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目覚め

『運命』


それは酷く美しく、醜く、そして曖昧だ。

人は言う、俺たち・私たちが出会えたのは運命のおかげだから。

人は言う、こんなことになったのは運命の悪戯のせいだから。


このように人々にとって『運命』というのは、人の数があるように『解釈』は無数に存在する。『解釈』によって人は幸か不幸になる。ああ、なんとも無責任な概念なのか。


しかしそんな『運命』が可視化された世界があるなら?『解釈』が決まっている、己の力で『運命』をねじ伏せれるような世界があるなら?そんなどっかのファンタジー本に出てきそうな物語を今、体験する存在がこの『地球』に降り立とうとするのだった。






























(っ!!)


彼、星日は突如としてとんでもない痛みの頭痛を体験し、すぐさまに意識を覚醒した。


―痛い、痛い。......頭が割れそうだ。


意識はある。思考もできる。でもどんだけ痛くても声が出ない。こんな不思議なことはあるだろうか?体全体は言うこと聞かないし、何よりこの頭痛、頭の奥から何かが這い上がってくる感じな痛み。星日はこんな頭痛を人生で体験したことすら愚か、この痛みを耐えれる人間なんていないんじゃないかと思うほどの頭痛。


鈍く、熱く、鋭く、冷たい。相反する感覚が全て同時に、または交互に脳を切り裂くように星日に襲いかかったのだ。


(......っ、っ......!!)

どんだけ頭の中で悲鳴を上げても外の世界には届かない。いやそもそも僕はどこにいるのだ?ついさっきまで寝室で携帯を弄っててそろそろ眠くなったから寝ようとしたのに。なぜ僕はこの酷い頭痛を体験してるのだ?


星日の頭の中は疑問だらけだった。前日までは部屋でダラダラし、明日は仕事かと考えながら適当に深夜を過ごしていた。そして気づいたら自分の体が全く動かないしひどい頭痛がする今。


(早く、起きない、、と、、、死ぬ)

星日は本能的に悟ったのだ。このままでは自分は死んでしまうことを、このまま頭痛を体験すると酷い目に遭うことを。だから全ての思考をただ『起きる』ことに集中すると頭痛が少し和らいだのだ。


(......あれ?さっきより断然にマシになったぞ?まだ刃物が突き刺さってるかのように痛いが、良いだろう。)


それから数秒か、数分か、或いは数時間か、ゆっくりだが確実に頭痛は段々と和らいでいき、ついに体を動かせるほどには体力が回復したのだ。


そしていざ目を開けたとき、そこは全くの違う景色だった。


「なんだ、、これ?」


あまりのショックに星日はついそう言葉を溢してしまったもだ。目の前にある景色は自分の部屋ではなく、中世ヨーロッパの一般的な家のような部屋だったもだ。電気はなく、ただ窓が唯一の光源であり、右の方へ見ると本棚がそこに立っていたのだ。本を持っているということはそれなりに稼いでいるんだろうと星日は思い、どうやらそこまで貧乏ではないらしい。左の方へ見ると自分のベットのようなものがポツンとあったのだ。


なぜかはわからないがあのベットが星日にとって酷く不気味さを齎し、つい目を逸らしてしまった。そして目の前に目線を向けると机であった。暗くて今はうまく見れないが、恐らく木材で作られた丈夫な机なんだろう。左の方にはいかにも中世時代のファンタジー系に出てくるランプがあり、その横には羽根ペンがあった。流石に万年筆ではなかったが、それでも少年心を刺激するには十分だった。初めて見る羽根ペンに星日は少し興奮気味になってしまい、さっきまでの頭痛が嘘かのように頭の中でははしゃいでいたのだ。


そう観察していると一つ、ノートがそこにあったのだ。


そして開いているページには

”ああ、『運命』よ。其はなんとも醜く、美しいのか。”


ただそう書かれていた。これを見た瞬間星日は言葉では言い表せない、酷く、重たい焦燥感に見舞われたのだ。なぜだ、たかが文字だけなのに。そして突如流れてきた自分のものではない記憶。記憶の中にある人物、人生、そして知識はどれも現代思考の星日にとって異質であり、恐らくこの体の主のものなんだろうと星日は推測した。


そして記憶が自身の記憶と融合した途端、星日少し吐いてしまった。気持ち悪くて、気持ち悪くてしょうがなかったのだ。そして落ち着いてきた後、流れてきた記憶を振り返った。


曰く、この世界には『運命』というものがある。しかしこれは隠された情報であり、一般の人々はこんな力はあることすら知らずに人生を終えてしまう。そしてこの『運命』と言うものは十個あるらしい。


『正義』の運命ー希望、再生を司る運命

『深淵』の運命ー闇、欲望、秘密を司る運命

『戦火』の運命ー力、破壊、戦争を司る運命

『寂滅』の運命ー死、終焉を司る運命

『輪廻』の運命ー記憶、人々の願いを司る運命

『天啓』の運命ー予知、予言、神意を司る運命

『叛逆』の運命ー自由、反逆を司る運命

『誓約』の運命ー契約、信念、仲間の絆を司る運命

『虚構』の運命ー幻想、偽り、神秘を司る運命

『空白』の運命ー無を司る運命


これらがこの世界にある『運命』らしい。無論、これはあくまで知識でしかなく、僕はまだこの信じがたい事実を完全には受け入れてないのだ。


それらはともかく、星日は思考を整理するとふと気になったことを考えた。それは『空白』の運命が他の運命と比べるとかなり異質であることだ。


まず『無』の定義が曖昧で、他の運命はいろんなものを司っているのに関わらず『空白』の運命だけ一つのみしか司ってない。そして何より、なんの特徴もないのだ。例えば『天啓』の運命なら司っている「予知」を使い、様々な起こり得る未来を見れるが、『空白』の運命は何も出来ないのだ。ただそこに存在しているかのように。


ではなぜこのようなよわよわ運命は今でも生きているのか。それは『空白』の運命が似ている運命がどこにもないからである。実は昔は二十七個の『運命』が存在していたが、『解釈』や『定義』が似ている『運命』たちはより『解釈』が広い『運命』に飲み込まれてしまい、数が減っていきついには今の十個の運命になったのだ。


『運命』の話とかはともかく、今はこれからどうこの世界で生きるかを考えなければいらない。ちなみにこの体の主の名前はゼルカ・オルディスというらしく、お父さんとお母さんは離婚して今はお父さんと暮らしている。三歳離れた兄と五歳ぐらい歳を離れた妹がいる。兄の方はどうやらお母さんの方へと行き、妹はゼルカ同様お父さんについていった。


これだけの情報でまた頭痛が起きそうだが、星日は思ったことを口に出しのだ。


「これが異世界転生というものか?」


しかし星日は別に死んだわけでもないし、前日までにはちゃんと自身の寝室にいたのだ。そんな突然に全くの違う世界に転生するのはちょっと違うのであった。言うなれば、


「いや、これはどちらかというと異世界転移か?いやこれもちょっと違うか。それだったら自分の体はどこにいったのかとなるし。ハー、本当に参ったな。魂だけが転移やら転生やらするなんて異世界系のアニメですら中々ないぞ?」


異世界転生というには死んでもないし、異世界転移というには自分の体がない。これらが導くのは魂だけの異世界転移。が、そんなことなんてあり得るのか?転生なんてファンタジーの塊であるし、ましてや魂などの世界移動なんて初めて聞く。まだ異世界転生であった方が落ち着くがそんなのは妄想でしかなく、ちゃんと現実を見ないといけない。


とりあえず星日は落ち着くために目を閉じ、深呼吸をした。前世(?)でよくやっていた腹式呼吸を実行し、それをやりながら自分のこれからを考え始めた。


(まずはこの世界。『運命』なんていうとんでもないものが存在し、それをごく少数だが人々は使える。だが、僕はこれしか情報を知らない。そもそも『運命』ってなんなのかすらさっぱりだしな。ただ存在しているだけを知っている。本当に大丈夫なのかな)


落ち着くために思考しようとしたのに、逆効果になってしまい、星日は不安で不安でしょうがなかった。無理もない、突然自分に魂だけの異世界転移をしましたなんて体験したらどんな人でも不安がる。


(しかも異世界に行く過程の定番である神やらとかは会わなかったのか?もしかして会ったけど記憶が無くした感じ?それはそれでクソだが)


自分の知識から、恐らく唯一の助けであった異世界転移を実行しただろう神かそれに近い存在を生憎星日は覚えておらず、本格的にまずい事態になっていくのだった。


とてつもなく悩んでいた星日は突然、自身の部屋の扉にノックの音が聞こえたのだ。そして扉の奥には可愛らしい声がこちらに向かって喋ってきたのだ。


「ゼルカお兄様!お父様がお呼びです。」


そう、ゼルカ・オルディスの実の妹であるリュミア・オルディスだった。


あまりの突然さに星日は少し高い驚愕の声を出してしまい、それのせいでリュミアに「大丈夫ですか?」と心配されてしまったのだ。恥ずかしいなと星日は思いながら扉を開け、リュミアの姿が目に映ったのだ。


彼女は淡い金髪を持つ少女だった。陽光のようにやわらかなその髪は背中まで流れ、風に揺れるたびにふわりと輝いた。瞳は透き通るような瑠璃色。人を見つめるその眼差しには、不思議と引き込まれるような力があった。


本当にこんなところでは勿体無い美貌を持ってるなとつい星日は思ってしまった。しかし、今はゼルカとリュミアの父に会わなければいけないらしい。少し溜息をしながら、


「ありがとうリュミア、伝えてくれて。」

「え、あ、いえ!ただ妹としての仕事をしただけです。」


どうやら感謝を伝えただけなのにリュミアはひどく動揺していた。(僕何かしたのか?)と星日は思ったがすぐ気づいた。そう、ゼルカ・オルディスの口調や喋り方だ。何もかも異常なことを体験した星日は少し考える力が落ちており、これに気づくのに結構時間を掛かってしまった。


まー違う人の口調をしないといけないと平和な時間を過ごしてきた一般人は普通思わないが彼は不覚だとばかりなぜか反省し、すぐさまゼルカの喋り方によせたのだ。


「ん、んん!それではお父様のところへ行く。リュミアは大人しく()の部屋とかで待機しとけ」

「は、はい。」


うまく寄せただろうか、星日は少し懸念した。最悪リュミアは自分の兄の突然変異に気づきそのまま僕がゼルガの魂を殺したことがバレたらいよいよこれからの人生が絶望まみれになってしまう。実のところ、星日が継承した記憶は全て完全ではなく、ところどころ記憶の欠落があったのだ。ゼルガの大まかな人生や口調はわかるがその細かい出来事や詳細がわからないのである。


だからそういう記憶系の質問とかされてしまったら一発でバレてしまうのだ。これだけはどうか来ないようにと星日は思いながらついにゼルカの父の部屋へと到着した。


そして深呼吸をし終えた後、扉にノックした。


コンコン

「失礼します、お父様。」


そう言い終えた後、星日は重めの木扉をそっと押し開け、中へと足を踏み入れた。


部屋の中は、簡素ながらも品のある佇まいだった。

壁は漆喰で塗られ、装飾こそ少ないが、木の梁が天井に温かみを加えている。床には毛足の短い織物のラグが一枚、中心に丁寧に敷かれ、ほこり一つ見当たらない。


書き物机は堅牢なオーク材でできており、角には控えめな彫刻が施されていた。上にはインク壺と羽根ペン、簡素な燭台が置かれ、日々使われている気配がある。机のそばにはクッションの入った肘掛け椅子が一脚、座る者の疲れを和らげるように置かれていた。そしてもう一つの椅子が机の目の前にあった。流石にお父様が使う椅子と比べると質素な感じはするが、それでも座り心地が良さそうと思わすほどには作りが良かった。


棚には革張りの帳簿や本が数冊、他にも木製の小箱やガラス瓶が整然と並んでいる。装飾として壁に一枚だけ古びた絵が掛けられており、それがこの部屋にわずかな趣を添えていた。


窓際には小さな丸机と椅子があり、そこから差し込む日光が静かに部屋を照らしている。決して派手ではないが、細やかな配慮と手入れが行き届いた空間――それが、ゼルカの父の部屋だった。


部屋の観察を終えた後、彼はついに自身のお父さんへと目を向けた。


父の名前はライナルト・オルディス。年の頃は四十代半ば。整った顔立ちは歳を重ねたことで渋みを増しており、顎には整えられた短めの髭があった。髪は深い栗色で、前髪こそ多少後退しているものの、まだ十分に量があり、後ろで軽く結ばれている。瞳の色は濃い琥珀で、じっと見つめられると少し緊張するほどに芯のある眼差しを持っていた。


身につけているのは質の良いリネンのシャツに、革のベストと袖口のしっかりしたチュニック。色は落ち着いた濃緑で、派手さはないが丁寧に仕立てられている。腰には装飾の少ないベルトが巻かれ、小さな鍵束が揺れていた。


立ち上がると身長は星日より少し高く、がっしりとした体格がはっきりと分かる。仕事で鍛えられた肉体というよりは、日々を実直に生きてきた人間の厚みとでもいうべき重みが、そこにあった。


声は低く、少しかすれ気味だが、どこか安心感を与える響きを持っていた。


「ああ、いらっしゃい、息子よ。さーさー、そこへお座りを。」


ゼルカは言われるがままに机の前の椅子へと行き、規則正しく背筋をピンとしながら座ったのだ。


「別にそこまで本気なことじゃないぞ、息子よ。ただちょっと聞きたいことがあってな、」

「なんでしょうか、お父様?」


実はゼルカ、もしくは星日はこの時気が気でなかったのだ。もしかしたら僕が異世界転移したからこの体に変異が起こって、そのせいで音とかを立ててたらたまったもんじゃない。最悪自分(星日)のことがバレてしまい、追い出されるかもしれない。


色んなお父様から来そうな質問を思考していた星日にひどく、単純な質問がきたのだ。


「お前は最近幸せか?」

「......はい?」


あっ、やべ。星日は反射的にお父様に向かって大変失礼なことを言ってしまい、とんでもなく焦ってしまった。


「あ、あ、申し訳ありません、お父様。ご無礼をお許しください、どうか。」

「.......ハハハハハ!」


しかし星日の焦りとは裏目に、ライナルト・オルディスは豪快に笑った。


「いや、いや、大丈夫だ息子よ。ただお前のその呆気ない顔を見るのが久しぶりでな、ついつい笑ってしまったのだよ。すまん、すまん。」

「い、いえ。大丈夫です、お父様。」


星日は今までと比でないほどに安心した。これで少なくとも変な答えをしなければ追い出されないことはほぼ確定したのだ。


「それで質問の方ですが、......はい。今は少なくとも妹も健全に生きてて幸せだと、......思います。」

「そうか、......すまんな息子よ。」


ライナルトはいきなり星日に謝ったのだ。


「父がもう少し学か身体能力があればな、もうちょっと良い暮らしをお前らに送れたのにな。本当に申し訳ない。」


星日は自身のお父様からの突然の謝罪にフリーズしてしまい、言葉を送るタイミングを少しミスってしまったのだ。だが、答えようとしたところでそれはそれで問題だったのだ。


さっきも言ったが、星日は別に完全にゼルカの記憶を受け継いでないのだ。ただ大まかなことしか知らない、言うなれば部外者だったのだ。そんな人物がこの家庭の問題に口出しをできるはずもなく、黙ってしまったのだ。


しかし、果たして本当に黙ってしまって良いのだろうか?おそらくここで何かしらのことを言わないと関係性が悪化してしまいそうだし何より、自分自身を許せないと感じたのだ。今目の前で傷ついている人をほっとけるなんて星日はできず、つい言葉をかけてしまったのだ。


「……いえ、お父様。」


 星日は、言葉を選びながらも、優しく、そして確かな声で言った。


「今こうして――お父様とリュミアと、家族として過ごしているこの時間。これは私にとって、何より大切なことであると同時に本当に心の底から幸せなのです。だからお父様、どうかご自身を責めないでください」


その言葉が、ライナルトの心に届いたのか、彼はゆっくりと視線を落とし、口元に微笑を浮かべた。


「……お前は、本当に……いい子......成長したんだな。」


 そう呟いた声には、少しの安堵と、嬉しさが混ざっていた。


「、、、ああ息子よ。すまんな、こんな惨めなお父さんの姿を見て。誓おう、これから何としてでも君たちのことを幸せにすることを。」

「もう、お父様。今でも十分幸せですよ。」


そんな会話をお父様としながら星日は異世界転移一日目を終えたのだ。

































「、、、え」


目の前の光景が信じられなかった。お父様は?リュミアは?


「はーはーはー、、」


だめだ、過呼吸になってきてる。早く、見つけないと。


「あー、、、、『運命』というのはクソなんだな」


『運命』よ。もしこれが現実なら、其はなんとも醜いものなのか。


どうもみなさんこんにちは!


自分ちょっと学生の身分でして、他の作品と比べると投稿スピードは本当に遅いと思います。あと試験勉強とかもあって、最悪二週間はかけない時期があるかもしれません。


まだまだ未熟ですが、これからよろしくお願いします!

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