“攻め”について
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リコの柔らかい唇はあたしの口に優しく当たった。
驚き過ぎたのか、動けなかった。
そんなあたしを気にせずにリコはキスを続けた。口の中に舌が捩じ込まれたところであたしはリコの肩を持って顔を離した。
「……リコ?どうしたん?」
「バァバァ…ご、ごめん…。」
「………。」
「……自分でもわからへんねん。さっき、わたしのために泣いてくれたあんた見て…めっちゃ好きやなってなった…。友達としてやと思ってるんやけど、なんか…….ごめん。」
「………。」
「…ひ、引くよね?大丈夫…。マネージャーまで辞めるつもりはないから…。ただ、できたら今のは内緒にしてほしい…。」
「……リコって、その…女子がすk…」
「ちゃう!ちゃうねんって。普通に彼氏いたこともあったよ!こんなん初めてや…。」
「そっか…。」
「………。」
「………あたしは、初めてじゃないよ。」
「……え?」
「あたしは、女子とキスしたの初めてちゃう。…だから引かへんよ?」
「そ、そっか…。モテそうやもんね、ジジ。」
「…なんでなんやろうね…。」
「…かっこいいもん…。」
「……さっきの話も内緒にしてくれる?」
「当たり前やんか!誰にも言わへんよ!」
「…ありがとう。なら今日のことは全部内緒やね。」
「…うん。」
「2人だけの秘密…。」
「なんでそんな変な言い方するんよ!」
「だから、大丈夫やよ?」
あたしは腕を広げた。
「リコ、おいで?」
「…うん。」
(ガバッ…)
「今日だけやからね?」
「……うん…。」
「いっぱいぎゅうしてあげる。」
「……クセなっちゃうからあかんよ。ふふ♪」
「へー?じゃ、やめる?」
「…ジジの意地悪…やっぱり“攻め”が好きなんかもねー。」
「シュートは下手やけどね。はは!」
「ふふ♪」
その後、あたし達は何度かキスをして倉庫を出た。
リコは翌日からマネージャーの仕事を学び始めた。全員分の水分を用意したり、タイムを測ったり、その中でスコアの付け方をあたしに聞いたりしていた。
まるであの夜のことはなかったみたいに彼女は普通だった。あたしに特別な目を向けるでもなく、みんなとも普通に会話をしていた。たぶん、彼女は強いんだろうなと思った。
数日後、新たに同じ学年の女子マネージャーが2人入部した。リコは少し多すぎるとも見える3人体制のマネージャー陣で、仲良さそうに話していた。
-10500-
高1の6月。3年生が引退してから初めての練習試合の日が来た。
相手も公立の深田高校で、南山とは勝ったり負けたりを繰り返しているくらい実力は均衡していた。だが、学力に関しては圧倒的に深田高校が上だった。そして、そのバスケ部にはクミがいた。
試合前に、あたしはクミに話しかけた。
「クミ!!」
「わぁ!久しぶり♪元気そうやん!」
「うん!クミも変わらずやね!ちょっと背伸びた?」
「えへへ、少しね!初めてあんたと戦えるわ。楽しみやわ!」
「あたしも!」
(ジジー!集合!)
遠くからサワさんがあたしを呼んだ。
「はーい!今行きます!」
「…….ジジ?」
「ん?あー、あたしのコートネームやよ。」
「…へぇー?ジジかぁ…あんたにお似合いやね♪」
「な、なによそれ!?」
「ふふ♪早くベンチ行っておいて、ジジ♪」
「…もう!クミはいっつも意味わからへんねん!」
あたしはそう言い残してみんなの元に向かった。
サワさんは、キャプテンになってから初の練習試合ということもあって、かなり気合が入っていた。
「今ジジと話してた子、SGやろ?」
「はい。シュートはあたしよりも断然上手です。」
「そうか…まぁ、ジジが教えてくれたことちゃんとやってたら守れる気もするわ!みんな、いける?」
(はい!!)
そして、深田高校との練習試合が始まった。
-10500#-
試合は常にこちら側のペースだった。サワさんを筆頭に、コートにいるメンバーは練習通りに守りを固め、パスミスも少なかった。
あたしはそれに応えるように攻めを頑張った。あたしについたクミのディフェンスを潜り抜けて、いろんな人にパスを出した。
試合終了の笛が鳴った。
21-55
あたし達は快勝した。
「よし!!!よしよし!!私達は強くなってる!試合の方が練習の何倍も楽に思える!すごいよジジ!やっぱりあんたはすごい!!」
「いや!みんなが頑張ったからですよ!ディフェンスはもう完璧でした!練習通りでしたし!ミスも少なくて、良い感じです!」
「そんなことより、あんた!どうやったらあんなに周りにパス出せるんよ!?パス来ても全部取りやすいし、フリーやし!」
「あはは!パスだけは自信あるので…!」
「こんのヤロー!!!♪」
サワさんはあたしの頭をわしゃわしゃしてくれた。
よほど、嬉しかったんだろうな。
「あはは……どうでした?あたしからパス受けてシュート決めた気分は。」
「…….まぁまぁ。」
「あ、そうですか…。」
「嘘言わないの!サワ!!嬉しいくせにー♪」
ルカさんが笑顔でサワさんを突き飛ばした。
「いてて…そうやな、まぁ…あんなパスもらったら決めなあかんよな…。やっぱりすごい綺麗なパスやった。……すっごい気持ちよかった…。」
珍しくキャプテンが真剣な声で笑っていた。本当に嬉しかったんだ。
「…なら良かったです。あたしはそういうみんなの顔を見るのが好きです。」
「…はぁ?自分がシュート決めた方が楽しいやろ?」
「いえ!あたしは、自分がシュート決めるより、みんながシュート決めて喜ぶ顔見るのが好きですよ!」
「……へぇ。」
「…あれ?変なこと言いましたか?」
(ジージー!!)
向こうベンチの方からわざとらしくあたしのコートネームを呼ぶ声がした。クミの声だ。
「あ、あの!少し話してきても良いですか?!」
「ん?あ、あぁ。いいよ?行っておいで。」
「ありがとうございます!」
あたしはクミの方へ走っていった。
「…なぁ、ルカ。」
「…ん?なに?」
「やっぱりあの子、変よな?」
「そうやねー。自分のことよりも他人の笑顔が好きなんやろうねー。」
「…そうやな。」
あたしがクミに近づくと、彼女は笑顔と少しの睨みをあたしに向けていた。
「クミー!今日はありがt…」
「なんなんあれ?!めっちゃみんな上手いやん!!全員中学からやってた?!」
クミは悔しそうな顔をしていた。
「い、いや、ほとんど高校から始めた人ばっかりやで?」
「ほんま?!信じられへん!!ディフェンスめっちゃ嫌やったわ!中学の時のうちらみたい!!…あんた何かした?」
「あー…はは…。みんなにあの頃の練習を……。」
「やっぱりー!!そりゃ上手くなるわ。それにしても、よくそんな練習できるね。辞める人がほとんどやと思うけど。。」
「…そうやんね。みんなが必死に後輩のあたしのこと信じてくれてるから。」
「…ふぅん?良いな良いなー!うちも南山行けば良かった!ふふ♪ひょっとしたら赤川に痛い目見せられるかもね!」
「あはは!痛い目見せるためにやってるからね!」
「…あんなはすごいね。カッコいい。」
「……ありがとう。」
「でも!次は負けへんからね!」
「うん!当たり前!次も本気やからね!」
「……ただ、赤川と戦ったら…」
「何よ?クミ?」
「マコさんとのことまた教えてなー?あはは♪」
「う、うるさい!クミは興奮し過ぎて次の日休むから言わへん!」
「休まんしー!ふふ♪」
「あはは!」
あたし達の初試合は、快勝という形で幕を閉じた。
部員のみんなが、練習の成果を実感してくれていたことに関しては、嬉しかったのと、それ以上に安心した。
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