序章
夜のように静かな物語です。
人ではない存在の記憶、
そして、“想い”と“願い”を描いています。
少しでも気に入っていただけたら嬉しいです。
薄暗く、静まり返った博物館。
割れた大きな天窓からは、濃紺の空と星々が覗き、
その奥で黄白い月が優しく輝いている。
落ちた光は二つの小さな鉱物を透かし、
淡い黄緑の影を床へ落としていた。
人のいなくなったこの場所で、
微かに聞こえてくるのは、
“僕”と“キミ”の想い出の物語。
──
ブクプク…ゴポッ……
僕は今、ゆっくりと海の底へ落ちていっている。
数時間前まで宙を漂っていた僕は、流星となって海に飛来した。
さっきまで頭上にあったはずの月の光すら、もう届かない。
時折、岩に当たり欠けながら沈んでいく。
ブクプク…ブクプク……
ゴポッ…シュワァーーー
辺りはほとんど見えない水中。
纏わりついていた泡が僕を残して昇りながら、
少しずつ弾けていくのを感じる。
けれど、そのたびに僕の大切な“何か”が輪郭を失っていくようだった。
海底に落ちた瞬間、砂と泥が猛烈に舞い上がり、
僕は思わず息を止めた。
薄暗い視界に、突如目だけが光る魚たちがヌッと現れる。
そのたびに、僕は驚き、身が縮んだ。
しばらく気持ちが休まらないまま、すぐ側で彼らの
激しい争いが始まった。
巻き上がった砂泥は、あっという間に僕の視界を
濃い闇へと塗り替えていった。
漆黒の中で僕は、ようやく気づく。
“宙を漂い海へ落ちたのに、少しも息苦しくなかったことに。”
『……そうか、もう僕は……。
元々ヒトだった……はず。
でも、他には何も……。』
あの揺らめきながら消えていった泡は、
きっと僕の中に残っていた“最後の記憶の欠片”だったのだろう。
内側から冷たさが広がっていく。
僕は飲まれるように、深い眠りへ落ちていった。
数十年ぶりの音に僕は叩き起こされた。
寝ぼけたまま周りを見るが、真っ暗な視界に変わりはなかった。
意識がはっきりすると硬い岩の中、あの魚たちがいる海の底ではなくなっていて、少し安堵する。
『どれくらい眠ってたんだろう。
きっともう生き物でもない僕が、
眠るなんて可笑しな話だけど……ん?何の音?』
キーン…キーン……キーン……
強く聞こえ始めたのは、耳を劈くような音。
けど、今の僕には塞ぐことも逃れることも出来ない。
覚えていないだけかもしれないが、
恐らく過去にも聞いたことのない音だった。
『んん……。あれは……声?』
酷い音が収まると岩の向こうから、
微かに聞こえてくる声。
チカッ、ヂカッ、サァーーーーー
突如、真っ暗だった世界に一筋の真っ白な光が差し込み、目が眩んだ。
「○○○……、○○○?……○○○○○○!」
一向に収まらない。
それどころか全てが白に満たされ、
僕のカラダは光に溶けていくようだった。
『う……クラクラする。
でも心地いい……風?なんでだろう。
少し温かくて、落ち着く……君は?』
その微かな安心に包まれたまま、
ゆっくりと意識を失った。
この出会いが、一つの願いから始まっていたことを
――僕はまだ知らなかった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
“僕”の物語は、まだ始まったばかりです。
※次回更新は12月26日(金)17時頃を予定しています。
よければ、よろしくお願いします。




