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21話 解けない答え

──休日、図書館近くのカフェ。



窓際の席に並んで、翠と大和はノートを広げていた。



「ここ、こうやって解いた?」



大和がペン先で問題を示す。



「うん、でも途中でわかんなくなって……」



翠が小さく答えると、大和はスラスラと説明を続けた。


その声は落ち着いていて、隣にいる翠の肩から少し力が抜ける。


翠にとって、大和と一緒にいる時間は不思議と安心できるものだった。


一方の大和は、真剣にノートを見つめる翠の横顔に、胸を熱くしていた。



「翠ちゃんってさ、やっぱ頭いいよな。すぐ理解するし」


「そんなことないよ。大和くんが教え方うまいから」



翠が照れ隠しの笑みを見せると、大和は一瞬息を呑む。


それは自分に向けられた微笑みでありながら、どこか「感謝」だけに見えてしまった。


休日のカフェは、穏やかなざわめきに包まれていた。


コーヒーの香りと、ページをめくる音。


外の並木道では、春の風がカーテンをそっと揺らしている。


そんな空間の中で、二人だけの時間がゆっくり流れていた。



(こうして並んでるだけで、少し心が落ち着く……)



翠はペン先を見つめながら、ふとそう感じた。


隣にいると安心できる――けれど、その安心の奥には、別の人の影がかすかに揺れている。


大和はそんな翠の横顔を、何度も見ないようにしていた。


見てしまえば、心の奥がざわつくから。


それでも、視線は自然とそちらへ引き寄せられてしまう。


グラスの中の氷が、静かに音を立てる。



(今、何を言えばよかったんだろ)



大和はノートの文字を見つめたまま、答えを探していた。


自分の想いを伝えたいのに、口を開けばこの空気を壊してしまいそうで。


翠もまた、胸の奥に小さな罪悪感を抱いていた。


優しく笑う大和に向かって、「ごめんね」と言いたかった。


でもその言葉を出せば、きっと戻れなくなる気がした。


だから二人は、何も言わなかった。


ただノートを開いたまま、夕陽が傾くまで静かに座り続けた。


しばらく静かな時間が流れたあと、大和が口を開く。



「俺さ、翠ちゃんと一緒に勉強できて、ほんとに嬉しい」



その言葉に、翠は少し驚いた表情を見せ、やがて切ない笑顔を浮かべた。



「……優しいね、大和くんって」



胸に刺さるその一言。


大和は気づいた。



(今の笑顔……俺に向けられたものじゃない。俺への想いじゃなくて、ただ“優しさ”に対する返事だ)



大和は笑顔のまま、ほんの少しだけ視線を落とした。


喉まで出かかった言葉は、グラスの氷に当たる微かな音に紛れて消える。


彼はペンを持ち直し、静かに頷いた。



──ノートに向かう二人。



数式は進むのに、互いの心に残った感情は解けないままだった。



──






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