狂おしい
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あたし達は何度も舌を絡ませた。
先輩の口から離れると、唇同士にいやらしい糸が引いた。
自分の呼吸が荒くなってることに気付いた。先輩の呼吸もまた、あたしと同様に荒れていた。
「………どこで覚えたん?こんなの。」
「…先輩こそ…。」
「……。」
「……。」
「……あったまった?」
「…はい、熱くて、溶けそうです…。」
「………。」
「………。」
「……じゃぁ、充電できた?」
「…せ、先輩は?」
「……名前で呼んで。」
「え…?」
「……名前で呼んでくれないと、わたしは充電出来へん。」
「…マコ…先輩。」
「……今は名前だけがいい。」
「…マコ。あたし、もう少しだけ…したい。」
「……良いよ。」
「…もっとマコが欲しい。」
「……わたしも…。」
何度も先輩の名前を呼んだ。先輩を呼び捨てして、タメ口にすることは、日常ではあり得ないことで、そのイレギュラーな状況が、その時のあたしにとって何よりのカンフル剤となって身体中が痺れて止まらないほど興奮した。
脳みそが壊れたかと思うくらい頭が真っ白になっていた。
何度もキスを交わして、抱きしめあった後、あたし達は少し無言が続いた。
「……充電出来たね。」
「…はい。」
「……すぐに電池切れそう?」
「…わかんないです。でも、たぶん大丈夫です。」
「……わたしもそんな感じ。」
「………。」
「………。」
「ま、また試合会場とかで会えると良いですね。」
「……そうやね。その時は、こう。」
マコ先輩は右手の小指だけを立てて、自分の唇に軽く当てた。
「なんですか?それ。」
「……会場で、あんたに気付いたらわたしはこうする。……あんたは合図に気付いたら同じようにして。…2人だけの合言葉。」
「…ふふ。はい…。」
あたしも先輩に合わせて右手の小指を唇に当てた。
「……もし、一緒に帰るなら、こう。」
彼女は唇に当てた小指を右目の下に置いた。
「え、?一緒に帰る?」
「……あんたが会場から一緒に帰りたいなら、そうやって返事して。」
「えっと、“返事だけ”の時は、唇で、“帰りたい”時は目の下…、間違えたら危ないですね。あはは。」
「……大丈夫、なんとなく伝わるから。」
「…ふふ!はい。」
最後に軽いキスだけして、あたし達は身体を離した。
「………にしても、なんでこんな所いたん?…家でなんかあったん?」
「あー、、進路のことで少し親とかとありまして…あはは…。」
「……そっか。じゃぁそろそろ帰りや。」
「そう、ですね…。」
「……まだしたい?」
「…あはは…キリがなくなりますよ…。」
「……せやね。……じゃ、わたしは行くね。さらばじゃ。」
「…ありがとうございました!さらばです!ふふ♪」
家ばもうすぐそこなのに、あたしはゆっくり足を進めた。暗闇の中で雪が電柱の灯りに照らされてホワっと光るのを見ながら、唇に指を当てて先輩とのキスを思い出していた。思い出せば出すほど身体の疼きは強くなって、今先輩も同じような行動を取っているような気がした。
「ただいまー。」
「おかえりー!寒かったやろう?早くこっちおいでー!ご飯用意してるよ!」
母はあたしを食卓に招き、一緒に晩ご飯を食べた。
「…ソラちゃんに、ちゃんと参考書返せた?」
「ん?…うん。」
「…なら良かったわ。……なぁ、ちょっとお箸置いて?」
「え…?」
母は正座した足の膝をあたしの方にわざわざ向けた。
「ごめんなさい…。」
親があたしに対して頭を下げた。
「…え?なんで謝るん?」
「…あんたが思ってることは、なにも間違ってない。あんたと比べて成績のいいお兄ちゃんを贔屓したのも事実…そんなつもりはなかったんやけど、あんたから見たらそう見えて当然や。それに…お母さんは男女に差をつけないようにしてたのに、心の中で“女の子はいつか誰かに養ってもらえる”なんて考えてた。だからあんたの進路を少し軽視して、志望校を変えさせた。お母さんのせいです。ごめんなさい。」
「…や、やめてや、。謝られると余計に悲しくなるって、。」
「ううん。親であろうとお母さんはあんたに酷いことをした。それは謝らないといけない。でも、あんたが南山高校を選んでくれたことは、感謝してるし、その高校で好きなこといっぱいしたらいいと思ってる。精一杯楽しんで欲しい。」
「…まだ受かってもないし、勝手なこと言わんといてよー。」
「…そうやね。」
「…どこに行こうと楽しむかどうかは自分次第やもんね。楽しい場所に行っても楽しまなかったらつまらないし、お母さんもよく言ってるやん?“どうせ同じ場所にいるなら楽しんだもん勝ち!”って。あたしも行った場所がどこになろうと楽しもうと思ってるよ!ありがとう、お母さん。」
「……あんた……。」
お母さんはそのままあたしに近寄って抱きしめてくれた。
お母さんに抱きしめられるのはいつ振りだろう。すごく久しぶりな気がした。優しくて少しだけ甘いお母さんの匂い。お母さんは少し泣いていたけど、あたしはずっと笑顔でいれた、と思う。
(コンコン…)
お兄ちゃんの部屋をノックした。
(んー?)
「あたし。入っていい?」
(んー。)
(ガチャ…)
「…なんやねん。」
お兄ちゃんは勉強しながらあたしと会話を続けた。
「お母さんと仲直りできた?」
「んー。まぁなー。」
「そう、。…あのさ、お兄ちゃん、本当にありがとう。あんな風に思ってくれてるお兄ちゃんがいて、あたしは幸せやよ。お兄ちゃんがいて良かった。」
「……。」
「お兄ちゃんが兄貴でよかった…。」
「……あのさ、」
「なに…?」
「それ、さっき言ってたやん。同じこと言うためにわざわざ部屋入ってきたんなら早よ出てってくれへんか?勉強の邪魔。」
「な、な、なんやねん!せっかく可愛い妹が心の内を話してるのにー!!ちょっとはこっち向いて話せや!人と話す時は顔見て話せって小学校で習わんかったか?!優等生さんがよぉ!?」
(ギィ…)
兄が椅子を回してこっちを向いた。ふてぶてしい顔をしてあたしを見ている。
「…お前のことを“可愛い”なんて思ったことない。」
「ほんまうっさいなー!なんなんこの人!?」
「でも……お前のことは時々“かっこいい”とは思うわ。」
「…え?」
(ギィ…)
お兄ちゃんはまた机の方に椅子を回した。
「…女子から人気あるのも、まぁそりゃそうやな、タカラヅカ♪ククッ!」
「……え?!なんでそれ知ってんの?!!誰から聞いたんよー!!」
なんとなく、今日あたしは家族ともっと仲良くなった気がした。
-10399-
翌日、授業が終わって帰ろうとしていた。
「…なぁ?今日一緒に帰らん?あんたに聞きたいことあるんやけど…。クミと3人で帰ろうや?」
いつもより少し真面目な顔をしたソラがあたしに話しかけた。よく分かりはしなかったけど、あたしはそれに応じた。
お読みいただきありがとうございます!
これは何かありそうで何もない、どこにでもある物語です。
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とは言え、読んでいただけるだけで幸せです。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。




