インストゥルメンタル
気まぐれに眺めていたテレビを消した。
今は君の声だけが恋しくて。
毎日のようにスタジオで顔を合わせているのに、
1日逢わないだけで恋しくなる。
こういうのを、恋愛っていうのかな。
今は、君の声しか頭にない。
それしか、聞きたくない。
自分の声を出さない位にゆっくり動いて、
音を立てない位にそっとギターを取って、
君の声を思い出しながら弦を押さえ、弾いた。
逢いに行くのは簡単。
でも彼女にも彼女の生活があるわけで。
せっかくの休みを邪魔するのも申し訳なく思ってしまう。
そういう所が、A型なんだなぁ、俺。
それでも、君の声が聞きたかった。
流行のメロディーで携帯が鳴った。
ああもう、君の声しか聞きたくないって言ってるのに。
電話をかけてくる人なんて知り合いしかいない。
誰からかも確かめずに適当に出た。
『もしもし…?』
電話から流れるのは愛しいあの声。
暫く呆然としていた俺を、怪訝そうにしている声。
あぁ、これを待ってたんだ。
「はあい…」
『あの、さ。特に用事はないんだけど…逢いに行っていいかな…?』
「うん、いいよ!!待ってる」
即答した俺に、君はホッとしたように答える声が明るくなった。
「なぁ…歌って?」
『え?』
「新曲、俺の所来たら、歌って欲しい」
さっきからギターで弾いていたのは、新曲だった。
俺が作曲した、ミディアムバラード。
『まだ歌詞も出来てないのに…』
「ラララでも、なんでもいいから」
もう、ギターだけのインストゥルメンタルには飽きたから。
end.