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誰が為に銃は鳴る  作者: 空雅
第一章 スラスト小隊
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第一話-① 日常の影

揺れる機内。

窓の外はどこまでも青い。

もし墜落でもしたら•••なんて事を考えてしまって、思わず手すりを強く握る。

でも、隣の妹はそんなことより、これからの新生活ばかりが気になるようだった。


「"ルキ!もうすぐ日本だよ!楽しみだね!"」

「……"エミ"、これから日本で暮らすんだ。日本語で話す癖をつけないと。」

「"つまんない反応!" 良いじゃない、今は私とルキしか居ないんだから。」


プクッと頬を膨らませる妹のエミリアを見てやれやれと首を振る。

エミを見ていると自然と力が抜ける。

座席に座り直すと安心とともにシートが体を包んでくれる。ふと窓を見ると地上の建物が段々鮮明になってくる。

体が浮くような感覚。長かった空の旅がもうすぐ終わる。

大きく揺れた後、速度が落ちるのを感じる。

やっと新天地での生活が始まるのだと実感する。

手荷物をまとめ、自身のスーツケースが無事であることを祈りながら外へ出る。

ーーーせめて……中身だけは無事であってほしい。


「この後はどうしようか。3日間休暇をもらってるんだ。好きな所に行こう。」

エミは待ってましたと言わんばかりにスマホの画面を見せる。

画面には『秋葉原おもてなしマップ』と書かれたパンフレットが表示されている。


「"日本なんだからまずはここよ!"」

そういえば良く日本をアニメを見てたっけな。

「いいね、面白そう。荷物は駅のコインロッカーにでも預けて・・・」


ふと、視界の端に数人の警備員が目に入った。

制服を乱れなく着用して、顔は冷静を装っている。

しかし、その額には汗がじっとりと滲み、目がどうにも落ち着かない。

彼らは関係者以外立入禁止と書かれたドアの向こうへ、何かに追われるように足早に消えていった。

胸の奥がざわつく。背中を冷たい手で撫でられるような不快感が込み上げてくる。

普通ではない。直感が静かに警鐘を鳴らす。


「"ルキ"?どうしたの?酔っちゃった?」

怪訝そうな顔でエミが覗き込んでくる。心配してくれているみたいだ。

「"エミ"、何か・・・おかしな〈音〉は無いか?」

途端にエミの纏う雰囲気が変わる。視線が鋭くなり、明るさが一瞬で消えた。

この一言で状況を察したようだ。

「わかった。やってみる。」


エミは目を閉じ耳を澄ませるように集中する。

「地下…かなり深いところ……銃声…?ダメ、深すぎてこれ以上は…。」

「どうする?」


恐れていた事態が現実味を帯びてくる。周囲を見渡せば視界を埋め尽くす程の人々が歩いている。

下手すればこの大部分の人が巻き込まれる大惨事になる。

どれ程の被害が出るかも分からない。今選べる選択肢は一つだけだった。


「行こう。民間人に被害が出る前に止めるべきだ。道案内は出来るか?」

エミはその言葉に自慢げに笑い胸を張って言い放つ。

「誰の妹だと思ってるの!」


言い終わると同時に走り出す。

あぁ本当に頼もしいな。居てくれてよかったよ。

先程まで感じていた胸を刺すような緊張感はもう感じていなかった。



関係者用通路の扉を勢いよく開け走り抜ける。

いくつもの扉を抜け階段を駆け下りる。

すると異質な扉にたどり着いた。外界を拒むように重厚な扉が佇んでいた。

〈外〉からの来客を拒んでいるのか、それとも〈中〉に潜む何かを閉じ込めようとしているのか。

そんな事を思わせる存在感を放つ扉がーーー開いている。僅かだが人が一人通れる位開いている。

この違和感を前に思わず懐のダガーを握る手に力が入る。冷や汗が出る。


ふう…と息を吐いて自分を落ち着かせる。

この緊張感はいつまでたっても慣れない。

エミを見ると彼女も深呼吸をしている。しっかりと落ち着くように。

血の繋がりは無くても似るところは似るんだな。そんなくだらないことを考える。


「"エミ"。"準備はいいか?"」

「"もちろん!" いつでも良いよ。」

二人で扉の向こうへ進む。そこは薄暗く、巨大な螺旋階段がある。

まるで怪物が口を開け、来訪者を引きずり込もうとしているようだ。


「行こう。」

その言葉を合図に二人は日常とはかけ離れた影へ身を投じる。

大きい口を開けた暗闇が二人を飲み込んだ。

風を切りながら階段を駆け抜ける。

下へ。下へ。更に下へ ーーーー


やがて階段が終わりを告げる。一体どれだけ下ってきただろうか。

先程までの空港の喧騒も一切聞こえない。まるで異世界にでも来たようだ。

暗い通路に一定間隔で明かりがついている。

壁や天井は雰囲気に似つかわしくないタイルで舗装されており、何かの施設であることを如実に伝える。

突然の違和感に警戒を強める。ゆっくりと足を進める。

突如花火のような乾いた音が響く。ーー銃声だ。

エミと目を合わせ音のする方へ走る。いつ戦闘になってもおかしくない。


「待って、誰か走ってる。こっちに来るよ。」

瞬間、角から二つの影が飛び出してきた。

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