ぶことはしない、できない。故に同じ過ちを繰り返す。傲慢を体現する彼女は、成功するときはとことん成功し、そして、失敗するときはとことん失敗するといった、傲慢の特徴を顕著とした存在であった。
「私は必ず勝ちに行くわ。“どんな手段を使っても”ね」
「ふ~ん……」
ルシファーの最後の一言に、マモンは何かを納得したような表情を浮かべていた。
「まあ、いいわ。“楽しみにしてる”わ、ルシファー」
マモンは多くを語らず、目前に出現した闇の渦へと溶けていった。これからのルシファーの行く末を楽しみにしているのは、誰が見ても理解できるだろう、その本人を除いて。
ルシファーは消えていくマモンの後姿を無表情に見届けていた。
「……………………」
数分の沈黙がその空間に流れる。
「……さて、この局面も最終段階かしら」
口を開いたルシファーは勝ち誇ったような笑みを浮かべて、ゲームボードを眺めた。