本気
-10211#-
「センパイ♪」
後ろからマイに声をかけられた。
「あ、マイ。」
「あれ?今日は驚かないですねー。」
クミとその彼氏の楽しそうな様子を眺めてなんとも言えない気持ちになっていた。
「また驚くかと思ったのになー残念ー♪…センパイ?…もしかして、羨ましいんですか?あれ。」
「…羨ましくはないかな。でも、なんか楽しそうやなって。クミが笑ってて良かったなって。そんな感じ。」
「ですよねー。クミさん超美人ですし、彼氏さんもイケメンやし、お似合いカップルですよねー♪楽しそう!でも、あたし達もお似合いだと思いません?♪」
「え?あ、あはは。そうかもねー…。」
「なんですかー!その反応!むー!…ウフフ♪じゃぁあの2人のお邪魔になるので、退散しましょう?あたし達も楽しく帰りましょうー♪」
「あ、せやね。いこ。」
あたしはさっき湧き上がった感情が何なのかが見当たらなくて、考えていた。そのせいで少しぼーっとしていたけど、マイがあたしの目を覚ますみたいに先導してくれて、校門を出て帰り道を歩く頃には我に返り始めていた。
マイの他人を先導できる人柄は、後輩とか関係なく感心した。彼女の周りに友達が多い理由が少しだけ理解できた。
帰り道、あたしは好きな音楽と好きな漫才コンビの話をした。マイはJ-POPの多人数アイドルグループや美男子アイドルが好きだったようで、あたしの好きなバンドや洋楽のフォークデュオにはあまり興味がなさそうだった。
漫才コンビに関してもあまり興味がなかったようで、年末の漫才コンテストの話をすると“そんなのがあったのは知ってますー”と言っていた。当然その漫才コンテストに出ていた、あたしイチオシの“ポイズンガールなんとか”は知らなかった。
それでも彼女は楽しそうに話を聞いていた。その風景が少しだけつい最近までのマコ先輩とのあたしを思い出させた。
「なんか、センパイって男子と話合いそうですよね♪」
「あーお兄ちゃんいるから、昔からその影響で男子の好きなもの好きやったんよね。だから、男子とは話合うね。」
「ですよねー♪だから逆に話しやすくて男子は気付かないのかも知れませんね♪」
「ん?何に?」
「…ウフフ♪センパイはそうですよねー♪」
「んー?」
「秘密ですー♪…あ、。」
T字路に辿り着いた。ここはあたし達の分岐点ではなくて、以前あたしが彼女を避けるために嘘を吐いた場所だった。
彼女はそこで思い出したような声を出して、歩みを止めた。
「どうしたん?立ち止まって、いこ?」
「…今日は用事はないんですか?♪」
彼女は笑ってこちらに尋ねた。
「あー、うん。」
「ふーん。…あれ、嘘ですか?♪」
なんとなく、彼女が体育館の扉を開けた時から今日この話題になりそうな気がしていた。
あたしは彼女がこれから話すこともおおよその予想がついていて、それに対する答えも考えていた。
「なんでそう思うん?」
「んーと、マイもあの後、そっちに用事があったの思い出して引き返したんですよね、で、その…」
「たまたまマコ先輩と歩いてるところ見かけた?」
「…はい。でも、ほんとにたまたまで!」
「やろうね。うん。それはたぶんあたしとマコ先輩。」
「ですよねー。じゃー、用事ってマコさんに会うこと?」
「ううん、それは違うよ。マコ先輩とはたまたま会っただけ……というか、先輩が追いかけてきてくれた。」
「じゃー用事があるのは、嘘ってことですよね?センパイに嘘つかれちゃったー。」
そんなことを言いながらも彼女は随分と余裕そうだった。
「…あの日、キャプテンにみんなから選ばれて、まさか自分がなるなんて思ってなくてね。すごく不安とかあって、1人で考え事したかったんよ。それで、マイに嘘ついた。ごめん。」
あたしは軽く頭を下げた。
「そんな、頭下げないでくださいよー♪そっかー。それは逆にマイが空気読めてなかったですね。マイの方こそ、すいませんでしたー♪」
彼女は笑いながら軽く会釈をした。そして、顔を上げるタイミングで一度深呼吸して話を続けた。
「でも、ならマコさんにはなんで嘘つかなかったんですか?♪」
「…。」
「1人になりたくてマイに嘘ついたのに、マコさんは嘘つかないのって変じゃないですか?♪」
「…変じゃないよ。」
「そういうの、エコ贔屓ですよー?♪」
「ちゃうよ。マコ先輩はあたしを心配してくれて、あたしの話を聞いて、アドバイスしてくれた。先輩として。あたしがその時不安だったことも知ってて、先輩は追いかけてきてくれたんよ。同期とか後輩に頼るの、あたしが苦手なの知ってて、“もっと仲間を頼れ”って言ってくれた。」
「ふーん。そうですか。それは確かに、マイにはできないですね。じゃぁ、その後のことはどう説明してk…」
「あのさ、」
「はい?」
「マイの用事は何やったん?」
「それは、えっと…」
「マイの方こそさ、結構見てるよね、あたしのこと。“たまたま見かけた”とか、そんなレベルじゃくない?」
「…。」
「その後のことも結構知ってるみたいやけど、用事は済んだの?…それで言えばこの間あたしと先輩が、、ハグしてるのも、色々詳しく知ってたやん?たまたま見かけたらしいけど。」
「…。」
「…別に、嘘ついたかどうかを聞いてない。あたしの言いたいことわかる?」
「…わかりますよ。」
マイの顔から笑顔がなくなった。
「わかります。マイも悪いところはあります。けど外でマコさんと、、キスなんかしたら、付き合ってると思われても仕方ないんじゃないですか?」
「…そうやね。やっぱり見てたんや。」
「見てましたよ。…センパイが子どもみたいに泣いて、ました。あんなセンパイ…見たことなかったです。」
「うん…なんであんなことしてたんやろうね、あんな場所で。」
「…マイだって…ウチだってセンパイのこと好きやもん!」
マイは怒りと羞恥が入り混じった顔であたしを見ていた。いつもの愛嬌がある分、彼女の一人称が変わったことでその本気が伝わった。
「…うん。」
「マコさんと付き合ってないならウチと付き合ってください!マコさんにしたみたいにキスしてください!」
「…。」
「なんか言ってくださいよ!…キスしてくれへんかったら…付き合ってくれへんかったら全部バラします!」
「…そう。」
「いいんですか?全部バラして、ウチもセンパイのこと手伝わなくなったら、みんなセンパイから離れますよ?」
「…そっか。」
「……部活だけやと思ってます?学校中にセンパイとマコさんのこと言いふらします!」
「…うん。」
「やから…ウチにもマコさんみたいにしてください!」
彼女の声が段々震えていった。涙を堪えているのがわかった。
「…それは、できへん。」
「…なんなんこの人!」
(ドサっ…)
マイがあたしの胸に飛び込んできた。マコ先輩に同じことをした自分を見ているみたいだった。
「センパイ…」
彼女はあたしの方を猫みたいな顔で見て、ゆっくり背伸びをした。
あたしはマイの顔との間に手を入れた。
「…ごめん。」
「………ほんまなんなんですか。ウチがそんなに嫌ですか?ずっとわかってましたよ、避けられてることくらい…。」
彼女はそのまま泣き始めた。
あたしは突き放すことも抱きしめることもできず、そのまま直立していた。
30秒程度、彼女はそのままあたしの胸で泣いた。
マイはあたしの体から離れて涙を拭いながら話し始めた。
「…本当にいいんですね?全部、言いますからね?」
「…それは嘘じゃないし、マイが見たことそのまま話していいよ。できれば、あたしの名前は出しても先輩の名前は出さんといて欲しい。」
「…失礼します。」
「あのさ。」
「…はい、なんですか?」
「…もしあたしが“言わんといて”ってなって、マイの言うこと聞いて付き合えたとしたら、キスできたとしたら、それで嬉しかった?」
「………ほんま、なんなんですか。もう知らんし。」
マイはそう言って軽くお辞儀だけして帰って行った。
同じ帰り道のあたしは、彼女の姿が見えなくなるまで見届けて、逆の道を歩いて帰った。
お読みいただきありがとうございます!
眼を少し患っておりまして、誤字脱字等注意しているのですが多くなってしまいがちです。読み辛かったら申し訳ありません。気軽にご指摘して頂けると大変助かります。
もし気に入っていただけたら、ブックマーク、評価、コメント等よろしくお願いします。
とは言え、読んでいただけるだけで幸せです。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。




