あたしはずっとききたかった
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中3の初夏。
最後の大会を目前にしていたあたし達は、練習量が段々と増えていった。朝練と昼休み練、そして放課後練という練習をこなし、疲労は授業中に寝て過ごすような日々だった。
リリがあたしに声を掛けた。久しぶりにリリと会話した気がした。彼女は“小学校の時に担任だったモダが、転任した隣の小学校で最近セクハラ容疑で逮捕された”という話をしていた。あたしは驚くことも笑うこともなかった。正直何も不思議には思わなかった。むしろようやく捕まったか、くらいに思っていた。
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中3の初秋。
あたし達は夏が本格的になる前に部活を引退した。先輩達が残した成績には及ばなかったものの、あたしの中では誇らしい成績として引退することができた。中2の時はあんなに大泣きしたのに、自分の引退試合が決まった時は何故だかあんまり涙が出なかった。
そろそろ志望校をはっきりと決めなければいけない。色々なことを悩み始めた頃、帰り道で珍しいやつと出会った。初恋相手のアイツだった。アイツも1人でゆっくり歩いていた。中学に行った後、アイツも身長が伸びて、あたしより10cm以上の差をつけていた。
「……あ。」
「ん?おう、なんやお前か。久しぶりやな。」
「そうやね。元気?」
この頃のあたしにはもう初恋相手という認識は薄れていて、恋愛対象としての感覚は無くなっていた。
「元気じゃなかったら学校行かんわ。」
「相変わらず、嫌な言い方。」
「はは…。」
「…あのさ、一緒に帰らん?」
「ん?まぁええけど、周りから勘違いされるように離れて歩けよ。」
「はぁ?!誰が勘違いすんねん!」
「お前のこと好きな女子やろ。お前なんであんなに女子から人気あんねん。まじで宝塚かよ。」
「し、知らんし!それで言ったらあんただって女子から人気あるの知ってる?!なんで人気あるのか、さっぱりいみふめーやけど、勘違いされて周りの女子からいじめられるのはあたしの方やからね!」
「知らんわ、そんなん。お前みたいに毎週誰かから手紙もらうような目に見えたもんならわかりやすいのにな。」
「なんでそんなことまで知ってんのよ!」
「いや、大体みんな知ってるぞ?お前、結構有名やぞ?影のあだ名は“カタラヅカ”とか言われてるし。」
「た、たからづか?!誰がそんなこと言ってんのよ!言え!そいつら怒りに行くわ。」
「やめとけって。別にイジってるだけで悪意はないんやから。」
「……とりあえず帰ろ?少しあんたに聞きたいこともあるし、パラダ行かん?」
パラダは、あたし達が小学校の頃によく行っていた小さな池のある小屋だった。小屋と言っても壁はなく、屋根と木の机、その周りに2人がけの長椅子が四つ取り囲まれただけの簡素なもので、街の外れにあるその場所は、なかなか人も来なくて半分秘密基地として利用していた。あたし達は誰からの目も外れたその空間を“パラダイス”を略してパラダと呼んでいた。
実はその場所は夜、不良達の発展場として使われていたという話は、大人になってから知った。
「はぁ?なんでパラダとか行くねん。遠回りやろ。それにあんなところ小学校の時以来行ってないぞ。」
「あたしだって一緒やわ。でも、少し話したいんよ、あんたと。」
「……まぁ、良いけど。」
あたし達は少し距離を置いて歩いた。話したかったのは嘘じゃない。少し気になっていたことがあったんだ。
それは、パラダまでは話さないようにしていた。
「あんた、進路はどうするん?」
「おれは、まぁ適当に行けるところに行くよ。」
「うわー嫌な言い方。いいですねー成績優秀な人は選択肢がいくらでもあって!」
「お前も成績上がってるんやろ?クミちゃんから聞いたぞ?」
「あー、あんたクミと同じクラスやもんね。」
「今ならそこそこいいとこいけるんちゃうか?それとも、推薦で行くんか?」
「んー、赤川行くために頑張ってるんやけどねー。最悪成績危なかったら推薦もあり得るかな…。」
「どっちが選択肢あるねん。赤川なんて行きたくても行けないやつ山程おるぞ?」
「まぁ、成績もあるもんね。」
「それもやけど、私立やろ?おれも行けへんわ。」
「え?私立やったらなんで行かれへんの?あんたやったら余裕やろ?」
「アホか。そんな金、おれの家にはないねん。公立いけって親に言われてるわ。」
「あー……。」
「…お前、もしかしてそういう話親としてないんか?」
「……うん。」
「ちゃんと話したほうがいいぞ。お前んち、頭いい兄貴いるんやし、あの人も今年大学受験やろ?お前のおばちゃんなら、まぁ私立行かせてくれるかもしれんけど。」
「そう、やんねー、あはは…。」
彼は見透かしたようにあたしの悩みを話してきた。兄の大学受験と被っているあたしにとって、私立を選ぶことは少しだけ気がかりではあった。そのせいで、志望校を記入する紙をまだ担任に提出できずにいた。
そんなことを話している間にパラダに着いた。
「うわー!変わらんねー!ここでよく水切りしたやんね?!」
「ほんまに変わらんな。はは。水切り、お前下手すぎてできんかったやろ?」
「い、今ならできるわ!見ときや!………この石!キミに決めた!」
「お前、小学生かよ…。ってかそんなデカくて丸い石はあかんって。」
「黙って見とき!うりゃ!」
(ドプン…!!)
「………。」
「ほらな?無理やって。お前そもそも石選びから下手やねん。」
「………な、なら!あんたがやってみいや!」
「おれはやらん。…で、話したいことって?まぁ、なんとなくわかるけど。」
アイツは木のベンチに腰掛けた。
あたしは小池のそばに立ったまま、心の中に閉じ込めていたことを訊いた。
「……あんた、モダに何かした?」
陽が落ちるのが早くなってきた秋口に吹いた風は、思っていたよりも冷たく感じた。
お読みいただきありがとうございます!
私が眼を少し患っておりまして、誤字脱字等注意しているのですが多くなってしまいがちです。読み辛かったら申し訳ありません。気軽にご指摘して頂けると大変助かります。
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これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。




