表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蝙蝠の歌 -mintdrop-  作者: u
29/62

花のように




-10193#-




キャプテンに選ばれた。

副キャプテンはソラになった。


嬉しいよりも不安が勝った。ただ、監督に半分言わされたとは言え自分が決めた答えだ。もう腹を括るしかなかった。


その後、すぐにこの日の部活は終了となり、あたしとソラの2人が残され、キャプテンと副キャプテンから“キャプテン達の仕事”を引き継ぎされた。


特別なものは少なくて、“責任を持って”とか“周りをよく見て”とか、そういった心構えばかりだった。特別だったことと言えば、“監督が来れない際の練習メニューの組み立て”と“号令を全てキャプテンのあたしが掛けるようになる”ことくらいだった。

練習メニューは、組み立てるといっても大体やる練習は決まっていたので難しくないし、号令も今まで散々キャプテンのそれを見てきたから、問題はない。


他にも色々あったけれど、本当に難しいことはなかった。なのに、プレッシャーだけがどんどん重くのし掛かっていた。


ソラは“キャプテン、よろしく〜♪あんまりうちに迷惑かけんといてな?”と余裕な感じであたしを揶揄っていた。それに上手く返すことのできないあたしの様子を見て彼女は何かを察したようで、“なんも変わらんよ。大丈夫。”と言って頭を2回優しく叩いてくれた。




ソラは用事があるらしく、学校に残った。あたしはそのまま早めに帰宅することにした。


校門の手前で、少しだけマコ先輩を期待した自分がいた。校門の向こう側で、先輩がまた待ってくれているような気がしたんだ。




校門を出て周りを見渡したけど、先輩の姿はどこにもなかった。期待が外れて、少し肩を落とした。



「キャプテン♪おめでとうございまーす!」


「っわぁ…!!!」


「キャハハ♪センパイ驚きすぎ!」



背後からあたしに声を掛けたのはマイだった。彼女はやけにテンション高く声をかけてきた。



「マイかー。」


「なんですかぁ?マイじゃダメでしたかぁ?マコさんの方が良かったですかぁ?」


「ぅ…ちゃうよ。いきなり後ろから声かけられたら誰でもびっくりするって。」


「ウフフ♪今日も一緒に帰ってくれませんか?♪」


「あー、……うん、別にいいよー。帰ろっか?」


「やったー♪」



彼女はモーニング女性アイドルグループのミリオンヒット曲を鼻歌で口ずさみながらあたしの横を歩いた。



「〜♪センパイー?あ、キャプテンって呼んだ方が良いですか?」


「それ、イジってる?前と変わらない方でいいよ。」


「はぁいー。別なイジってないのにー。本当おめでとうございます♪」


「んー、別にめでたくはないかな。」


「そうですかぁ。せっかくキャプテンになったのに元気ないですねー。んー…あ!マイが元気出してあげましょうか?」


「別に元気ないわけじゃないけど、どうするん?」



マイが立ち止まり、こちらに体を向けて両腕を広げた。



「はい、どーぞ♪」


「はい?」


「マイがセンパイをぎゅーてあげます♪」


「……それ、マイがしたいだけやろ?」


「ちゃいますよー!センパイのこと想ってしたのにー!むー!」


露骨に膨れっ面をした。たぶん、可愛い行為なのだろう。


「ごめんってー……でも、やめとこ?大丈夫やから。」


「えー?なんでですかー?」


「いつもと違って今日は時間早いし、周りに下校の生徒いっぱいおるやん。それに、」


「それに?」


「それに前“一回だけ”って約束したやんか。」


「えー?意地悪ー。」


「意地悪ちゃいますー。約束は約束やろ?」


「……はぁい。」


「…でも元気づけようとしてくれてありがとうね。」


あたしは、さっきソラがしてくれたみたいに頭を優しく2回ポンポンと叩いた。


「えへへー♪嬉しい♪」


「……じゃ、あたし今日用事あってこっちから帰らなあかんから、この辺で。」


「あ、そうなんですか?すいません!用事あったのに付き合わせて!」


「あはは!いいよー。気にせんといて。じゃぁね。」


「はい!失礼します!」



突き当たりのT字路をいつもと逆の方に曲がった。

あたしはまた彼女に嘘を吐いた。

別に用事なんてなかったのだけれど、彼女があたしにかける甲高い言葉が今の気分とは少しズレていて、僅かに煩わしく感じていた。あたしはマイを避けるために、嘘を吐いた。





歩きながら何度か振り返ると、マイはいつもの帰路についていた。

あたしは、遠回りにはなるこの道をそのまま今日の帰り道にすることにした。

少し道を進んで遠回り道の順路になる十字路を曲がった。


これからキャプテンとしてどうしていけばいいのか、先輩達みたいに立派な成績を残せるか、そんなことばかり考えながら歩いていた。





「………どーん。」


(ドンっ!)



あたしの背後に誰かが体当たりをした。今日は背後から何かされることが多い日らしい。


「った…!だれー?……あ、先輩…」


振り返ると、何故かマコ先輩がこの道にいた。


「………どーん!」


(ドンっ!)


「もういいですって!あはは!なんでこっちにいるんですか!?」


「………なんで?…………んー、、あ、こっちの道は、ツチノコとタランチュラが闘った痕跡があるらしい………うん。」


「……ふふ、なにそれ!!あはは!!」


先輩のすぐわかる嘘に笑いが止まらなかった。急に心が軽くなった気がした。


「あははー。…それで、痕跡は見つかりましたか?」


「………それは、そんな簡単に見つけられないから。」


「そうですか…ふふ。はぁー、ありがとうございます!」


「………?」


「わざわざ心配して来てくれたんですよね?」


「………。」


「でも、それなら声かけてくれたら良かったのに。」


「……1年の子と歩いてたから。…わたしは、あの子苦手。」


「そういうの普通に言いますよね…あはは…。でも、気持ちはわかります。良い子なんですけどね。」


「………今日はわたしの引退記念日なのでごさる。」


「ふふ、はい!」


「……だから、今日あんたはわたしのん。わたしのんやからね。」


「あはは!はい!先輩のんです!」


「……このまま遠回りして帰るぞい。」


「はい!先輩!」



不思議と、先輩に声をかけられてからあたしは自然な笑顔になっていた。

さっきまではマイの機嫌を損ねないように頬の筋肉を無理に吊り上げていたのに、先輩が隣にいるとさっきまでの不安や煩わしさが居なくなって、気持ちが楽になっていた。


帰り道、先輩は上半身を平泳ぎみたいなモーションで空中を水掻きしながら、竹取物語は全て宇宙から来た生命体の物語だという説を熱弁していた。




遠回りした帰り道のおかげで、時間はどんどん過ぎていった。夕陽が沈んで少しずつ暗くなっていって、暗くなる毎にあたし達2人の分かれ道も近づいた。

こうやって先輩と一緒に帰ることも、もう無くなると思うと心細くなって、少しだけ歩くスピードを落とした。先輩も、それに合わせてくれているような気がした。




「…へぇー…だから月にうさぎなんですねぇー…なるほど。」


「…………ねぇ。」


「はい?なんですか?」


「………ぬふふ…。」


「え、なんですか?!急に!」


「………嘘つき…ぬへへ…。」


「っ?!なになに!?」


「………なんでこの道来たん?」


「あ……」


「………嘘つき。ぬふふ…。」


「もう!なんで先輩はあたしが嘘ついた時そんなに嬉しそうに笑うんですか!?やめてくださいよ!」


「ぬへへへへ…。」


「もぉ!…ふふ。ほんまに先輩、謎ですね、あはは!」


あたしも堪らずに笑ってしまった。


「……ねぇ。」


「あははー…はい?」


「………キャプテン、頑張れそう?」


「…はい。さっきまですごく不安でしたけど、なんか先輩と話してたらどうでも良くなりました。あはは。」


「……そっか。…それでいいよ。」




彼女は立ち止まって、すごく優しい笑顔をした。その顔は綺麗な花のようだった。




夏を知らせる緩やかな南風に揺れる先輩のセミロングの髪が、優しく微笑んだ口元にサラサラと当たっていた。




「……あんたは、あんたらしくでいい。……わたし達の真似も、同じ成績を目指す必要もない。……キャプテンやからって…ずっと強くいないといけないわけじゃない。……仲間に弱みも見せて、もっと強くなり。……あんたは、独りじゃないよ。」



彼女の言葉が、今の間だけ隠していた不安さえも総て取り除いてくれた気がした。

自然と涙が出ていた。




「……ん。」


先輩はまるでさっきのあたしとマイのやり取りを見ていたみたいに、或いは見ていてわざとそれに合わせるように、あたしに体を向けて両腕を広げた。



「……s…せんぱい……3年かん、お疲れ、さまでしたって、言わなあかんのに……すいません…」


(ガバ…)


先輩の胸に飛び込んだ。


彼女はまた前みたいに腕をあたしの頭に回して、優しく身体を包み込んだ。


(ぎゅう…)


優しく抱きしめられる腕が、ほんの少しだけ強く締まる度に涙が溢れた。あたしは小さな子どもみたいに泣いていた。


辺りはまだ完全に暗いとは言えない時間で、通行人がいてもおかしくなかったけれど、そんなことどうでも良かった。どうせ、あたしが泣きついているようにしか見えないだろう。

誰か知り合いに見られても、“部活の引退式で感極まった”と言えば誰も不思議に思わない。あたしにはそんな大義名分があった。だから躊躇いがなくなっていたんだ、と思う。



先輩の背中に手を回して、先輩の胸に顔を埋めて、全力で泣いた。



この時泣いたのは、キャプテンが不安だったからじゃない。きっとマコ先輩と離れることが嫌だったからだ。


もっとバスケしてるところをそばで見たい。

もっと一緒にバスケがしたい。

もっと意味不明な話を聞きたい。

もっとヘンテコな動きを隣で見ていたい。

もっと優しい言葉をかけてほしい。

もっと先輩の笑った顔が見たい。

もっと、もっと……。





涙が少しずつ止んで、あたしは胸に埋めた顔を上げた。


先輩は花のように微笑みながら、泣いていた。



先輩と眼が合った。



先輩のセミロングの髪が、あたしの口にサラサラと当たった。




彼女の唇がゆっくりと動いた。





“今日はわたしのんやからね。”





あたしはゆっくり背伸びをして、






唇を重ねた。





お読みいただきありがとうございます。

関西の方言をご存知じゃない方のために補足します。関西では「わたしのん」、「お前のん、」「こっちのん」と、人称や代名詞に「のん」を付けることがあります。これは「〜のもの」と、前に付いた対象の所有物であることをを示す言葉です。

今タイトルは私が敬愛するバンドの曲から拝借しました。最近活動再開の知らせを見て思わずタイトルを変更しました。クセはありますが良い曲なのでそちらも是非。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、広告下の評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ