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参加者たち

「さあ、ゲームの始まりだ!」


 七体の悪魔によるゲーム開始の宣言が煉獄にこだまする。




      *      *      *      




「もう開始ですか……。もう少しだけ時間が欲しかったんですが……」


 その青年は残念そうな様子を醸し出しながら、ズレていた黒縁の眼鏡を指で直した。


「まあ、いいでしょう。大体の調査は終わったので……」


 青年は手にした剣を一瞥する。

 装飾が美しいその剣は、戦闘よりも祭事(さいじ)などに使われそうな雰囲気を漂わせていた。


「きっとボクの勝利で終わるでしょうね」


 端正な顔立ちの青年は、得意げと同時に不敵な笑みを浮かべた。その時、彼の持っていた剣の(やいば)が一瞬だけ(きら)めいた。


「ボクはどんな状況でも頂点に君臨する存在なんだ……」




      *      *      *      




「やっと始まるのね〜。待ちくたびれて死んじゃいそうだったわ〜」


 ふわふわとした喋り方の女性は嬉々とした様子で微笑むと、腰を掛けていた岩から立ち上がった。


「こんな場所じゃあせっかくのお洋服がすぐに汚れちゃいますわ〜」


 活火山帯のようなこの場所には不釣り合いなドレスを着込んでいる女性は、しなやかな動作で汚れをはたき落とすと、岩に立て掛けていた二本の剣を掴み取った。その二本は男と女のシンボルマークを模したかのような形を成していた。


「“カワイイコ”はいるのかしら〜? とても楽しみですわ〜」


 笑顔を絶やさない女性は期待に胸を膨らませている様子で二本の剣を優しく抱くと、小さな声で呟いた。


「ワタシがズタズタに愛してあげますわ〜」




      *      *      *      




「おっせーんだよッ!」


 その男はそう叫びながら、頭上高くに振り上げていた剣を冷え固まった火成岩へと力任せに叩きつけた。

 火成岩は木っ端みじんに砕け、破片が周囲に散らばった。巨大でぶ厚い刃を持った剣は、強固な火成岩を砕いても刃毀(はこぼ)れ一つしていない。


「まあいい。とりあえずゲームは始まったんだ、好きなだけ暴れさせてもらうぜ……」


 男は巨大な剣を軽々しく担ぐと、獲物を探し出すために歩きだす。


「どんなやつだろうと、オレが簡単にひねり潰してやる……!」




      *      *      *      




「『全部の剣を集める』ねぇ……」


 巨大な火口を背にした女が、自身の手にした剣とは言い難い、槍のような剣を訝しげに眺めながら「そんなことよりワタシはなんか食いたいんだけどなぁ」と呟いた。火口からは大量の熱気と煙が上がっているが、女の身体には一筋の汗もなく平然とした様子で地面にあぐらをかいて座っていた。


「食欲は偉大よ。お腹が空いてなくても美味しいものは食べたくなっちゃうものね、うん」


 女は自身の放った言葉に自身で納得すると、槍にしか見えない剣を支えとして立ち上がった。


「よいしょ、っと。……んじゃ、ゲームも始まったことだし、そろそろ動きますか!」


 女が薄ら笑いを浮かべると、それに呼応したかのように火山が盛大に噴火を起こす。


「さーて、アタシのメシはどこだ?」




      *      *      *      




「剣を全て奪うのか……」


 落ち着いた印象を与える男が呟く。

 彼が持つ剣の刃には握りこぶし大のガラス玉がはめ込まれており、男はそのガラス玉を通して見える逆さになった世界を眺めていた。


「……物足りないな」


 男は身体の中に溜めていた空気を吐き出した後に不満げに呟いた。


「どうせなら、奪えるものは全て奪うべきだろ?」


 周囲に誰かがいるでもないが、男の口からは疑問の言葉が紡がれる。先ほどまで無表情だった男が浮かべた笑みは強欲さにまみれ、浅ましさの塊でしかなかった。


「ここに存在するすべては俺のものだ……」




      *      *      *      




「わたし、こんなところで時間を浪費している場合じゃないんだよね……」


 その少女はキャスケットを目深に被り直すと、地面に突き刺さっていたレイピアを抜き取った。


「こんなことしてる間にも彼には魔の手が迫ってるんだから……」


 彼女がそう口にしながら、手にしていたレイピアの刃を指でなぞる。


「わたしが守ってあげないと……」


 彼女の決意は手にしている細い剣とは裏腹に太く、そして強固だった。


「待っててね、今すぐ会いに行くから」




      *      *      *      




「…………ん」


 仰向けに寝そべっていた少年が目を覚ます。

 上半身を起こした少年はゆっくりと周囲を見渡した。


「……ここ、どこだ?」


 少年の視界に映るのは老朽化して崩れ落ちた柱の数々。それはこの場所に神殿が建っていたという証拠だが、そのような面影を掴むのは困難なほどに柱は朽ち果てていた。


「そんで……」


 煮えたぎった溶岩によって照らされた神殿後(しんでんあと)一瞥(いちべつ)した少年は、厚い赤雲(せきうん)で埋め尽くされた空を仰ぎ見て呟いた。


「…………自分は……誰だ?」




      *      *      *      




 こうして悪魔の気まぐれと暇潰しによる残酷な“ゲーム”は始まりを迎えた。


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