ひとのペース
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リリは昔から太陽のように笑っていた。笑った顔がすごく印象的で、彼女のお母さんの顔にそっくりだった。
リリとは幼稚園からずっとクラスが一緒だったけれど、いつの時もクラスの真ん中にいて発言力の強い子だった。
成績はクラスではいつも1、2位を争うくらいでスポーツに関してもトップクラス、そして何より真面目だった。
その真面目さのせいで、悪ガキの男子達からは煙たがられることもあったけど、なんだろう、母性のようなものが垣間見えて男子達は“オカンが言ってるし、しゃーない”といったような感じでリリの言葉を聞いていた。
どの学年でも学級委員長を務め、絵画コンクールなどでもよく表彰されていた彼女は、本当に将来を有望視されていたんだ、とオモう。
小6のある日の休憩時間。リリはあたしと窓際で話していた。リリは真面目すぎるが故に、いつもあたし達が男子とする“アホみたいなこと”が理解できなかった。理解出来る側の目線から言えば、リリは本当の意味で“天然”だった。後々あたしが出会っていく“人工天然ぶりっ子”とは全く違う、愛されるべきド天然だった。
窓際のカーテンに巻き付き顔だけを出して“てるてる坊主!”と言って、いつもみんなが笑う「ペ◯ちゃん顔」を見せると、彼女は“何がおもろいん?カーテン千切れちゃう。”と、不思議そうにあたしを見たので、あたしはカーテンから抜け出してリリを次期“てるてる坊主大臣”に任命した。
「カーテンに巻き付くとな、なんか楽しいねん!リリもやってみーよ?」
「ええ?!あんたみたいな『ヘンコ』ちゃうからあたしわかれへん!やめてやー。」
「まぁまぁー!ほら!」
あたしはリリを無理やりカーテンの中に入れて巻きつけた。
おバカな殿様よのうにくるくると回すと、リリも“あらー”と言っておバカ殿様の戯れに付き添う側近のように回っていった。
「あはは!そこから顔出したらてるてる坊主やで!」
そうは言っても、元々あたしに無理やり巻きつけられた彼女は顔を出す隙間を見つけることが出来なかった。
「あれ?あれ?てるてるできん!てるてるできん!」
「あっはは!!リリ!それお化けやわ!」
「えー?…ノロッテヤルー!」
「あはははは!!!」
リリが顔も見せずにあたしを手探りで見つけようとするその姿が、面白くて、そして少し愛おしく思えた。
周りに友達がいなかった、ううん、いないか確認していた。みんなこっちを見ていなかった。
「…え?!あんた今なんかした??なんか急に体締め付けられたんやけど?!見えへん!カーテン取ってやー。」
「……ん、。な、なんもしてへんよ!あはは。今ほどくから待って!」
あたしはリリに嘘を吐いた。
何でそんなことをしたのか、判らなかった。
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相変わらずあたしはランちゃんの家でテレビゲームをしていた。
習い事もあったりしたけど、“行かないといけない”ものは行って、“母に事情を言えば休みやすい”ものは何故か簡単に休めた。
後々知ったことだけど、ポップがよく母に電話して、ランちゃんの側にいるあたしに感謝を伝えていたらしい。ポップは口数が少なく仕事も忙しいせいでなかなか“父母のお付き合い”には参加出来ていなかったものの、親の連絡網では信頼度の高い人だった。
母はあたしが“遊びにいく”と言うと普段は“何時までどこのお宅に行くの?”と聞いていたけど、あたしが“プリント持っていく”と言うと、“ランちゃんとこ?行っておいで!遅くなったら迎えに行くからね!”と言ってくれた。
「また負けたー!もう無理やー!ランちゃんに勝てる気せん!」
「ふふ。あんたも上手くなってるよ。で、でも、、お兄さんがイライラする気持ちは分かる….ふふ!」
「あーあたしのこと下手って言ってる!んーもっかい!次は負けへんから!もうその“まん丸ピンク”使うのやめてやー。あたしの“配管工”ボコボコやわ。」
「ふふ。いいけど、何でも勝てると思うよ?そいつ弱いし…ふふ。」
「弱くないし!…でも、“弟”の方が強いんかなー。」
「ふふ!」
いつもこんな会話をしながら何度もあたしの申し出により再戦していた。
(ガチャガチャ…)
「ただいま。あー今日も遊びに来てくれてたんか。もう暗くなるから早よ帰りやー。」
「ポップ!おかえり!」
「はーい。おじゃましましたー。」
ポップの帰宅がその頃のあたしの帰る合図になっていた。
2人が仲良く戯れ合うところをあまり見たくなかった気持ちも少しあった。
玄関先で靴を履きながら彼女に“明日はサッカーあるから来れるかわからへんー”と言うと、
「……、あ、明日、行こうかな、学校…」
とランちゃんが小さい声で言った。
「っっ!!ほんまか!?!!行けるか?!」
あたしが驚くより先にポップが驚いていた。あたしもびっくりして、嬉しかった。
「ほんま!?なら明日学校行く前に迎えに来るから一緒に行こ!」
「…う、うん。がんばってみる…」
あたしはそのまま家を出た。
アパートの階段をおりていると、ポップがあたしを追って出てきた。
「ほんとに、ありがとうね。いつもごめんな。」
大人がこんなにも上からものを言わずに、子どもと同じ目線で放った言葉に、心が温かくなった。
「大丈夫や!ランちゃんはあたしの友達やもん!」
そう言ってあたしはホクホク顔で帰宅した。母から“なんかええことあった?やっと一回くらい勝てた?”と聞かれた。
「明日ランちゃん学校行くって!」
と言うと、
「…そうか、そうかー。よかったね!明日迎えに行ってあげなね!…そうかー。頑張ったね、あんたも。」
そう言ってあたしの頭を深く押さえた。少し母の手が震えていた。
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翌朝、ランちゃんと学校に向かった。
彼女の歩くスピードは学校に近づくにつれて遅くなった。母の言った通りだった。
“あんな、ランちゃんは久しぶりに学校行くの。周りのみんなから『何で休んでたん?』とか聞かれるの1番嫌やねん。わかる?ランちゃんは怖がりさんやから、あんたが守ってあげなあかんで?
もしランちゃんが怖くて怖くて『帰る』って言ったら無理に引っ張ったらあかんよ?ランちゃんにはランちゃんのペースがあるねん、わかったりや?”
あたしは母の言葉を思い出して、歩調を合わせた。わざとらしかったかもしれないけど、自分なりに普通を装って昨日のアニメの話をした。
学校に着く時間が遅くなったおかげなのか、教室までクラスの人に会うことはなかった。
ランちゃんの足取りは教室が近づくにつれてどんとん重くなって、体が震えているように見えた。
「大丈夫?」
あたしが教室の前で聞くと、
「ん、…ぅん。」
と、ランちゃんはあたしの服の裾をギュッと握りしめた。
あたしはそのランちゃんの手を強く握り返した。
あたし達は教室に乗り込んだ。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願い致します。




