大好きな場所
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中3最後の日。卒業式を迎えた頃には、あたしの周りの友達は全員進路が決まっていた。ソラとクミも以前言っていた高校に合格して、あたしも無事南山高校に進学を決めた。3人の行く高校は別々だったけど、どの高校にも女子バスケ部が存在していて、また大会で会おうと約束した。
あたしが部活を引退した後キャプテンになったマイは、引退試合ではボロボロ泣いていたのに、この日は凛としていて、1年前の自分を見ているような気がした。
部活の後輩達から寄せ書きをもらった。監督からは“決して強いとは言えなかった。だが、とても面白いバスケ部だった。弱さを知っいてるお前はもっと強くなれる。”という言葉をもらった。これを読んだ時だけは、嬉しくて泣きそうになった。
卒業式を十二分に堪能した後、前々日に母から買ってもらった携帯電話を取り出して、いろんな友達と電話番号とメールアドレスを交換してから家に帰った。
夕方頃、お父さんとお母さんが大声を挙げた。お父さんは“バンザーイ!”と何度も大声で言って、お母さんは“おめでとう!信じてあげれなくてごめんね!”と泣きながら何度も叫んでいた。きっと、兄が国立大学に合格したんだろう。
それから少し経った。
(コンコン…)
あたしの部屋を誰かがノックした。
「はーい?誰?」
(…おれ。漫画借りに来た。)
「お兄ちゃん?入っていいよー。」
(ガチャ…)
「はあー、やっと肩の荷が下りたー。これで心置きなく漫画読めるわ。“金色”のやつと、海賊”の漫画借りてくぞー。」
「うん、好きなだけ借りてっていいよー。」
「…ん?いっつも1タイトル5冊までって決めてるやろ?」
「いいよー。お兄ちゃん、漫画も読まずに頑張って勉強してたんやから!今日だけは特別やよ!」
「……まぁ、お前がそう言うなら借りてやらんこともないけどな…。」
「……合格おめでとう!」
「……おう。」
「なんでもっと喜ばんのよー?」
「…まぁ、受かると信じてたからな。おれだけは。」
「……あたしもやよ。」
「……あぁ、そうやったな。」
「でも、すごい倍率やったんやろー?20倍やったっけ?」
「知らんわ。倍率なんか知らん。気にしてない。」
「えー?!普通気にするんちゃうん??」
「知らんわ。おみくじちゃうねん。おれが合格点超えてたら受かるし、超えてなかったら受からんだけや。結局何人が受けても、おれがやることに変わりはない。」
「はは…たしかに。」
「……よし!じゃぁとりあえず10冊ずつ借りていくから、また借りたい時は適当に入らせてもらうわ。」
「えー?勝手に入るんはやめてやー。一応あたしももうすぐ花の女子高生なんやけど!」
「……花の女子高生はな、こういう少年漫画読まんねん。諦めろ。」
「あははー!確かに!……そういえばさー…。」
「ん?なんやねん?」
「………人って、ほんとにめでたい時って“バンザーイ”とか言うんやね……ふふっ!」
「……くくっ…!それはおれも思ったわ!親父、両手挙げてたぞ?」
「あはははは!お父さん、嬉しい時そんなんするんや!」
「親父が喜びすぎて、おれも喜びにくかったわ!ははっ!まだ晩ご飯前やのに1人で祝杯あげてるぞ?」
「それお父さんがお酒飲みたいだけやん!あはは!」
そんな会話をして、お兄ちゃんは部屋を出ようとした。
「…お兄ちゃん。」
「んー?なんや?」
「…合格、ほんとにおめでとう。お兄ちゃんのこと、尊敬してるよ。」
「……お前も合格したやんけ。」
「あたしのは…受かるの目に見えてたから…」
「それでも同じ合格や。お前も、おめでとう。…望んだ場所じゃないやろうけど、お前は楽しめると思ってる。まぁ、お互い頑張ろうな。」
「…うん!お兄ちゃんにしてはいいこと言うやんか!あたしがハグしたろかー?おいでー?」
「き、キモいって!兄妹でそんなんするか!ボケ!」
「あははー!」
お兄ちゃんは逃げるように部屋を出て行った。
昔はお兄ちゃんによくいじめられて泣いたりして、好きじゃない時もあったけど、大きくなるにつれてお兄ちゃんと仲良くなれているような感覚が、すごく嬉しかった。
その日の夕飯はお父さんが特上のお寿司を出前して、お兄ちゃんの合格祝いとあたしの卒業祝いのパーティが家族で盛大に行われた。そのパーティにおじいちゃんとおばあちゃんも招き、2人はニコニコしながらお寿司をゆっくりと食べていた。お兄ちゃんとあたしは相変わらず好きなネタの取り合いでケンカして、お母さんが怒鳴って弟が泣いて、お父さんはお酒を飲んで笑って、賑やかな夕飯になった。
お読みいただきありがとうございます!
どこにでもある家族の風景を描きました。こんな日々が幸せと感じれますように。
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とは言え、読んでいただけるだけで幸せです。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。




