バスケの話
-10487-
高1の5月。高校に入学してから1ヶ月と少しが経過した。
南山高校の雰囲気はあたしにすごく合っていたみたいで、ほとんど悩みも抱えずに高校生活を過ごしていた。クラスメイトとも仲良くなって、毎日が笑ってばかりだった。
女子バスケ部にはあたし以外に8人の入部希望者が現れた。その内2人は中学からの経験者で、あとは未経験者だった。
経験者の2人とは中学時代対戦した記憶は微かにあって、あたしがその2人に話しかけにいくと、“なんであんたがここにいるの?!私立の強豪校行くと思ってた”と驚かれた。周りの子達はその様子を見て、あたしがとんでもない選手だと勘違いして、初めはかなり怖がっていた。
サワさんやルカさんからは、“1年がする基礎練習はやらなくていいから2、3年の練習に混ざって”とお願いされたが、それを断ってみんなと一緒に基礎練習をした。未経験者のみんなはあたしに慣れてきたのか、色々とコツややり方を積極的に聞いてきてくれて、少しコーチになった気分でみんなにそれを教えた。段々みんなと仲良くなっていった。
基礎練習をしながら2、3年の練習風景を見ていた。見た限りだと3年生よりも2年生の方が上手い人は多かった。中でもサワさんとルカさんは高1からバスケをしたとは思えないくらい上手だった。
未経験者の中にあたしと同じクラスの子がいた。その子のコートネームはあの漫画の監督の名前から取って“アン”になった。アンは背が高くて、バスケは未経験だけど中学時代バレーボールをしていたからジャンプ力も高かった。彼女はきっとCに向いているんだろう。人柄も穏やかで優しくて、どこかユーモアもあってあたしはクラスにいる時もよくアンと話すことが多くなった。
高校の部活は大会が始まるのが早くて、5月の中頃から3年の先輩達にとって最後の大会が始まった。
バスケでは秋口から始まるウインターカップで引退にすることもできたけれど、ウインターカップに残るのは大体バスケの強豪校の3年ばかりで、大学受験に向けて夏の大会で引退するのが普通だった。
先輩達は三回戦で敗れてしまった。試合中、負けていても笑いながらプレイしたり、冗談なのかあたしを試合に出したり、引退を知らせる試合終了のホイッスルが鳴っても“おもしかったー”と言ってベンチに帰ってくる3年生達を、楽しそうで良かったと思いつつ、心の底では好きにはなれない自分がいた。
早々と着替えを済ませて帰っていったく3年生達の背中を見ていた。
「ジジ、安心しなよ。」
後ろから声がした。
「……サワさん。それに、みんなも…。」
「私達はあんな風にはなる気はないよ。」
「え?あ、あんな風って?」
「…あんた、ああいうの見てどう思う?」
「えーっと…楽しそうで良いなって思います。本人達が満足なら、それで良いかなって。」
「…なら、自分やったら満足できる?」
「……できないですね。だって、悔しいですし、必死で頑張ってきたんやから、そんなにあっさりとは…。」
「…やんな。私もそう思う。要するにあの人達はそんなに必死じゃなかったんよ。」
「…まぁ、でも強豪校ってわけでもないですし、思い出作りの部活ですもんね。」
「…私は、やるからには本気でやりたい。思い出作るなら必死で作りたい。…ジジは、どんな思い出作りたい?」
「……あたしは…。」
この時答えはもうわかっていた。けれど、それを言う勇気が足りなかった。
「…ジジ、笑わんから言って良いよ?なんか目標あるんやろ?」
「………あ、あたしは、どうしても勝ちたい高校があります。」
「へー?いいやん!どこ?」
「赤川!」
「………はぁ?」
(ドッ…!!)
2年生を中心に周りにいた部員が一斉に笑った。
「あはははは!ジジ!あんたそれ本気?!」
「ほ、本気ですよ!!笑わないって言ったのに!!」
「ごめんごめん!あまりにも良い目標やから!あはは!まぁ、赤川に勝てたらインハイも見えてくるな!」
「あたしは、まずは赤川に勝てたら良いんです!今2年の先輩達がいる間に!」
「…あー、それって、自分の中学時代の先輩と戦って勝ちたいってこと?」
「はい!あの人達に勝つことだけ考えてます!」
「……みんな聞いた?この子やっぱり少しおかしいわ。」
周りはみんな深く頷いていた。
「……でも、超カッコいいな。この子の目標叶えるなら相当頑張らなあかんで?」
「ジジだけじゃないでしょ?結局サワの“インターハイ出場”っていうもっとアホみたいな目標叶えるためなら、やること一緒なんやから!」
ルカさんが笑いながら言った。
「あはは…そうやな。ってことでさ、ジジ。これからは今までみたいなヌルい練習じゃあかんのよ。」
「……?はぁ…。」
「私は2年のみんなから次のキャプテン任されてる。副キャプはルカ。」
「え?あ、そうなんですね。」
「そう。で、バスケ部の監督って試合に顔出すだけで基本放任主義やん?」
「まぁ、あたしも監督の顔見たのこの大会が初めてでしたね。」
「練習メニューも代々受け継がれてるものを繰り返してるだけ。それじゃぁ強くなれるわけないやん?」
「あ、あの、何が言いたいんですか?」
「1年の子達、みんな上達早いから理由聞いたらな?“ジジが教えるの上手くて上達した”って口揃えて言うんよ。」
「……え?もしかして……。」
「頼む!ジジ!!あんたが中学で教わってきた練習教えてくれ!!私達のコーチになって!!」
「え、えぇ?!!絶対に嫌ですよ!!先輩達に指導するなんて!!それにサワさん達十分上手いじゃないですか!?」
「じゃぁ、あんたはこれで赤川に勝てると思う……?」
「そ、それは……。」
「な?頼むってー!厳しくしてくれていいから!」
「き、厳しくとか余計無理ですよ!」
「ちなみに、2年のみんなはもうあんたに教えてもらう気満々やからな?」
サワさんの後ろで先輩方が目を輝かせていた。
「うっ……!そんな勝手な…。」
「…私だってな?後輩にこんなお願いするの、好きなわけちゃうんやで?でも、強くなりたい。もっと上手くなってみんなで最高の思い出作りたいから、あんたに無理言ってる。ダメかな?」
「……練習時間、普段より伸びちゃいますよ?」
「おお?!そんなん私は全然!みんなは?!」
「あ、あのジジ。伸びるってどれくらいかな?」
ルカさんが恐る恐るあたしに尋ねた。
「そうですね…30分〜40分くらいですね。」
「それなら!」
周りのみんなも頷いていた。
「………あと、基本はディフェンス練習だけになると思います。」
「は?いやいや!なんでそうなる?!」
「今から攻めも守りも上手くなるなんて、たぶん時間が足りません。点の取り合いなんかしたら、負けるのが目に見えてます。それならできるだけ相手の得点を抑えて競り合いに持っていくディフェンスを中心にしていくべきです。」
この考え方は今生まれたものじゃなくて、元々あたしの中学時代の監督の考え方がそうだった。今自分で口にして、監督の言っていた意味を本当に理解した気がした。
「言ってることはわかるけどさ!そしたら点取れないやん!??」
「もちろん基本的なシュート練習はしますよ?それに、ディフェンス練習するとなったらオフェンスも必要ですし。ただ、攻めに対する練習の比率がすごく減って、つまらなく感じるかも知れません。楽しくしたいなら、今の方がいいかと。」
「いやぁ、それで強くなれるなら…頑張るけどさ、やっぱり攻めが不安やわ。シュート練習だけやと敵のディフェンス突破できるか……。」
「大丈夫です。あたしがみんなをフリーにしてパス出します。」
なぜかそこだけは自信満々に言えた。
「……あはは!!!やっぱり超カッコいいやん!惚れてまうわ!」
サワさんはあたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。懐かしい感じがした。
彼女は言葉を続けた。
「よし!それなら明日から早速練習するで!よろしくな、ジジ!」
「は、はい!やれるだけやってみます!」
なんとなく、あたしがコーチを引き受けたのは、このチームメイトに囲まれていたからだと思う。チーム一丸となって下から上を目指す感じが、昔読んだ野球漫画みたいに思えた。
そして、漫画みたいに必ず赤川に勝てる気がした。
お読みいただきありがとうございます!
この話も遂に50話目まで到達しました。正直ここまで長くする予定はなかったんですが、なんとなく彼女のことを思い出すと、話が長くなってしまいました。できるだけ早く終われるようにしたいですが、少しの名残惜しさもあるので、私なりのペースでゆっくりと書いていこうと思います。
ここから少しだけバスケの話が続きます。少し退屈に思うかも知れませんが、彼女にとっての大切な1ページですので、どうかお付き合いください。
もし気に入っていただけたら、ブックマーク、評価、コメント等よろしくお願いします。
とは言え、読んでいただけるだけで幸せです。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。




