リボン
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中2の晩冬。
マコ先輩と副キャプテン、それに他の先輩方も無事に志望校に合格を決めた。たぶん、あの補欠先輩達も。
先輩達はもう学校に来ること自体が少なくなった。
元キャプテンも、ひと足先に高校の部活に参加するようで、あたし達の部活の方には来なくなった。
そうやって先輩達の姿がどんどん薄れていって、それに合わせたように卒業式がやって来た。
式の最中、あたしは泣くことはなかった。むしろ、目の前で卒業証書をもらっていく先輩達の姿が、すごく誇らしく思えた。
式の後、ソラは卒業する彼氏さんの元へ行った。笑い泣きながら帰って来たソラの手の中には学ランのボタンが入っていた。たぶん、心臓に一番近い場所のボタンなんだろう。
監督を中心に、先輩達と現部員が集まって集合写真を撮った。
元キャプテンがあたしの方に寄って来た。
「よぉ!珍しく泣いてないやん!はは!」
「もう泣きませんよ!別に先輩達とはまた大会とかで会うかもしれないですし、試合も見にいくつもりですから!」
「へぇー。ちょっと見ない間にしっかりして来たな!なら私も安心やわ!…なぁ、あんたどこの高校行きたい?卒業したら。」
「2年にそんなこと考えさせますかー?」
「言うてる間にもう3年やで?そしたら、すぐに最後の大会が来てあっという間に受験や。どこも考えてないんか?」
「…そうですね、あんまり先のことは。目の前のことでいっぱいいっぱいなので…。」
「なら、あんたも赤川高校においでよ。」
彼女は笑みを浮かべながらあたしにそう言った。
「え?!無理ですよ!あたしそんなに成績も良くないし…」
「なら私と同じスポーツ推薦でいいやんか?あんたがPGで一緒にチームでやりたいんよ。」
そんな言葉を言われて、嬉しくないわけない。
「え?!いや!でも!PGはキャプテンやマコ先輩がいるじゃないですか!?」
「私は今高校でPFの練習してるで?身長は少し低いけど、そっちの方が適正あるらしくてね!私自身もしっくり来てる。ほら、私負けん気だけは誰にも譲らんからさ!あはは!」
「そ、そうなんですか?!」
「うん。で、マコはSF、モネはSGや。まぁ、他にも上手い子はいっぱいいるからそんなに簡単には実現できないやろうけどなー。」
「…あ、あたしも!先輩達にパス出したいです!」
「そうやろ?それでインターハイとか行けたら最高やん?もし、あんたが本気に赤川行く気になったらいつでも言っておいで。私から高校の監督に言っとくから。」
「は、はい!」
「じゃぁね!それだけ言いにきた!あ、マコのところにも行ってあげやー!アイツどうせあんたとは話したいやろうからさ♪」
「はい!ありがとうございました!」
先輩に認められて求められることが、この時のあたしにとってどれだけ嬉しいことだったかは、身体の震えと鳥肌ですぐ把握していた。その期待に応えたいと思った。
マコ先輩の方へ駆け寄っていくと、先輩はすぐにあたしに気付いて、小声で耳打ちした。
「(……今日練習は?)」
「え?ないですよ?卒業式は去年も練習なかったでしょ?」
「(……一緒に帰る?)」
「え?あはは!いつも半分強制なのに、今日はなんで質問なんですか!?」
「(………帰らん?)」
「…?あたしは帰りたいですよ?」
「(……オゥケィ。)」
少し違和感は感じたものの、卒業式でマコ先輩も感情に浸っているところなんだろう。意外とこういう先輩を見るのは初めてだった。
待ち合わせした桜の木の下であたし達は合流した。桜は青空と相まって一層綺麗に舞っていた。帰り道、先輩は珍しくバスケットボールをドリブルするようなモーションを取りながら、黒柳◯子の頭の中に仕込まれている飴は賞味期限がない、という嘘みたいな話を真面目に語っていた。
話が一段落した時に、彼女があたしに質問した。
「……あんたはどこの高校行くつもりなん?」
「…ふふ!それさっき、元キャプテンからも言われましたよ!」
「……へぇ。あの子どうせ“赤川来い”とか言ったやろ?」
「まぁ、そんなこと言われましたね!すごく嬉しかったです。」
「……あんたはどうするつもりなん?」
「そうですね、正直どこの高校行くとか、全く考えてなかったから、赤川行きたいなって思いました。先輩達と一緒にコート立ちたいなって、、。」
「……ふぅん。」
「マコ先輩は、どう思いますか?」
「…………あんたは、赤川来なくて良いよ。」
彼女の口からは“おいで”って言われると予想していた。あたしが自惚れていたばかりに、先輩の言葉にかなりショックを受けた。
「……そう、ですよね。あたしなんかじゃ…。」
「……そうじゃなくてね、わたしだってあんたと一緒にコートに立ちたいよ。チームメイトなら頼もしいとも思ってる。」
「………?」
「……でも、どうせ一緒にコートに立つなら、敵のあんたとコートに立ちたいかも。」
「敵?!」
「……そう。あんたが対戦相手ならもっと楽しそう。それで、わたしは勝ちたい。」
「そ、そんな!あたしが勝てるわけないですよ!」
「……そういうところはオモテに出さないんやね。」
「…え?」
「……心の中では負ける気ないくせにね。ぬふふ。」
「そ、そんなこと…!」
「……あんたは負けん気強いからね。元キャプテンのあの子と同じくらいに。あんたがチームになっても楽しいとも思うけど、自信満々のあんたを負かすのも悪くないよね。」
「………先輩って、性格悪いですよね…。」
「……あんたには負けるよ。ぬふふふふ♪」
あたし達はそんなことを言いながら笑って帰った。
確かにマコ先輩の言うことは核心を得ていた。自分は誰にも負けるつもりはなかったし、先輩と試合をしたとしても頭の中のイメージは勝つシーンだけが浮かんでいたんだ。
傲慢だけど、お父さんの好きなプロレスラーが“闘う前に負けること考える奴がいるか”という台詞を言っていた姿が、あたしの心のエネルギーになっていた。この言葉をあたしは真剣に受け止めていたんだ。
マコ先輩といつも通りに歩いて、分かれ道に着いた。さすがにお昼間に彼女が腕を広げてあたしを抱きしめる気はなかったらしい。あたしは“それでは、卒業おめでとうございます”と言って帰ろうとした。
「…それでh…」
「……ねぇ。」
「は、はい?」
「……………これ、あげる。」
マコ先輩が差し出したのは制服のリボンだった。
男子の第二ボタンの話を聞いたことはあるけど、こんなのは聞いたことない。
「え?……リボン?」
「……うん、そう。だから、あんたのも…。、」
「……はい?」
「……あんたのリボン、もらってあげる。」
何が言いたいのかはわからないけど、とにかく制服のリボンを解いて、ピンクのそれを先輩に渡した。それと同じタイミングで、先輩からリボンを受け取った。
「………ぬへへ♪」
「……?なんで笑うんですか?」
「……じゃ、さらばじゃ。またね。」
彼女は笑いながらリボンを握りしめて帰って行った。あたしの言いたかったことは、何一つ言えなかった。
帰宅するとお母さんが焼きそばを焼いていた。
「おかえりー♪どうやった、卒業式?泣かずに我慢できたかー?」
「も、もぉ泣かへんって!」
「へぇー、もうしっかりしてきたんやなぁー…。」
「…お母さん。」
「んー?なにー?」
「あたし、赤川高校に行きたい、かも。」
「……へぇー。私立の進学校やんか。あんたそんな勉強できるんー?」
「先輩がね、推薦で取ってくれるようにしてくれるかもって。先輩達と一緒にコート立ちたいなーって!」
「…そっかぁ。ならバスケも勉強も頑張らんとねー…。」
母の声は、それまでより少し暗く感じた。
「うん。頑張ってみようかな。」
「…….そっか。」
そんなは話をしているうちにお母さん特性の焼きそばが完成した。いつも通り、なぜか焼きそばだけは味が濃く味つけられていて、あたしは水を沢山飲みながらそれを食べた。
お読みいただきありがとうございます!
私が眼を少し患っておりまして、誤字脱字等注意しているのですが多くなってしまいがちです。読み辛かったら申し訳ありません。気軽にご指摘して頂けると大変助かります。
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これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。




