井戸端会議
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ユニフォームは全員に行き渡った。
あたしが8番、ソラがエースナンバーの11番、そしてキャプテンナンバーの4番は、監督の独断で来年のキャプテンまでお蔵入りすることになった。
各々の部員がそのユニフォームを大事にカバンにしまって、その日は解散となった。
あたしは副キャプテンのソラと、これからのやり方について話し合うという名目で一緒に帰った。と言っても、単純に一緒に帰ることが目的で、特段話さなければいけないことなんてなかった。
ソラが嬉しそうにあたしに話しかけた。
「あー、久しぶりやなーあんたと帰るの♪」
「そうかな?結構一緒に帰ってると思うけどー。」
「ちょっと前まではな?最近はずっとマコさんやったやん?ちょっと妬いたわー…あは♪」
「あはは!確かに、マコ先輩と帰る回数急に増えたー。なんでか分からんけど、話すの楽しかったかなー。」
「ヘンコ同士やからな?ははは!」
「やめてやその言い方ー…ふふ!でも妬いてたとか大袈裟すぎやってー。」
「まーねー。でも少しは、やっぱり妬いてるかなー。特に今日は…。」
「今日?」
「…4番のユニフォームなんてさー、みんなの憧れやで?あのキャプテンが着てたユニフォームやで?」
「あー…ソラは“キャプテン推し”やったもんね…」
「“やった”ちゃう!今でも現在進行形でうちの憧れやの!」
「あはは、ごめんごめん。」
「その4番をあんな簡単に断って、一目散に8番取りに行くんやもん。“何こいつ!”ってなったわー。そんなにあんたから好かれてるマコさんも羨ましいし、キャプテンの4番がなんか可哀想やったわ。」
「……ん、それはごめんな?別にキャプテンのことは、あたしもすごく尊敬してるし、憧れの人の1人やで?ただ…やっぱり8番しか考えられなかったかな。」
「…………ほーんま妬けるわー!!」
(ドカっ…!)
ソラがあたしの頭を強めに叩いた。
「ぃっったー!!!」
「そんなんやったらうちに4番譲れやー!」
「それは監督に言ってや!あたしは知らんし!」
「…ふふ。」
「……あはは!」
あたし達は仲が良かった。副キャプテンがソラで良かった。
「………そんなに好きなんや?マコさんのこと。」
「……まぁ、好きっていうか、憧れ?んー、憧れてもないかな。なんやろ、、」
「そうやんなー。分かる。あの人に憧れてもあんなのなれへんもん。この前の決勝リーグの時、大学生のバスケ部の人が“意味わからんくらい上手い”とか褒めてたらしいで?ほんまに何なんやろ、あの人。しかも普段から意味わからん過ぎるし、話してること全然理解できへん。」
「あはは!そうやんね!それはあたしも!」
「……あんた、よくあんなに仲良く話せてるよな?あんたも充分意味わからんわ。」
「…そうかもなー。」
あたしは空を見上げた。綺麗な月が周りの雲を照らしていた。
「……まぁ、マコさんのこと憧れてる子は多かったし、あんたがその中から8番取ったんやから、マコさんくらいのことしてや?あは!」
「そんな無茶な!!…ってか、他にも欲しがってる子いたん?8番。」
「当たり前やろー?マコさんやで?あんたが名乗り出なかったら取り合いのバトルロワイヤル始まってたで?」
「うそ?!」
「ほんまやって。あんたそういうところほんまに鈍いよねー。」
「そうなんやー。悪いことしたかな。」
「ええんちゃう?それはキャプテンの特権やって。別にうちも何とも思ってないし。」
「そうかー。」
「あ、でも、んーどうなんやろ。」
「…え、なに?」
「結構8番狙ってた子多かったけど、たぶん簡単に諦めたと思うんよね。ただ、あんたが8番手に取った時、めっちゃ悔しそうな子いたんよねー。」
あたしは嫌な予感がした。
「それ、…マイ?」
「あ、見てたん?そうそう!マイ!あの子。めっちゃ悔しがってる感じやったやろ?」
「…見てへんけど、わかる。」
「へー。なんか、、マコさんの残したものは色々大きいみたいやね。」
ソラは笑っていた。彼女はそのまま言葉を続けた。
「うちが見るところ、マイは“あんた推し”やったから、あんたの13番を選ぶと思ってたんやけどなー。実は“マコさん推し”やったとはなー。…まぁ、何にしても気をつけなあかんで?あの子、天然ぶってるけど割と頭いいし、かなりめんどくさいからさー。」
バスケ部の情報網であるソラの話し方は、まるで井戸端会議のおばさんのようだった。彼女はあたしにそうやって注意喚起をしつつも、楽しんでいそうな表情だった。
その楽しい気持ちも理解できた。逆の立場なら、あたしもそうだったかも知れない。
だかど、ソラの見立てがひとつだけ間違いがあることを知っていた。マイは、間違いなく“あたし推し”だった。
この事実だけがソラの予想を大きく裏切っていた。ただ、マイを危惧する気持ちだけは互いに一致していた。
「あの子さー、今日も更衣室で“センパイとマコさんはラブラブやから8番取られたのはしゃーない”みたいなこと笑いながら話してたで?あの子も『ヘンコ』やわー。ははは!」
あたしはその言葉に適当な相槌を打ってその場をやり過ごした。
ソラとの分岐点に着いた。
普段通りに挨拶を交わしてあたしは1人で家に向かって歩き始めた。
「セーンパイ♪」
後ろから呼びかけられたけど、誰だかはすぐに分かった。
振り返ると、マイが笑って立っていた。
お読みいただきありがとうございます!
眼を少し患っておりまして、誤字脱字等注意しているのですが多くなってしまいがちです。読み辛かったら申し訳ありません。気軽にご指摘して頂けると大変助かります。
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