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蝙蝠の歌 -mintdrop-  作者: u
38/62

冗談




あの一件以降マイは少しの間変な噂が立って、周囲からは面白がって見るものと、逆に彼女の本気が見えたことにより彼女を助けようとする仲間が増えた。


それから1週間程で夏休みに入ったため、噂だけが自然に消滅して友達だけが彼女に残る結果となった。


マイはそれからもあたしに帰りを誘ったりしてきたけれど、あたしもそれを喜んで承諾した。ソラと3人で帰ったり、クミや他の後輩も含めて遠回りして帰ったりもした。その時のあたしは、もう以前みたいに無理に笑うことはなくなっていた。





-10247-




中2の秋。真夏のピークは去ったものの、まだ暑い日が続いていた。秋の小さな大会であたし達女子バスケ部は優勝を収めた。それなりに強くなっていっていることを実感した。


元キャプテンは無事赤川高校へスポーツ推薦での進学が決まり、より一層部活に顔を出すようになった。


マコ先輩は引退後からまだ一度も部活に顔を出さなかった。少しの寂しさはあったものの、あたしの中の先輩への気持ちはだんだんと薄れていっていた。




その日の放課後練が終了した。陽の傾きがどんどん早くなり、もう練習が終わる頃にはすっかり暗くなっていた。秋風が少し冷えていて、夏が秋からようやく手を離したような気がした。



「ソラー、今日も彼氏さんと帰るん?」


「そうー。なんか受験のための特別授業に出てるらしいねんよ。ちょうどさっき終わったみたいで待ってくれてるんやってー。」


「ほんま仲良いよねー。」


「まぁね。でも、クミらと違ってうちの人は3年やから、もうちょっとしたらこういう時間もなくなるし、今の内に楽しまないとって。」


「確かに!ほんまやね!じゃぁ彼氏さんのところ早よ行ってきいやー。」


「あれ?あんたは1人?」


「うん。あはは。なんかみんなタイミング悪かったみたいで…。」


「ふーん。まぁ、そういう日もあるよね!よいしょっと…そしたら行くわ!」


エナメルバッグを肩に下げて彼女は小走りで去って行った。



あたしは秋の少し寂しい空気のせいで余計に寂しく感じていた。更衣室を出たあたしはそのまま校門を抜けた。



「……ダーレダ?」


あたしの目を後ろから隠すこともなく、後ろから声をかけられた。その淡々とした感情のない声は、聞き覚えのある声だった。嬉しい感情をはっきりと見られたくなかったので立ち止まったまま振り向かなかった。


「…ニシオリさん。…ふふ♪」


「……ほう。」


「マコ先輩!お久しぶりです!」


振り向いて先輩の顔を見ると、相変わらずボーっとした顔をしていた。


「……1人かい?」


「そうですね、なんかみんなとタイミング合わなくて。先輩は?」


「……特別授業がさっきまであって、その後金星からの電波を受け取ろうとしてたらこんな時間になった。」


「へ、へー。はは…相変わらずですね。」


「……帰るぞい。オゥケィ?」


「はい!オーケーです!」


あたしは警察官みたいな敬礼をして、先輩に笑顔を見せた。



帰り道、先輩はラジオ体操第一をしながらイルミナティカードという謎のカードの未来予想と、溶き卵の綺麗な混ぜ方についての話をあたしに力説した。


この不思議な感覚を久しぶりに感じることができて、嬉しかった。懐かしさと嬉しさであたしの心は満たされていた。


「……やけに楽しそうやね。」


「あはは!はい!先輩とこうして帰るの久しぶりで、楽しいですね!」


「……ほう。……部活も楽しそうやね。」


「そうですね!すっごい楽しいです!」


「……ふぅん…。…あんたらしくできてるならいいや。」


「はい!先輩のおかげですよ。本当に。」


「……へぇ。……そういえば、最近あんたモテ期なんやろ?」


「モテ期っ?!…あー、キャプテンから聞きました?」


「……“元”キャプテンね。」


「はいはい…ははは…。そうですねー。結構、女の子から告白されます。男子からは全くですけどね。」


「……ぬへへ。」


「なんで笑うんですか!?」


「……ぬふふふふ…。」


「なんか、クミもこの話の時やたら笑うんですよねー。」


「……そりゃ、側から見てたらおもしろいよ。」


「まぁそうかもしれませんけどー。」


「……で、誰かと付き合ったん?…ぬへへ。」


「…先輩、知ってて聞いてるでしょ?」


「……ぬへへ。」


いたずらっ子みたいに先輩は笑っていた。


「付き合うって、どんな感じなんですかね?あたしは誰かと付き合ったこともないので分からないです。」


「……難しい質問。」


「いや、先輩いっつももっと難しい話してますよ?今日だって、“いるみなてぃカード”?なんて初めて聞きましたよ。」


「……それは目に見えるものだからね。……わたしは事実しか理解できない。」


「いや、、先輩。宇宙人は……」


「…いるよ。」


「信じてるだけでしょ?」


「……昔、小さい頃に見た。」


「へー?」


「……夕方くらいに、お婆ちゃんと歩いてたら月の近くに光る星みたいなのがあったんよ。お婆ちゃんが“金星”って教えてくれてたらその星が小蝿みたいに動き始めて、お婆ちゃんも驚いてた。」


「え?それ本当の話ですか?」


「……?そうやで?……それでお婆ちゃんが空ばっかり見てたから前の方をわたしが見たら、逆光でシルエットしか見えなかったけど、きっとあれは宇宙人だったと思う。」


「え!?すごい!宇宙人と話したんですか?!」


「……宇宙人に、“見られたから殺すしかない”って言われて、“嫌”って言ったら納得してくれた。」


「も、物分かりいいのに、物騒な人達ですね…。」


「……お婆ちゃんはわたしの会話に気づいてないみたいで、ずっと上を見て止まってた。お婆ちゃんの方を指さして“この人はお前の大事な人か?”って聞かれたから頷いたら、諦めて帰って行った。」


「妙にリアルですね…。」


「……お婆ちゃんにそれ言ったら、なんか抱き締められてん。“いい宇宙人さんで良かったね”って。……それからわたしは宇宙とかに興味持つようになった。」


「へー。だからいろんな話知ってるんですね。いい宇宙人かー。ふふ!」


「……次の日お婆ちゃんにその話をしたら覚えてなくて、“きっと夢やから誰にも言ったらあかん。変な子って思われる。”って言われてから、家族にも言ってないねん。……そのことだけ覚えてなかったお婆ちゃんが、すごく怖かった。」


「なんだか、怖いですね。」


「……だからわたしは都市伝説とか宇宙のこととか、全部信じてる。…誰かが見た事実、それもきっとひとりだけが言ったことじゃなくて、世界中で目撃情報が流れてるのは、絶対にそこに事実があるから。……でも恋とか愛とか、付き合うとかは目に見えないからわからない。」


「ですよね…あたしもわからないです。」


「……周りのみんなは誰かと付き合うことで、何を手に入れてるんやろうね。」


「手に入れる?それは彼氏ができるってことですか?」


「……どうなんやろ。わたしにもわからない。……彼氏っていうのがそもそもわからない。付き合ったら彼氏になって彼女になって、だから相手の所有物になるんかな?……家族にもならないのに、手を繋いで喜んで、キスしたとか言って騒いでる。……わたしは全然わからない。」


「んー、先輩の話聞いてると余計にわからなくなってきました…。それより、おばあさんとの約束破ってあたしに話していいんですか?その話。」


「……あんたなら、まぁ。」


「へぇー…。」



「……試しにわたしと付き合ってみる?」



「……なんの冗談ですか?それ。」


この時、あたしは内心びっくりして、頭が真っ白になっていた。何故かそれをバレたくなくて、必死に感情を殺して冷静に聞き返したんだ。


「……そっか。…了解。」


先輩は納得したように、あたしがまだ何の返事もしてないのに解決したような顔をした。


「なんでそんな顔するんですかー!?」


「……初告白で、初振られやわ。……初キスの相手に。」


「……!??そ、そんな言い方やめてくださいよ!!別に先輩は告白もしてないし、あたしは振ってませんよ!」


「………そうやね。了解。」



互いの分かれ道に着いたあたし達は、先輩が腕を広げて“10秒”と言ったので10秒だけ数を数えながらハグして、離れた後先輩はすぐさま帰って行った。振り返りもしなかった。



ハグしている時、少しだけ先輩が震えているような気がした。





マコ先輩はそれからも部活に顔を出さなかった。今思うと、先輩は冗談なんて言ってなかったんだと思う。



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