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蝙蝠の歌 -mintdrop-  作者: u
58/62

名前




-10513##-




【70-36】


「…もう後半やのに、これだけ点差ついててもレギュラー変えへんねんな。」


「ほんまに。相手チーム可哀想やわー。」


サワさんとルカさんは悲しそうな顔で試合を観ていた。

赤川高校の相手はそれなりに有名な私立高校だったけど、どう見ても実力の差は明らかだった。


「…どうでしょうね?今コートにいるのがレギュラーなのか、それとも今決めてる最中だから変えてないのかも知れませんね。それに相手は予選勝ち抜いてきたチームで、赤川は今大会の初戦ですし、気は抜けないんでしょう。たぶん、4クォーター目には全員変わってるんじゃないですかね?」


「…じ、ジジ。あんた、なんか解説者みたいやな…。」


「え、え?!そんな!思ったこと言っただけですよ!!」


「……それにしてもすごいな、あんたの先輩ら。2年でもうレギュラー2人おるって、ニシオリと…あれ?あの人が元キャプテンやったっけ?」


「…そうですね。“ヤシロアカネ”先輩です。」


「へぇ。すごいな。あの2人。それに日本代表…あれが3年で良かったわ。シュート決めまくってるやん。」


「……正直、日本代表の人はあんまりですね。」


あたしは天狗になったつもりはなかった。ただ単純に感想を言っていた。


「はぁ?!だって、得点の半分以上あのC(センター)やんか!?」


「…んー、まぁ、あれだけ身長高ければ当たり前かなって。ただ背が高いだけで、特に上手くは見えませんよ?身長も才能だとは思いますけど…。」


「へ、へぇー…そういうところちゃんと見てるんや…。」


「……間違いなくマコ先輩がこのチームの中心です。あの人のおかげで日本代表の人がシュート決められてるって感じですね。」


「マコってニシオリ?!あの子何なん?!PG(ポイントガード)行ったりSG(シューティングガード)行ったり、何でもできるん?!」


「…はい。何でもできます。…正直、マコ先輩は異次元に上手くなってます。」


「はぁー、あんなんに勝てるかー?ぶっちゃけ私はかなり凹んでるわ、、。」

「ウチもやよ、サワ!勝てる可能性なんて無いんちゃう?!」


「……どうでしょうか。2人は、この試合の得点のほとんどの原因って何かわかりますか?」


「え?それはニシオリがズバズバ抜いて日本代表にパス出してるからやろ?」

「ウチは、全員の能力の高さかなって…。」


「…そうですね、両方合ってます。…でも、赤川の点差の原因はほとんど相手高校のパスミスから始まってます。」


「あ、…それはそうかも。」

「確かに。」


「ミスを少なくしてたらもっと点差は無かったはずなんです。それに、個々の能力は高いかも知れませんけど、チームワークはあまり良くなさそうです。やっぱり強いところに行くと、レギュラー争いとかで大変なんでしょうね。あと……」


「ん?あと、何?」


「…たぶん、今の赤川の穴は…アカネ先輩です。」


あたしの心が少しチクリとした。でも、嘘をついたわけじゃ無かった。


「は、はぁ?!あんた自分の先輩を悪く言うん?!」


「…悪くというか、客観的に見た意見です。チームについていけてない感じがします。視野の広さならサワさんの方が上だし、パスの正確さならルカさんの方が上です。」


「……私達にもあんな選手達に勝ってるところがあるんや…。」

「嘘みたい…。」


「…ただ、アカネ先輩は負けず嫌いですから、急に伸びる可能性はありますけどね。今話してるのは現状の話です。……でもマコ先輩は…弱点なんて見つかりません。怖いくらいに上手い。」


「……そうやんな。」

「…う、ウチらが見てもわかるもんな。」



そんなことを話しながら試合を観ていると、得点したマコ先輩が観客席をキョロキョロと見ながらディフェンスに戻っていた。

そして、あたしと目が合った、気がした。



「………。」


「…………あ、」




マコ先輩は右手の小指を立てて唇に当てた。


あたしは咄嗟に小指を右目の下に置いた。


彼女は、少し笑った気がした。



「ん?今こっちの方見てた?ジジ、あんた気付いてもらえたんちゃう?」


「えーと、ど、どうですかね?気のせいかも。」



あたしは話を誤魔化した。





第4クォーターに入ると、思っていた通りに控えメンバーが出てきた。その中にはモネ先輩もいたけど、あまり興味は湧かなかった。隣のコートの試合を観ていると、元監督が帰っていく姿が見えた。


その日の試合が終わった。ルカさんは“早く家に帰らないと”と言って1人で帰って行った。

あたしが体育館の入り口で、半信半疑でマコ先輩を待っていると、サワさんが横にいてくれた。



「ジジ、帰らんの?」


「あー、少し待ってる人が…来るかわかりませんけど。」


「何それ?なんかよくわからんけど……私達が赤川に勝つにはもっと頑張らないとなー。インハイにも行かなあかんのに。」


「…サワさんは、なんでインハイにこだわるんですか?」


「んー?だってかっこいいやん!!」


「あ…ははは。」



体育館の自動ドアが開いて、赤川高校の制服を着た部員達が出てきた。


あたしを見つけるや否や、アカネ先輩が話しかけてきた。


「お!あんた観に来てたんか?!久しぶりやん♪元気か?!」


「お久しぶりです、元キャプテン!試合観てました!レギュラー、さすがです!」


「たはは…元キャプテンはもうやめてやー。まだレギュラーになれるかもわからんギリギリのところやけど、私達なりに頑張ってるわ!な!モネ!?」

「うん、、久しぶりやね。またね。」


モネ先輩は少し寂しそうな顔をしていた。上手く言えないけど、気持ちはわかった、と思う。


「はは…モネも少し悩んでてさ、素っ気ない態度は許したってな?…それより、マコのこと待ってたんやろ?」


「あ、……はい。」


「あの子、地元の新聞のインタビュー受けてるからちょっと待ってたら来ると思うで?……それより、あんたの隣にいるのは誰?なんか私のことめっちゃ睨んでるんやけど…。」


横を見るとサワさんがメラメラと目を燃やしてアカネ先輩を見ていた。


「わ、私は!この子の今の先輩のサワ!アンタ達と同い年や!絶対に負けへん!赤川に勝つからな!この子の目標や!」


サワさんはそう言ってあたしの頭を押さえつけた。


「さ、サワさん!それは…!」


「………ぷっ!はははっ!!!あんた、いいチームメイトと出会ったね!最高やん!試合できるの楽しみにしてるわ!!!……サワ?とか言ったね。私達に啖呵切ったんなら、県大会まで来るくらいはまず実力つけや?」


「…お、おうよ!当たり前や!アンタがどれだけすごいか知らんけどな!私は負けへん!!」


「はははっ!ほんまに良いな!仲良くなれそうやわ!…待ってるわ。この子のこと、よろしく頼むで?ヘンコやけどな?」


「そんなん知ってる!ヘンコなんは!」


そうやって2人は意気投合した後、アカネ先輩は帰っていった。



「……サワさん、またあたしのこと変って言ったー。」


「あはは!良いやろー?ほんまのことなんやし!」


「もぉ……」





「……お待たせ。」



よく知っている声があたしの耳に入った。


声のする方には、前より髪の長くなったマコ先輩がいた。



「マコ先輩!」


「……覚えてたんやね、合図。」


「……忘れるわけありませんよ。」


「……わたし達は自転車で試合会場に来るの止められてるの。あんたは?」


「え、自転車ですけど…。」


「……じゃぁ、後ろに乗せて。2人乗りして帰るぞい。」


「え?でも、雨が…」


「……すぐ止むよ。水星の電波がそう言ってる。」


「…ふふっ♪了解です!」


「……オゥケィ?」


「はい!おーけーです!」



あたしはいつかみたいに警察のように敬礼した。



「…に、ニシオリ!」


あたしの隣にいたサワさんが急に声を上げた。


「………?」


「あ、あの!この人は、あたしの高校の先輩で…!」


「私の名前は…」





「……イサワトワコ。」



マコ先輩はサワさんの本名を言った。





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