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蝙蝠の歌 -mintdrop-  作者: u
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“ジジ”



-10457-




高1の春。南山高校に入学した。

あたしが思っていた以上に南山高校の居心地はよく感じた。それなりに学力の良い生徒が通い、それなりに部活動にも力を入れている。“文武両道”を掲げた校風は嘘ではなかった。



高校に入学したその日に女子バスケ部へ行くと、体育館に入ったあたしを見て先輩達がざわざわしていた。



(あの子って、例の中学の?)

(ほんまにこの学校来たんや。わざわざ推薦蹴りまくったらしいで?)

(あれがサワの言ってた期待の新人?)

(ウチ去年見たで?ウチらよりも上手かったわ…)

(思ってたより身長はないんやね。あれで県選抜に選ばれたん?嘘らやろ?)

(プレイ見てないのにそんなこと言いなや!)



小声で話していたつもりだけど、あたしの耳には確実に入っていた。



(ダダダダっ……!!)



あたしに向かって猛ダッシュで駆け寄ってくる女性がいた。



「おおー!!!あんたが例の…!待ってたで!?ほんまに私達の部活に来てくれたんやね!!」


その短髪の女性はあたしの両肩に手を置いて前後に揺さぶった。


「あ…え?!ど、どういうことでますか?!」


「ちょっとサワ!いきなりやめてあげなよ!」


あたしを揺さぶる女性の後ろを追いかけてきたもう1人の先輩らしき人が、彼女を押し止めていた。



「あ、あー!ごめんごめん!やっとあんたと話せて嬉しくてさ!!」


「は、はい?」


「ごめんなー?サワがいきなり…。」



なんとなく、一見して彼女達の関係は中学時代の元キャプテンとモネ先輩のように思えた。



「あ、あたしと話したかったって…?」


「話したかったよー!当たり前やんか!」


「……??」


「ごめんな?サワは、あんたのファンやねん…。」



何を言われたのか意味がわからなかった。



「…はい?なにを言ってるんですか?」


「ご、ごめんな?!わけわからんよね?…この元気な子が2年の“サワ”。ウチも2年の“ルカ”。よろしくね?」


「あ…….よ、よろしくお願いします…。」


「ルカ!!アンタばっか喋んなし!私だってこの子と話したいの!!」


「はいはい。あはは♪ウチらはな?高校からバスケ始めたんやけど、去年中学の大会観に行った時に、あんたのプレイ見てサワが一目惚れしちゃってさ…。あんたがこの学校に来る噂聞いて、一緒にバスケできるの楽しみにしてたんよー。」


「だから!ルカは喋り過ぎ!!」


そのままサワという先輩は顔を赤くしてあたしに話し始めた。


「え、えーと…私は“サワ”!あんたとプレイするのをずっと楽しみにしてたんよ!…あんたのために、私達の代にはPGを用意してない!一緒にバスケしよう!」



高らかにそう言う彼女が、少し可愛く見えた。



「……えっと、サワ先輩とルカ先輩…。よろしくお願いします…。」


「そ、そんな!コートネームに“先輩”なんかつけなくて良いんやって!“さん”とかでいいよーえへへ♪」


サワ先輩は恥ずかしながらそう言った。



「……あ、ここって“コートネーム”使ってるんですか?」




“コートネーム”というのは、特に女子バスケ部やバレー部に使われているもので、対戦相手に名前を悟られてプレイを予測されないように、チーム内でだけ使用されているニックネームのようなものだった。

中学時代も相手がそれを使用していたことはあったけど、あたし達の監督は“いちいちややこしい”という理由で使用していなかった。あたしは中学時代、部活内だけ別の名前がつくということに少しだけ羨ましさを抱いていた。



「ん?当たり前やろ?!コートネームってなんか、かっこいいやん?」



サワ先輩はそう言い放った。それに捕捉するようにルカ先輩が話し始めた。



「えっとね、ウチらは使ってるんよ。こうでもしないと相手に色々バレちゃうしね?」


「へー……。」


「安心しな!!あんたのコートネームは私がもう決めてある!!!」


「こ、こら!サワ!こういうのはみんなで話し合って決めるもんやろ?!」


「んー?良いんやって!この子の名前は私が決めたいんやから♪」


「………あの、間違ってたらごめんなさい。先輩達のコートネームって、、漫画から取ってます?」


「お?…おー!!わかった?!?この部活のみんな、大体“あのバスケ漫画”読んでるんよ!!私は“サワキタ推し”やからサワで、ルカは…まぁ言わなくてもわかる?」


「あはは!はい!なんとなく、ユニフォームも赤と黒のブルズみたいなのでしたし、好きなんかなって。」


「えー?!あたし達のユニフォームの色まで覚えてるん?!さすがやな……。まぁ、あれはユニフォーム作った先輩達の趣味やけどねー♪それにしてもNBAとかも見るんやなー。」


「少しだけです。そんなに詳しくないですよ?でも、あの漫画は好きなんで…そういうコートネーム羨ましいですね。」


「……ん?あんたのは違うよ?」


「………え?」


「ふふふ…!私が必死に考えたあんたのコートネームは……“ジジ”!!これしかないね!」



彼女はしたり顔であたしを見つめた。



「………え?」


「ほらー!サワは名前つけるセンスないんやからやめときって言ったやんか!この子嫌がってるやん!!」


「……あ、あの、嫌がるとかの前に…なんでですか…?」


「え?だって、あんた“魔女宅”の主人公に似てるやん?」


「……あ、あのぉ、似てるのって髪型だけかと…。あと、それなら“キキ”じゃないですか…?」


「いやぁ、私もそう思ったんやけどさ!なんか“キキ”って呼びにくくない?それに、あんた猫っぽいし!」


「猫……初めて言われました…。」


「まぁ、声はどちらかと言えばキキみたいやけどね!はは!」


「……それ低い声って意味ですか?」



あたしは昔から自分の低い声が好きじゃなかった。周りの女子みたいにキャピキャピした声なんか出せる気がしなかったし、出す気もなかったけど、一度くらいあんな声を出してみたい気持ちはあった。

とは言え、彼女にそれを話題に上げられて怒るほどの抵抗感はなかったし、あたしは敵意を持たずに質問をしたつもりだった。


彼女の横にいたルカさんが少し焦っていた。


「ご、ごめんね?!ちゃんと部活に入ってからみんなで考え直せば良いから!…もぉ、サワのアホ!なんでアンタはそんなにデリカシーないのよ!」


「えー?そんなに悪いかな?可愛いと思うけどなー。」


「あのぉ…別にこたりはないんですけど、みなさんコートネームってそういう感じなんですか?」


「ん?そういう感じってあんまりわからんけど、ほとんどの子はあの漫画から取ってるよ?」


「へぇー………。」


「ほ、ほら!サワ、この子もあの漫画から取った方がいいって!!…ほんまごめんな?あんたの好きなキャラは誰?」


「えっと、あの漫画なら…“マキ”とか…」


「…あー……ごめんね?マキはもうウチらの代の子が持ってて…。」


「そうですかー…んー他は“ウオズミ”とか!」


「…なんかコートネームにしにくいよね…。」


「……!そ、それなら“タオ”とかは…?!あの監督好きなんですよね!特にインタビューの時の…」


「…………なんか、シブいね。」


「え…?」



「あーはっはっは!!ほら、ルカ!聞いた?!この子の好きなキャラ全員“ジジイ”やんか!!やっぱりジジがお似合いやって!!」


「……そうかも。」


「え、えぇ?!別にあたしはジジイが好きとか…」


「はい、決定!あんたのコートネームは“ジジ”!!!黒猫でかっこいいやん!あんたにピッタリ♪」


「……もうなんでもいいですよ!……ふふ♪」


「お!?ルカ!ジジで良いって!…ってことは、入部して私達と一緒にバスケしてくれるってこと?!」


「え?そのつもりでここに来ましたけど?」


「お、おおー!!!よろしくなー!ジジー!!」




サワさんはそうやってあたしに抱きついた。

知らない間に、誰かがあたしのプレイを見てあたしのことを知ってくれていた。名前が独り歩きしていたみたいだ。

少しだけ嬉しかった、と思う。






あの映画の“ジジ”は黒猫で、一般的に黒猫は不吉の象徴だということは知っていた。

あたしはその日、家のパソコンで“黒猫”というワードを検索した。




『黒猫は賢く、状況を的確に把握する。さらに愛情深く、家族に対して忠実。とても人懐っこい。』




あたしはその記事を読んで、“ジジ”という名前も悪くないなと思った。




そ説明の中に書かれていた“狩りの天才”というワードだけは、なんとなく見なかったことにした。





お読みいただきありがとうございます!

私が眼を少し患っておりまして、誤字脱字等注意しているのですが多くなってしまいがちです。読み辛かったら申し訳ありません。気軽にご指摘して頂けると大変助かります。

もし気に入っていただけたら、ブックマーク、評価、コメント等よろしくお願いします。

とは言え、読んでいただけるだけで幸せです。

これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。

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