噂と恋バナ
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明日マイは、あたしとマコ先輩がキスしたことを周りに話すらしい。きっと彼女は嘘は言わない。そして彼女の発言は瞬く間に拡がるだろう。周りからどんな目で見られるか想像すると、少しだけ怯えた。でも、自分が思っていたよりもあたしは割と平気だった。なんとなく、どうなっても立っていられるような気がしていた。
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翌日の昼休み時点で、その噂は2年の教室まで回ってきたようだ。廊下からの女子の変な視線が感じられた。噂話の拡がる速さと、マイの発言力の強さに少し驚いた。
だけど、想像していた状況とはかなり異なっていた。勿論あたしのことを面白がって見る目線はあるにはあったのだが、そういったものは少なくて、まるで水族館の魚を見るみたいな、そういう視線が多いように感じられた。
その日の放課後練では、やっぱり少し違和感を感じながらも、とにかくこちらを嫌悪するような感じはなくて、特に変わった様子はなかった。変わったことといえば、その日マイが部活を病欠したことくらいだった。
帰り道、あたしはソラとクミと3人で帰っていた。クミは帰り道が一緒というわけでもなかった。あたし達の道を選ぶと遠回りになるのに“たまには混ぜてよ”と言ってわざわざあたし達の帰路を一緒に歩いていた。
「あー今日も疲れたー!もうすぐ夏休みやなー。嫌やなー。毎日練習やもんなー。」
「せやねー。でもソラはなんやかんやでいっつも1番走り回ってるやん。体力あるの羨ましいなー。」
ソラとクミは仲良く話していた。
「うち、こっちの道から帰ることとか滅多にないからめっちゃ新鮮やわー。今度は2人がうちの道の方から一緒に帰ろーや?」
「絶対嫌やわ!かなり遠回りなるやん!クミはイケメン彼氏に送ってもらいー。…ふふ!」
「あーはいはい!ふふ…!あ、そういえば前話してた人とはどうなったん?」
「アホ!それはまだこの子には話してなくて!…ってあんたなんで会話に入ってこんのよ?」
2人の目が端で歩いていたこちらに向かった。
「あー、ううん。楽しそうやなって。」
「……はぁー、、あんたもしかしてなんか噂聞いた?」
ソラがため息をつきながら気だるそうに質問した。
「んー、、、」
「まぁなー、あんたもこれから大変やと思うよ。うんうん。」
クミに肩をポンポンと叩かれた。彼女はあたしを歩いている3人の真ん中にするべく逆端の方から回り込んできた。
そしてなぜか面白そうに笑っていた。
「…正直あんまり噂の内容は知らんねんよ。ただ、知らん人からも見られてる感じするし、たぶんあたしのことなんやろうなって。」
ソラが不思議そうな顔で話し始めた。
「あ、そうなんや?まぁ、、でもうちらはある程度知ってたことやからなー。」
「何それ?どんな噂流れてんのよ?」
「噂流したやつは分かる?」
「マイやろ?それは知ってる。」
「そうやんねー。あの子となんかあったん?」
「んー、まぁちょっと。」
「怒らせたん?」
「…たぶん。」
「そうかーやっぱりなー!あの子もめんどい子やわー。」
「それで、噂の中身はって!」
「あーはいはい。“センパイは3年の人とラブラブやったけど実は付き合ってなくて、今フリーで相手が女でも全然オッケーらしい”みたいな感じ、やんな?クミ。」
「うんうん。そう!やから、たぶんあんたこれから女子めっちゃ寄ってくると思うで?……ふふふ!」
想定外の内容にかなり動揺した。マイは、マコ先輩とあたしがした内容までは言ってなかったんだろうか。
「え?そんな感じなん?」
「うちらが聞いたのはそういう感じやなー。あの子の口から聞いたわけじゃないから、実際にマイが何て言って拡めたのかは知らんねんけどね。」
「確かに、それは分からんよね。」
「でもさー、そろそろみんなあの子の相手するの疲れてきてるんよね。根が真面目で優しいところもあるからみんな好きではおるけど、あれだけ可愛こぶって露骨に“ブリブリ”されたらねー。」
ソラの言葉にクミが笑いながら言葉を被せた。
「あはは!わかるー!うちはあの子の裏表ありまくるところ逆に好きやけど、深く仲良くなるとしんどそうー。それに、人によって声変わりすぎやしねー。特にあんたに話しかける時とか、あんたと話してる時の声は聞いてるだけでゾワゾワするもん。」
「そうそう!あんたほんまにあの子から好かれてたんやろうねー。それで、なんか怒らせたんやろ?たぶん反動でエグい噂とか流そうとしたんちゃう?ただ、あの子の話まともに聞く子ってどれだけおるんやろ。あの子よく嘘つくし話も勝手に盛るからなー。」
「あはは!盛るどころか、大盛りやもんね!」
「「なー♪」」
2人がすごく楽しそうに声を合わせて笑っていた。
マイの陰口のような話題でいつものように笑う2人が、なぜかその時は頼もしく見えた。そして、どこか安心している自分がいた。マイに対して自分が抱いていた感情は、そこまで間違っていなかったみたいだ。
ソラは楽しそうに話を進めた。
「マイにあんな声出されて、あんたもよく耐えてるなーって思うわー…ってどないしたん?」
「…いや、みんなもそんなこと思ってたんやって。」
「思うよー。あんた以外の2年はもうあの“ブリブリ”出たらほとんど相手してないしねー。男子はアホやから通用するみたいやけど、女バスでやってもイライラさせるだけやのにね。1年もしんどそうな子は多いで?」
「そうなん?全然知らんかった…。でも、あの子が率先してあたしのこと手伝うからみんな手伝ってくれてるんやろ?」
「はぁ?何の話それ?みんなあんたやから手伝ってるんやろ?」
「…そうなん、、?」
「あんなー、前ミーティングでキャプテン決めた時、“1、2年の中では決まってる”って言ったやろ?うちとクミがが全員から聞いてあんたになったんやで?」
ソラが言っていることは、単純に考えればごく普通のことだった。でも自分のことになると不安で仕方なくて、あたしはみんなが自分を信頼してくれているのに、みんなを信用できていなかったんだ。
この2人に弱みを見せようと思った。
「…正直な、ちょっと怖かったんよ。噂流れたら、みんなからどんな目で見られるんかなって、、またひとりになるんかなって、。」
「…だからー、女バスのみんなは知ってるって、あんな噂。」
「…そうなん?」
「あんたがマコさんのことめっちゃ好きなのも分かるし、マコさんがあんたのこと気に入ってたのも分かる。それに、今付き合ってる人いないのも知ってるし、あんたが男とか女とか“そういうの”気にしないってのも知ってるって。」
「そうそう!流れてる噂は全部ほんまのことなんやから、あんまり気にしたらあかんよ!まぁ、最後のが他の女子に知られたら、ある程度はめんどくさそうやけど…ふふ♪」
クミはあたしが女子から告白されることがとにかく面白いみたいだ。彼女はそのまま続けて口を開いた。
「あ!でも、この間うちに色々彼氏の話聞いてきたんやから、マコさんとのラブラブ話聞かせてやー?」
「えー?良いなー!じゃぁ、うちもあんたに話さなあかんことあって、今からそれ話すからあんたの話聞かせてや?マコさんとの熱〜い話♪」
2人が聞きたがる話を笑いながら逸らして、ソラの話を聞いた。ソラは先輩達の引退式の後、3年の水泳部の男子に告白したらしい。それが見事に成功したようだ。ソラにも彼氏ができていた。
少し寂しさはあったけれど、あたしとクミはそれを祝福して、彼氏のことや好きになった経緯等を詳細に質問攻めをした。そんな恋バナに花を咲かせながらあたし達はゆっくりと歩いた。
気付いたら、あたしの中にあった不安は2人と話している間に綺麗になくなっていた。
帰宅すると、母は数枚のブラジャーをあたしに渡して“キャプテンになったご褒美”と言った。
お風呂から出て、ブラを着けた姿を鏡で見た。少しだけ大人になった気分だった。




