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ピエロの誓い

発達障害を持つ僕が周りから認められずそれがきっかけでピエロ(面白い人)として生きていくことを決めた

僕が生まれたとき、誰もが僕を「普通の子」だと思っていた。両親も、先生たちも、友達の親たちも。そして、僕自身もその通りだと思っていた。普通の子が普通に育ち、普通の人間になる――そんなはずだった。


だけど、普通であることが、僕にとってこんなにも難しいことだとは、誰も教えてくれなかった。


小学校に上がった時、僕はクラスの中で浮いていた。別に何か特別なことをしていたわけではない。ただ、みんなが話すこと、遊ぶこと、何をしても、僕はその輪の中に入れなかった。それでも、最初はなんとなく「まあ、こんなこともあるだろう」と思っていた。でも、だんだんそれが続くと、心の中で何かが変わり始めた。


僕が気づいたのは、どうやら他の子たちは僕を普通だと思っていなかったということだった。周りの視線がいつも僕に向けられる。みんなと同じことをしようとするのに、なぜか反応が違う。それが、僕にはとても苦痛だった。


それでも、僕は何とかしようと必死になった。自分を変えなければ、みんなと同じように振る舞わなければ、きっと孤立してしまうと思ったから。でも、いくら頑張っても上手くいかなかった。


そんなある日、担任の先生に言われた言葉が、僕の心に深く突き刺さった。


「君は、他の子とちょっと違うんだよね。」


その一言で、僕は初めて自分が「普通じゃない」ことを自覚した。その日から、僕は心の中で何かを決めた。普通でいることができないのなら、普通じゃない自分をもっと目立たせるしかない。そして、それが周りにどう受け取られようと、僕は自分を守るために何かをしなければならなかった。


次の日から、僕は意識的に「面白いこと」をし始めた。クラスでみんなが笑ってくれそうなことを言ったり、動き回ったり、時には意図的に失敗してみたり。もちろん、最初はみんなが驚いて、ちょっと不快に思っているような顔をしていた。でも、だんだんと反応が変わった。僕が何かをすると、少なくとも誰かが笑う。そんなことが嬉しくてたまらなかった。


笑ってくれる人たちがいる。それだけで、僕はその場で自分の存在を認められたような気がした。そして、だんだんと「面白いこと」をすることが、僕の生きる術となった。


「ピエロのような存在」――そう言われることもあった。でも、僕にとってそれは褒め言葉のように感じられた。みんなの目が僕に注がれる瞬間、僕はまるで舞台の上に立った役者のように感じた。みんなが笑っているその瞬間だけが、僕の居場所であり、僕の全てだった。


だが、次第にその方法にも限界を感じるようになった。面白いことをしているとき、僕は確かに注目される。でも、それは本当に僕を見ているのではない。僕が演じているキャラクターを見ているだけだと、次第に気づいてしまった。僕が演じる「ピエロ」としての自分と、普通の自分とのギャップが、どんどん大きくなっていった。


そして、僕はさらに一歩踏み込んでみようと思った。もっと大きく、もっと目立ってみようと。でも、思いがけず、それが僕の人生を大きく変えることになるとは、当時の僕には想像もできなかった。


中学に上がり、僕の「ピエロ」としての立ち位置はさらに確固たるものになった。だが、その反面、周りとの距離も広がっていった。僕が一番怖いのは、誰もが僕を「面白い奴」としてだけ見ていることだった。誰も僕の本当の姿を知ろうとしない。僕が笑わせるためだけに存在しているかのように思われることが、次第に耐えられなくなっていった。


ある日、友達の一人が言った。


「お前って、いつも笑わせようと必死だよな。」


その言葉が、胸に突き刺さった。それはまるで、僕の存在そのものを否定されたような気がした。僕はただ、周りに認められたかっただけだった。そして、そのために笑わせることが一番簡単な方法だと思った。でも、今その方法がもう限界だと感じていた。


でも、どうしても他の方法が見つからなかった。僕の中で、「面白い人」として生きることが唯一の道になってしまっていたから。


その日から、僕はますます自分を「ピエロ」に徹することに決めた。自分の本当の気持ちを隠し、笑って、周りを楽しませることだけを考えた。それが一番楽だと思ったから。


その代償として、僕は心の中で少しずつ孤独を感じていった。でも、外の世界が僕をどう見るかなんて、もうどうでもよかった。自分を認めてもらうためには、何でもやってやる――その気持ちだけが、僕を突き動かしていた。


あの日から、僕は一度も元の自分に戻ろうとはしなかった。そして、ますます深く、「ピエロ」としての道を歩み始めることになった。


でも、もしかしたら、この道が僕にとっての「普通」への一歩だったのかもしれない。




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