『運命』を知る者たち
星日は自身の父親と話を終えた後、真っ先に自身の部屋へと向かった。夜なのも相まって星日はかなり眠たく、しかも信じがたいようなものを見せつけられた今、疲れておりそれが尚更眠気を促進させていたのだ。
そんな今すぐにもベットの上へ行こうとするととある動物が彼の目に留まったのだ。そう、黒色のした猫だったのだ。別に特段気にすることではなかったが星日はなぜかその猫から目を離せず、数秒が過ぎた後についに猫はどっかに行ってしまったのだ。
星日は少し動揺して、なぜ自分はこんな行動を取ったのか疑問を持ったが眠気がそれに魔を刺し、すぐさまその疑問を忘れたしまった。
そして風呂へと行こうと思ったがここで星日は気づいたのだ。こんな中世ヨーロッパの時代と同じ技術力を持っているこの世界が全市民が使えるような風呂を作っているのか?その答えはノーであり、家のどこを探しても風呂なんて呼べる存在がなかったのだ。仕方が無いとついに諦めて、近くの川とかに行こうと思いながら風呂のためのタオルなどを準備し終えた後に家を出ようとしたのだ。
しかし出ようとしたところ、突然リュミアが自分の服の袖を握り、逃さんとばかり強く握っていたのだ。
「リュミア、これはどういうことだ?」
「はっ?!す、すいませんゼルカお兄様。ほんの出来心で、べ、別に悪気とかなくてですね」
そう目を泳がせて焦りながら必死に弁明するリュミアに星日は可愛いと思いながらなぜこんな行動をするのか少し疑念が集まり、問い出した。
「何故私の邪魔をするのだ?」
少し強い口調になってしまい、星日は好感度下がってないかなと不安になりながら静かにリュミアの返答を待ったのだ。少しの沈黙のあと、リュミアはついに口を開けたのだ。
「実はですね、最近連続殺人事件がありまして。その、夜遅くに殺される人が多くて、これから夜遅く家を出るゼルカお兄様のことが心配になってしまってですね、、ご、ごめんなさい」
「いや、謝らなくて良いよ。僕のことをちゃんと心配してくれてありがとうな」
「え、あ、はい!リュミアはいつでもゼルカお兄様の味方です」
そんな会話をした星日は少し思考を巡らせた。
(そうなのか、今から川へと行ったら殺される可能性があるのか。であれば普通は行かないという選択肢になるけど、でもなー風呂にも行きたいんだよね)
そう、星日は何故か風呂に行きたいなと思ったのだ。はっきり言うと馬鹿であり、自分の命を賭けてまで風呂へ行く必要なんてどこにも無いのである。なのにも関わらず、風呂へ行きたいとかふざけたことを言うのだ。
「..........大丈夫だ、私はちゃんと自分の身を守れる。お前はちゃんと寝室にいろよ。もし不届者がいればすぐさまにお父様の部屋へ行きなさい。そうすれば安全だからな。」
「は、はい!どうか、どうか無事に帰ってきてください、お兄様」
「ああ、約束しよう」
念の為自分の部屋へ行き、何か武器になるようなものを探していたら一つの剣を見つけた。恐らくゼルカの誕生日とかにもらったんだろうと思いながら左腰の方へと装着した。それは何故か違和感とかがなく、逆にしっくり来てまるで僕の左腰にあるのが当然かのようだった。
ちょっと不気味さを感じながらも星日は風呂のためのタオルなどを再度支度し、ついに家を出る準備が終えたのだ。
「それではお兄様、どうかご無事に」
「本当に心配性だな、お前は。大丈夫さ、必ず帰ってくるからな。約束したんだぞ?」
「ええ、フフ。約束ですからね」
そんな会話をした後、ゼルカはついに扉を開けた後、この世界の外の景色を目にするのだった。
川へ行く途中、なるべくこの町がどう言う全体図なのかを記憶するため一応紙と羽根ペンを持ってきた。クリップボードなんてこの世界は無いので、木材で出来たボウルの裏側を机代わりにし、なるべく細かく書こうと集中した。
そしたら夜風がそっとゼルカの頬を撫でた。
冷たすぎず、どこか湿り気を含んだその風は、昼間の熱を忘れさせるように静かであり、自分の心を落ち着かせるようなものだった。
目の前に広がっていたのは、石畳の敷かれた通りがまっすぐに続く小さな町の夜景。恐らく蝋燭とかで照らしてる街灯がぽつぽつと規則正しく並んでおり、その橙色の光がぼんやりと霧に溶けていた。まるで誰かが吐息をかけたガラス越しに世界を見ているような、そんな朧げな光景だった。
よくこんなに蝋燭があるな、と星日は思いながら町をまた観察する。
木造と石造りが混ざった家々はどこも屋根が急勾配で、煙突からはまだ炊事や暖炉の名残か、白い煙が細く立ちのぼっている。窓にはほとんど明かりが灯っておらず、町全体が深い眠りの中にあるようだった。
どこからか猫の鳴き声が一声、風に乗って聞こえてきた。その声は妙に鋭く、ゼルカの記憶の奥底に引っかかっていた黒猫の影を一瞬呼び起こした。
遠く、塔のような建物の上に取り付けられた鐘が、静寂を破るように小さく一度鳴った。深夜の時刻を告げる音か、それとも――何かの合図か。
誰もいないはずの石畳の道の先には、古びた井戸や市場の屋台が静かにたたずんでおり、それらの影が月光に照らされて歪み、まるで何かがそこに立っているかのようにも見えた。
ゼルカはしばしその場に立ち尽くし、冷たい夜の空気の中で自分の呼吸音と足音だけが響く町を見つめていた。
ここは知らない世界。だが、どこか懐かしさすら感じる夜の町。
左腰の剣が、かすかに重さを主張する。
ゼルカは一度目を閉じ、小さく息を吐いた後、風呂を探すために夜の町の中へと静かに足を踏み出した――。
「ああ、スッキリするー。」
さっきの緊張感が嘘かのように彼はおじさんの如く、川を堪能していたのだ。温かい風呂や現代の風呂と比べたら流石に心地悪いが、それでもなかなかいいものであった。たまに冷たい風呂を浴びるのも悪くないなと思いながら星日はそろそろこれからのことを考えた。
(今までは中断されたけどここなら思考もスッキリしてるだろうしこれからについて考えよう。.............うん、どうしよう?『運命』とかいう重大な情報は確かに持っているがこの情報一般の人たちは知らないし、仮に周りに知ってる人がいてもどう出会うんだ?)
そう、『運命』の情報は世の中からは秘密にされており、そもそもゼルカはどう言う経緯でこの情報を手に入れたのかが謎なのだった。
(くそ、ここで記憶の欠落が邪魔してくるのか。情報を入手できた経緯がわかれば少なくとも自分と同じ『運命』のことがわかる人間を知れたかもな)
ちなみに異世界転生(?)した事実には星日は諦めており、こればかりはどうしようもないとキッパリ諦めたのだ。実際、どうしようもないことをどうにかしようとしても結局空回りするし、そんな思考する暇があるなら未来について考えるほうがよっぽど有効だと結論を出したのだ。
それらはともかく、星日の頭の中にこれからの計画が少しずつ完成していくのだった。
(今はとりあえずこの世界の常識や町に住んでいる人たちから知ろう。もしかしたら運よく僕と同じく『運命』のことを知ってる人がいるかも。まっ、確率は限りなく少ないだろうがな。)
世界の広さを舐めるんじゃないと星日は自分自身にツッコミをしたのだ。何故自分自身にツッコミをしたのかは意味不明だが言っていることは確かで、この特定の町にこんな特大な情報を持っている人間がいる確率は限りなく0に近いだろう。
そう少し落ち込んでいたらまた家で出会った黒猫と目があったのだ。しかし前回とは違い、その黒猫はすぐにどっかに行ってしまったのだ。まるで何かに怯えている感じに、必死に森の奥へと走ったのだ。
不思議に見つめながら星日は自身の体を洗い、服を着て剣を左腰に装着すし、帰る支度をしていた時に聞こえたのだ。
「ウ、ア、アアアア」
ふと、森の奥から“何か”がに聞こえた。
視線を向けると、そこには“黒い何か”が立っていた。人のような形をしているが、体は不自然に歪み、皮膚のようなものが泥のように垂れ下がっている。
その顔には目も口もなく、ただ、穴のようなものがぽっかりと開いていた。
「っ……!」
ゾッとした。その存在は“生き物”ではない。
本能が告げてくる――あれは、生きているモノではない。
次の瞬間、“それ”は獣のように地を蹴った。
「うわっ……!」
とっさに後ろへ跳ぶ。すぐ目の前を鋭い腕――いや、鉤爪のような腕が切り裂いた。
あと一歩遅れていたら、首が飛んでいた。
「なんだこれ……!」
星日は剣を抜いたが、手が震えていた。身体が強張る。
ついさっきまで平和な国にいた一人の人間が、未知の化け物を前にして冷静でいられるはずがない。
だが、“それ”は待ってくれない。
ギャアアアッ!!
濁った声を上げながら再び襲いかかってくる化け物。
星日は防戦一方で、なんとか剣を振るい、一度は胴体を斬った――だが、黒い体液をまき散らしながらも、それは倒れなかった。
「……っそ、硬っ……!」
力任せの一撃が外れる。バランスが崩れた。
その隙を、化け物は見逃さなかった。
「くっ――!」
ドゴッ!!
肩に鈍痛が走る。地面に叩きつけられる。口の中に血の味。
呼吸が乱れ、腕が痺れる。今、化け物がとどめを刺しに来れば――。
「終わる……!」
本気で、そう思った。
(……嫌だ……ここで終わるなんて……!約束したんだぞ、リュミアと!)
必死に剣を構え直し、立ち上がろうとしたその時――
「『眠りを』」
声が森に響き、化け物はすぐさまに眠りについたのだ。
「――えっ……?」
星日の目の前で、化け物がスヤスヤ寝ているところに体格がかなりデカい男がその化け物を『潰した』。文字通り、化け物はミンチになってしまったのだ。
その直後、黒いローブに身を包んだ数人の集団が森の中から現れた。
「間に合ったか!」
「おい、彼を援護しろ!」
「セリア!早く!」
呆然としたまま地面に手をついていた星日の前に、ひときわ若く見える女性が膝をついた。
金色の瞳をした彼女は、何やら自分に手を向けて詠唱を始めた。
「『正義の光よ、傷を封ぜよ』」
そしたら自分の傷が段々と塞がっていき、ついに怪我した痕跡すらなくなったのだ。
「フー、よかった。傷が浅くて助かったね、君。もしもっと怪我したら助からなかったかもよ?次からは気をつけるように。」
「は、はい。申し訳ありません。」
「よろしい。」
星日は目の前にいる女性のあまりにもの真剣さについ申し訳なさを感じ、謝ってしまったのだ。いや、こんな漫才をしてる場合でなくあの力について聞かないと。
「あ、あの!さ、さっきの力って、」
「あ、あれ?あー意識ないかなと思ってつい使っちまったな。おいシェン、こいつの記憶をいじー」
「ちょ、ちょっと待ってください!あれってもしかして『運命』の力ですか?」
その言葉が発せられた瞬間、森に沈黙が広がった。星日の心臓は早鐘のように打ち鳴らされた。静寂は、まるでその場の空気すら凍りつかせるかのようだった。
「.........お前、今なんて?」
「え、その、今使ったものって『運命』の力ですよねって、、、感じです、、」
再び静寂が訪れた。なんかまずいことを言ったのかな?と星日は鳴り止まない心臓の音を聴きながら彼らの返事を待った。もしかしたら勘違い?それか『運命』の力を持ってないのにも関わらずその情報を持っている僕を殺すとか?星日は無限の起こり得る返事に予想していたら、リーダーっぽい感じの人が話しかけてきたのだ。
「少年よ、君はどこからその情報を聞いたのかね?」
その男は、静かな威厳を纏ってそこに立っていた。年の頃は四十代の後半から五十代前半といったところだろうか。痩せすぎず、太りすぎず──どこか洗練された印象を与える体格に、よく手入れされた深緑のロングコートがよく似合っていた。
肩まで流れる灰がかった黒髪は、歳月の証として所々に白髪が混じっている。無精髭のないすっきりとした顎と、穏やかながらも油断のない双眸。その目は、人の心の奥底まで見透かすような鋭さを秘めており、まるでどんな嘘も見逃さないとでも言いたげだった。
胸元には金属製の小さなネックレス──天秤のモチーフが刻まれたものが静かな夜中で輝いており、こんな状況でも綺麗だなと思わせるほどのものだった。
「そ、その、あのですね、、」
星日はそのおじさんの返答に少し手こずっていた。いきなり別の世界から魂だけの転移をしまして、この体の主の記憶を見た時にわかりましたなんて馬鹿正直に話すと最悪頭のおかしい人として記憶を無くしてしまう。だがそれと同時に代わりに何を言えばもわからず、返答に困っていた。
「ふむ、訳ありってことかね。大丈夫さ、少年よ。とりあえず明日、ここに来てくれないか?ここなら君も落ち着いて話せると思うけど、どう?」
そう言いながらそのおじさんは星日にとある紙切れを上げたのだ。なんとこの世界には住所というものが存在しているらしい。ますます意味のわからない世界だなと星日は感じながらとりあえず受け取ったのだ。
「あ、ありがとうございます。」
「それじゃー明日、たっぷり君の話を聞かせてもらうよ。さようなら。」
それを最後に、おじさんと周りにいた集団は星日の目から消えたのだ。テレポート系の能力なのかなと星日は考えながら周りを見たのだ。もうほとんど使い物にならない剣、潰されたボウル、そして汚くなったタオルなど。
あまりにの悲惨な状況に星日は、
「うん、とりあえず家へと帰るか」
現実逃避をしたのだ。
そんなまたもや現実離れした光景を体験した星日は無事頭がパンクしており、今日はぐっすり眠れそうだと考えながらその思い足で家へと帰るのだった。
言わずもがな、家へ帰った時にはあまりにも帰りが遅くリュミアを心配させてしまい、そのせいで抱きつかれて、お父様からは質問攻めにあったのは内緒だ。
まさかの一日で二話を投稿できるなんて思ってなかったです!
恐らく更新日時としては平日のどこかで一、二回ぐらい投稿で日曜日は頑張って一話ぐらいは確定で投稿する感じにしたいと思います。
ううう、スケジュールがパンパンだ。
誤字などあればぜひ感想の部分で書いてください!すぐに書き直すので!