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24話 気づいてしまった想いー大和ー

──昼休み、中庭。



ベンチに並んで、俺は翠ちゃんとパンを食べていた。


他愛のない会話を交わしながら過ごすこの時間が、最近はやけに心地いい。


昼下がりの陽射しが、木の葉を透かして揺れていた。


中庭の空気は柔らかく、風が吹くたびに髪が少しだけ揺れる。


その横顔を見ているだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。


何を話しても、どんな沈黙があっても、居心地が悪くない。



(こんなふうに誰かと並んで笑うの、いつ以来だろう)



バスケの仲間といるときとは違う、穏やかで優しい時間。


それが、少しだけ特別に感じてしまう自分がいた。



「このパン、思ったより美味しいね」



翠ちゃんが笑ってそう言う。


その笑顔に、胸の奥が温かくなる。



(……ずっと、この時間が続けばいいのに)



そう思った瞬間だった。


翠ちゃんの手がふと止まり、視線が遠くへ向かう。


その先には、友達とふざけ合う結城さんの姿。


ほんの一瞬。


翠ちゃんの横顔が、柔らかく揺れた。


ほんの数秒のことなのに、その表情が頭から離れなかった。


光を見つめるみたいに、少しだけ遠くを見ていた。



(あんな顔、俺には向けたことないな)



心のどこかでわかっていたはずなのに、いざ目の前で見ると、息が詰まりそうになる。


声をかけようとして、結局やめた。


この笑顔を壊したくなかったから。


見たことのない、特別な光。


──胸が締めつけられる。



(……やっぱり、結城さんなんだな)



気づきたくなかった答えが、静かに胸に落ちた。


でも、口には出さない。


「このパン、当たりだな」なんて笑ってみせる。


翠ちゃんは不思議そうにこっちを見て、少し笑ってくれた。


その笑顔が、いつもより少しだけ遠く感じた。


まるで、心のどこかがもう別の場所にあるみたいに。



(……いいよ、それでも)



笑っていられるうちは、俺も笑っていよう。


翠ちゃんが誰を見ていても、俺にできるのは、その隣で変わらずいられることだけだ。


それが、今の俺の精一杯。


わかっていた現実を、ようやく受け止められた気がした。


手のひらの中にあるこの穏やかな時間を、握りしめようとすればするほど、指の隙間からこぼれていく気がした。


きっと、俺がどれだけ想っても、彼女の心に触れることはできない。


でもそれでいい。


想いを伝えることだけが恋じゃない。


誰かを想い続ける強さだって、ちゃんと恋の形なんだ。



(──だからもう、大丈夫)



そう自分に言い聞かせながら、胸の奥にあった痛みを、静かに抱きしめた。


俺がどんなに隣にいても、翠ちゃんの視線はあの人を追ってる。


それでも、今だけは。


この小さな幸せを、手放したくなかった。


中庭に吹く風が、二人のあいだを静かに通り抜けていく。


陽の光が揺れて、彼女の髪を照らした。


その瞬間、もう少しだけ──この時間が続いてほしいと願った。


届かなくてもいい。


ただ、彼女が笑っていられるなら。


それだけで十分だった。



──








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