雨の日の自転車
-10513-
高1の6月中頃の休日。梅雨前線の影響で雨がよく降る日が続いた。
雨の日でも野外の部活動と違って、女子バスケ部の練習はいつもの体育館で行われた。
休憩中に聞こえる雨の音が心地よく感じながらも、ジメジメとした湿気に嫌気がさした。
その日は午前中だけの練習にした。あたしは行きたいところがあったんだ。
練習後、あたしは更衣室で少し急いで着替えをしていた。
「ジジ、あんた中央体育館に行くんやろ?」
サワさんがあたしに声をかけた。
「え?あ、はい…。」
「今日からやもんな、赤川が大会に出てくるの。県大会のシードって羨ましいわー。あんたの先輩らも試合出るん?」
「ですよね。さすがシード校って感じです。先輩達は、、出るのかな?3年の中にはジュニアの日本代表とかもいたはずですし…。」
「まぁニシオリは間違いなくレギュラーやんな。あの子1年の時からレギュラーやし。」
「マコ先輩のこと知ってるんですか!!?」
「そ、そんなに驚く?知ってるも何も、私達の代の女子バスケ部ならほとんど知ってるんちゃう?県内で有名やで?」
「そっか…そうですよね。」
「体育館の観客席からしか見たことないけどなー。……あ、それで試合観に行くんやろ?私達も行くで?」
「サワさんも行くんでね!」
「私だけちゃうよ?ルカも行くから。」
「ルカさんも!ならみんなで一緒に行きましょう!」
「おお!いいね!ルカー?ジジもやっぱり中お体育館行くんやってー。」
「へー!なら行こう!ウチも自転車やから、ゆっくり傘さして行っても20分くらいで行けるし♪」
遠くの方でルカさんが着替えをしながら返事した。
「ルカさんと一緒に行けるの嬉しいですー!」
「おい、私は?」
「え?だってサワさんは電車通学でしょ?体育館で待ち合わせすれば……」
「私も一緒に行かせろ。」
「え?だって雨の中走るのって…」
「あんたのチャリ、後ろに荷台あるやろ?2ケツしやすいようの。」
「え?」
「私をそこに乗せろ。傘なら後ろからさしたる。」
「え?……る、ルカさんの後ろに….」
「ルカのチャリには荷台ないねん。」
「えっと……。」
着替えを終えたルカさんがあたし達のそばに来てくれた。
「はいはい!サワ!文句言わないの!雨やと2人乗りなんて危ないでしょ!黙って電車で来なさい!」
「ルカー。だ、だって私も話しながら……」
「何ヤキモチ妬いてんのよ!ほんまにアホやわー。ジジ、こんな子ほっといて早く行こ?試合始まっちゃうよね!」
「は、はい!」
サワさんは駐輪場まであたし達についてきたけれど、痺れを切らせたルカさんが一喝すると渋々駅の方に歩いて行った。
あたしはルカさんと2人で体育館に向かった。彼女と2人になるのは初めてな気がした。
「ごめんなー?サワって超めんどくさいよねー。」
「い、いえいえ。あはは…。」
「…あんたがバスケ部に来てくれたの、すごい嬉しいみたい。あ、もちろんウチもやけどね?」
「そ、そんなにですか?」
「そうやねー。…ずっとあの子は本気やったから。…ウチとしては本気じゃなくても良いと思ってたんやけどね。あの子見てたらどうしてもあの子についてあげたくなっちゃって…。」
「そうなんですね。」
「…あの子は、3年生が笑いながら練習してるの見て“こんなんじゃインハイ出られへん”ってずっとぼやいてた。こんな公立がインハイなんか出れるはずないってみんな思ってるのに、あの子だけ本気なのよね。それで、あんたがここに来るって噂になった時、すごい喜んでた。“この部活で下剋上する”って。」
「あはは……あたしにそんな力があるなんて…」
「ウチもサワもそう思ってるよ?あんたについていけば良い風景見れると思ってる。だから、ウチだって今体育館にライバル校を偵察しに行ってるんやで?相手はライバルなんて1ミリも思ってないやろうけど♪」
「そうですよねー……。」
「…もう少し、ジジは自信持ったほうがええよ。」
「……はい。」
「あんたは優しいし、甘ったれやからねー。ふふ♪」
「そ、そんなことないです!」
「…ディフェンスに特化させて、自分1人で攻撃全部やるつもりやのに?」
「そ、それは!」
「もう少し頼ってくれても良いやんかー?」
「……攻撃は1人でもどうにかできるんです。」
「……え?」
あたしはこの時、ルカさんにだけは本音を言おうと思った。
「……攻撃は、誰かがサボっても1人が頑張って中に切り込めれば得点できるんです。でも、ディフェンスは誰か1人がサボったらそこから全部崩れていく。だから、あたしはディフェンスが好きです。全員で守れた時は、みんなと繋がった気がします。」
「……そっか。あんたはそういう子やもんね。」
「そ、そういう子って……?」
「ディフェンスはみんなで喜ぶ代わりに、オフェンスに関しては自分がボロボロになっても周りのために点を取りに行くんやもんね。」
「そ、そんな良いものじゃないですよ!」
「…ううん。すごく良いことやと思うよ?尊敬する。でも、少しあんたが心配やよ。」
「心配?」
「…あんた、もう少し自分のことも大事にしてあげや?」
中学時代、ソラから言われた言葉と同じようなことをルカさんは言った。
あの時ソラの言っていたことはあまりわからなかったけど、今はもう少しだけわかった気がした。
「…はい。」
そんな話をしている間に中央体育館に着いた。ここに来るのは中学生ぶりだ。
サワさんはまだ来てないみたいだ。でも、彼女を待つことよりもあたしはいち早く中に入りたかった。
あたしはルカさんを残して1人で体育館に入っていった。
お読みいただきありがとうございます!
雨天時の傘をさしての自転車走行は非常に危険です。2人乗りなんてもってのほかです。
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とは言え、読んでいただけるだけで幸せです。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。




