心のほどける音がした
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ねえ
あたしにとってのあたしは何なんだろうね?
都合のいい女
暇つぶし
ストレスの吐口
隙間を埋めるもの
ないものねだり
どれなんだろう?どれでも無いのかもね。あなたはいつもあたしの言った答えと違う答えを選ぶから。
でも、
あたしはどんな風に使われても構わない。
あたしだけは、あなたと対等だから。
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中1の冬にレギュラーメンバーのコートにデビューして以来、バスケ部の中で少しずつあたしを取り巻く環境が変わっていった。
それは一言では説明できないほど。
まず、レギュラーメンバーの先輩達はあたしに色々なチームプレイを教えてくれた。時々、レギュラーメンバーしか知らない連携プレイの合言葉を教えてくれた。みんな急にあたしに対して優しく、そして良い意味で厳しくなった。
監督は相変わらず厳しかったけど、よく名指しで呼ばれて指導されることが多くなった。名前を呼ばれると大きく返事をして監督の目の前まで全速力で走って、ビシッと直立した。周りの部活からは「軍隊」と呼ばれるくらいに、そういう習わしがあった。監督はあたしに対して、更に厳しく指導した。これも良い意味だ。
レギュラーじゃない先輩達は、あたしを常に白い目で見ていた。1人の味方も居なかった。とはいえ3人だけだし、取るに足らなかった。この先輩達は、練習中はあたしに対してだけ強いパスや、あたしが出したパスをわざと避けて、こちらがパスミスしたように仕向けていた。練習後は、自分達の片づけ当番の日には必ずあたしを呼び出し、指導するフリをして掃除を全てあたしに押し付けて帰っていった。こんな先輩達に負けたくない、とあたしはメラメラ心が燃えていた。これはあまり良い意味ではない。
そして、同級生のメンバーには、あまり好まれていなかった。決して全員ではないけど、大多数があたしのことを嫌っていらように思えた。入部してから少しの間は仲のいいメンバーもいた。“身長低い組”だ。身長が低くバスケに不利な条件だけど、みんなで鼓舞し合って居残り練習もしていた。その殆どが入部後大きくなって、実質は今あたしとクミの2人だけだった。それでも、そのメンバーで帰りは一緒に隠れて、校則違反ではあるけれど、自販機のジュースを買ってみんなで飲んだ。その瞬間だけ、嫌なことを忘れられた。これは、良い意味だと思っていた。
中1の冬の冬休みが明けたすぐ後。コート掃除を終えて掃除器具を倉庫に戻した後、体育館を施錠し職員室に鍵を届け、あたしは更衣室に向かった。今まで1年の複数でやることが多かったのに、その頃はあたしが1人で全部遂行することが多くなっていた。
静かな廊下。もう19時を回って校舎に残っているのは女子バスケ部と見回りの先生だけだった。更衣室に向かっていると、1年の部活メンバーの声がした。雑談しているのだろう。あたしも彼女達に混ざろうと思って更衣室に向かう足を速めた。
“…あははー!じゃあさじゃあさ!【あの女】のこと嫌いな人手ー上げてー?”
“はーい!”“はーい”“はーい”………
更衣室のドアノブに手を掛けようとして、その手が止まった。
“みんなやーん♪あはは!あれ?クミ!あんたチビ組で仲良かったんちゃうん?!”
“え、え、えーと、…う、ちもあの子のこと、す、すぎちゃうから…”
“そーなんー?やば!あいつ仲間おらんやーん!….めっちゃムカつくわーあいつ、ちょっと練習試合で上手くいったからって調子乗って。今手ぇ上げた子みんなあいつのこと無視なー?あいつ辞めさせよーはは!…それにさ、あいつめっちゃ胸無いやんな!?真っ平らやん!チビのくせに!更衣室来る意味ないやーん!あはは!”
みんながあたしを笑っていた。取り分け1番テンションが高く、周りをまとめ上げていたのは小学校からの友達、と思っていたソラだった。彼女の声があたしの鼓膜を強く刺激した。この会話を聞いた時、身体中が震えていた。何も知らなかった。あたしには味方が居なかった。ここに居るみんなに誰1人悪く接した覚えはないのに、あたしは友達と思った人からも嫌われていた。
そこに居た全員が更衣室から出ていくまで、あたしは非常階段の下で三角座りをして待った。
ソラの声は、彼女が校舎を出てもまだ甲高く鳴り響いていた。それが遠のいていくまであたしは着替えることを待った。
周りに誰も居ないことを確認して、急いで着替えて更衣室を出た。
家に帰っても、誰にも相談出来なかった。みんなは相変わらずテレビの話題や学校の話で笑っていたけど、笑う気にはなれなくて早めに部屋に篭った。
何もやる気にならなくて布団に顔を埋めていた。
“あたしが何をしたん?頑張っただけやのに何でみんなから嫌われなあかんの?クミまで、何であんなこと言うん。友達やと思ってたのに。みんなが嫌うならあたしだって嫌いや。望むところやわ。”
ベッドにうつ伏せたまま30分程経っていた、と思う。あたしの部屋を誰かがノックした。
「ね、なんか学校で嫌なことあった?お母さんに言ってみ?」
母の声が部屋の外から聞こえた。
「んー…何もない」
あたしは枕に顔を埋めながら答えた。
「なんて?!聞こえへんのやけど?!」
母がわざと聞き返していると確信して、顔を上げてドアの方に向けた。
「うっさいねん!なんもないって言ってるやんか!」
「何やのこの子ー……そんな元気あるんやったらもうええわ!帰ってきたと思ったら1人でブー垂れて、あんた何様のつもりなん?!お母さん知らんからね!心配されたくないならそんな構って欲しいような顔見せなさんな!!あほ!!!」
母のわざとらしい程大きい足音は次第に離れていった。
母はこの時、果たして優しかったのだろうか、厳しかったのだろうか。今の歳になって思えば優しいと取れるけど、この年頃の女子にはなかなかに厳しかった、と思う。
(ドン!ドン!)
ドアを少し乱暴にノックする音がした。母はしつこい。鍵なんてこのドアに無いんだから入ってくれば良いのに。
「なんなん!?うっさいっ!」
(…ガチャ……)
「…あ、いや、漫画借りに来たわ。お前あれ持ってたやろ、金色のなんとか…」
兄の白々しい態度に腹が立った。
この兄はあたしをどこまでも馬鹿にする。
「なんやねん!勝手に入ってくんな!早よ出ていってや!きもいねん!」
あたしはまた枕に顔を埋めながら兄に暴言を吐いた。
「…何キレてんのか全っ然知らんんけど、とりあえず5巻くらいまで借りてええか?お前が揃えてる漫画、おもろいの多いから。久々にこれ読みたくなってん。」
「………勝手に持ってってええから、早よ出てって。」
「そーか、。すまんな、借りてくわ。…おれな、この1話目の言葉好きやねん。どこかわかるか?」
「知らんわぼけ。、セリフとかいっぱいあるやんか。」
「●△がさ、周りから虐められてて、パートナーのこいつが虐めつ子から…」
「知らんわ!出てけや!」
いちいち回りくどく説明にイライラした。説教でもする気か?
兄は“あーこわいこわい”と小声で呟きながら漫画を持って部屋を出ていった。
兄が部屋を出ていって数分経った。
うつ伏せたままの体勢が苦しくなって、顔を横に向けた。目線の方向には本棚があった。
兄が借りていったのは、1〜5巻までのはずなのに、1巻だけ残されていて、6巻からの本達にもたれかかられていた。
あたしはその苦しそうな本を本棚から救い出して、何となく1話目を読んだ。
そう、この漫画は主人公の男の子が天才なんだ。あたしとは違う。
本を読み進めると、あたしの好きなシーンが出てきた。
たぶん、兄が好きな言葉は、コレだ。
【●△が変わったんじゃない!●△を見る友達の目が変わったんだ!!】
何度も見たその熱苦しいくらいの友情漫画の1コマが、いつもより迫力を増して見えた。
あたしはそのコマを見て、信じられないくらいに涙が溢れ出てきて、泣いた。声を出しながら泣いた。その夜、家族は誰も構わず、泣いているあたしを1人にしてくれた。
翌朝、朝練に向けて準備をしていた。逃げる気はなかった。
玄関で靴を履いていると、母が忘れていたお弁当を持って見送りに来てくれた。
「ほら、あんた!忘れてるよ!これ!」
「あ、うん。ありがとう。」
「…なぁ、何があったんか知らんけどね、もし嫌なことがあったんやったら、好きになりなさい。」
「好きに?」
「そう。嫌なことを“嫌”のままで終わらせたらそこで終わりやわ。好きになれなくても、好きになろうとする努力はずっとせなあかん。」
「なにそれ?いみふめーやわ」
「あんたのこと嫌がる人がもしいても、それであんたが嫌いになったらそこで終わりやよ?あんたが他人に好かれたいんなら、まずあんたが相手を好きになる努力をしなさい。」
「……出来るかわからんけど、やってみる。」
「大丈夫。あんたがもし世界中のみんなから嫌われてもお母さんはあんたの味方や!あんたがお母さんのこと嫌いになっても、お母さんはあんたのこと大好きやで。ほら、行きなさい!」
-心のほどける音がした-
「……いってきます。」
「よし!いってらっしゃい!ファイトやー!」
エナメルバッグを肩から斜めに掛けて、あたしは走った。その日は走り込みの練習がある日なのに、今走りたくて仕方がなかった。涙で前が滲んで、上手く見えなくて、でも走らずにはいられなかったんだ。
お読みいただきありがとうございます!
これは誰でもある誰かの物語です。彼女がいきた道を見守ってあげてください。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願い致します。




