外でした
パラダの周りには水の流れる音と、遠くで車が走る音、虫の音だけが流れていた。なのに、この静かな空間で、あたしの耳に入るのは何度も唇を重ね合わせるたびに聴こえるいやらしい音だけだった。
マコ先輩とした時はこんな感じじゃなかった。あの時は唇を重ね合わせたまま静止していただけなのに、ルイがそうしているからなのか、あたしは何度も唇を軽く離しては何度もキスをした。
身体がだんだんと痺れて、熱くなっているのを感じた。もう夏は過ぎたはずなのに、少しだけ汗ばんだ。
ルイの口が少し開いているような気がした。目を閉じていると視界以外の感覚が研ぎ澄まされて、いろんなものが目以外で感じ取ることができた。あたしも、彼に合わせて口を少し開いた。
すると、ゆっくりと彼の舌があたしの口に入ってくる気がした。
経験や知識が薄いあたしでも分かった。
彼に合わせるようにした。
酷くいやらしい音が耳に入る。身体がジンジンして熱い。
もう今は好きでもない相手と、あたしはなんでこんなことしているんだろう。それを考えるたびに、心が痺れていた。
「んっ……」
胸にルイの手の当たる感触がして、あたしは今まで出したことのない声を出してしまった。
ルイの手がすぐに引っ込んで、唇を離した。
「ご、ごめん…ちょっと調子に乗り過ぎた……ハァハァ…。」
「ハァハァ……ごめん、こんなの、初めてで……。」
「お、おれも……。」
「うそやん……あんだけ積極的に…」
「い、いやほんまに……」
「………。」
「………。」
「………ええよ。」
「…え?」
「……ルイなら、いいよ…あんまり強くせんといてね…。」
「……ほんまに?」
「いいって…。」
「…後で怒らん?」
「もう!いちいち確認するな!そんなにいうならもう終わるで!?」
「ごめん、、それなら…」
そうしてあたしはルイに身体を預けた。
他人から触られる手の感触は今まで経験した何にも似ていない感覚で、身体が痺れるような感覚もあるけど、触られるたびにその感覚が溶けるような感触もして、頭が真っ白になっていった。
気付くとあたしは彼に連れられて2人掛けのベンチに仰向けにされていた。
彼は鞄の中から0.05mmと書かれた小さな袋を取り出した。保健体育の授業であたしはそれを習ったことがあった。
「………なんなん?やっぱり慣れてるやん……。」
「いや!ちゃうって!こういうのは、男子の間で渡し合うっていうかさ、おれもこれしか持ってなくて…!」
「……なんでもいいよ。…早く。」
「待ってや、おれだって初めてなんやって。えっと…」
彼はオドオドしながら準備を済ませた。
「…なぁ、お前初めてやろ?いいんか?おれで。」
「何回聞くん?いいって。」
「だって、こういうのって好きな人とするのが普通というか…。」
「…別にルイのことはもう好きちゃうよ。」
「もう?」
「…あたしの初恋相手はあんたやの!足蚊に噛まれるから早くしてや。」
あたしは初体験をルイに捧げた。しかも外で。
気持ちよさは、初めあまり分からなかったけど、不思議と満たされる感じはあった。たぶん、ランちゃんの話を聞いて、あたしはおかしくなったんだ。ランちゃんを見放したあたしを、誰かに壊して欲しかったんだ。本当の理由なんかどうだっていい。あたしはそんな言い訳を作って、段々と快感に変わる初めての感触を遠慮せずに貪っていた、と思う。
初体験を終えて、ルイは恥ずかしそうに後片付けをしていた。
あたしは自分の乱れた服を整えていた。
「…なぁ、ルイー。」
「なんやー?」
「…こういうのって、したら付き合わなあかんの?」
「………普通ならそうちゃうか?」
「…じゃぁあたし達はどうしたらいいん?」
「………お前は普通じゃないからなー。あはは…。」
「なんなんそれ?あんただって充分変やんか。」
「………なら付き合わなくていいんちゃうか?おれらは……。それに……。」
「……なによ?」
「………いや、おれは、好きな子いるからな…。」
「……好きな子いるのに、あたしとすんなや。ボケ。」
「……そうやんなー。……あ、もしランちゃんに会うことがあったら、よろしく言っといてくれへんか?」
「はぁ?自分で言いや。なんであたしが言わなあかんのよ。」
「……お前は、ほんまカッコいいよな。女子から人気あるの、わかるわ。」
「タカラヅカって言う気?やめてよ、それ。」
「あはは…。よし、片付け済んだし帰るか。」
「うん…。」
「あの、ほんまにおれでよかっt…」
「それ、今さら言ったらマジで◯すで?」
「はは…。オトコらしいな、お前。」
「……なぁ、ルイってさ…。」
「ん?」
「…もしかして、ランちゃんのこと好きやったん?」
「………。」
ルイは顔を逸らした。
「……言いたくなかったら言わんでいいよ。」
「………初恋相手やな。…今も…。」
「…そっか。あんたの好きな人って……それなら良かったわ、初めてがあんたで。…あたしもランちゃんのこと大好きやから…。」
「……せやな。」
あたし達は少し歩いた後、別々の帰路に向かった。ルイは“進路のこと、ちゃんと親に話せよ”と言っていた。でも、今日は身体のいたるところがジンジンして、頭が少しボーッとして、考える余裕なんてなかった。
翌週、ルイが転校した話をクミから聞いた。“いっしんじょうの都合”らしい。
あたしはなんとなく、転校じゃない気がしていた。モダは約束なんか守るようなやつじゃない。守ったとしても杜撰な男だ。万が一、メールボックスにルイとのやり取りが残っていたら…。あたしはそんな想像をしながらクミの話を聞いて、二度とルイに会うことはないと確信した。
お読みいただきありがとうございます!
これは、どこかに居た彼女の物語。どうかどこかの誰かへ届きますように。
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とは言え、読んでいただけるだけで幸せです。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。




