傲慢と強欲
「アナタ、なかなかやりますねぇ。まあ、どんなことも簡単に成し遂げられるボクには到底及びませんけどね」
その青年――樢本薫はとてもニコニコとした笑みを顔に張り付かせてそう口にした。彼のその表情から読み取れるのは絶対的な自信と、この状況を楽しめる余裕だった。
自分がすべての頂点に立っていると思っている彼にとって、恐怖や畏怖、負けるといった気持ちは必要ない。
「なるほど、傲慢か。それに相応しい言動だ」
そんな青年を見て冷静に分析をする男――海原澪は手にしていた剣を肩よりも高い位置で構える。
澪の持つ剣に埋め込まれたガラス玉に逆さになった薫が写る。澪の細い眼がその薫の姿を捉えていた。
「このボクとまだやる気ですか? いいですけど、アナタはボクには敵いませんよ。なんせここに連れてこられた七人の中で、ボクは一番強い力を持っているんだから」
「強い力?」
薫の言葉に堅苦しかった澪の構えが僅かに緩む。それは薫の言葉に興味を引かれたからだった。
「そうです。こっちに来てからこの剣のことばかり調べてましたからねぇ。その努力の賜物ですよ」
自身の持つ、装飾の施された剣を眺めながら得意げな様子で薫は話しはじめる。教える必要性のない情報を自ら漏らしてしまうのは傲慢ゆえの愚かさか。
「ほう……。その力、俺にも教えてもらいたいものだ」
「なにを言っているんですか。教えるわけないじゃないですか。なんていったってボクだけが見つけた力なんですからねぇ。まあ、見せるのはいいですけど」
「フッ、なら見せてもらおうか。その力とやらを……」
澪が思い浮かべた展開を辿り、澪は笑み浮かべる。
少し促すことで自ら秘密を見せてくれるとは、なんて愚かな人間か……。それが澪の考えていることだった。
「ええ、構いませんよ。……言っておきますけど、アナタ、死にますよ?」
薫の顔から笑みが消え、先程までの表情が嘘だったかのような無表情となる。その瞳には今まで見ることができなかった殺意が込められていた。それは、先ほどまで繰り広げていた戦闘が単なるおふざけでしかなかったことを意味していた。
「そうか。ならば、その力を使ってお前が俺を殺せなかったとき、お前にはその程度の力しかなかった、ということが証明されるんだな?」
澪は再び武器を構え、薫を馬鹿にするかのような言葉を投げかける。
「言ってくれるじゃないですか。アナタは特別に、四肢を切り分けてそこら辺の火山の中に放り込んであげますよ」
薫の顔に再びニコニコとした笑みが宿る。しかし、その目は少しも笑っていなかった。
「できるもんならやってみろ。お前みたいな奴には無理だろうがな」
その瞳に臆することもなく澪は再度、小馬鹿にするような言葉を投げかけた。薫に本気の力を出させるために。そうすることで彼の持つ“強い力”をしっかりと分析するために。
「いいでしょう! ボクに喧嘩を売ったことを後悔させてあげますよッ!」
「望むところだ」