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蝙蝠の歌 -mintdrop-  作者: u
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大人の知らない世界




-10181-




先輩達は最後の大会を順調に勝ち進み、決勝リーグまであと1勝のところまで来ていた。

あたしはベンチメンバーとして出番を待ち、点数に大幅な差がついた時や調子の悪いメンバーがいた時だけ少しの時間試合に出たりしていた。




マコ先輩とは、最近あまり一緒に帰らなくなった。先輩に抱きしめられた翌日も変わらず彼女はあたしを校門で待っていて、気まずさはあったもののなんとなく断れなくて一緒に帰った。

その時の道中も先輩はいつも通りで、シャドーボクシングのような変な動きをしながらピラミッドとミステリーサークルの作り方の共通点を熱く語っていた。昨日の全てのことがなかったみたいに淡々としていた。

あたしは出来るだけ頑張って平然を装った。先輩が気付いていたかどうかはわからないけれど、先輩のするピラミッドの〈トリビア〉にあたしが食いつくと、“…ぬへへ”と笑っていたので、たぶん気付いてない、と思う。

その日以来、先輩と帰ることはなくなった。



一緒に帰らなくなったことに特に寂しさはなかった。仲が悪くなった訳でもなく、次の大事な試合に向けてキャプテンが下級生を先に帰して、3年だけで居残り練習をするようになったことが理由だった。




-10181#-




その日の放課後練が終わった後も、キャプテンはあたし達を先に帰した。

先輩と帰ることができなくなったので、この間あたしと帰りたがっていた後輩との約束を果たすことにした。

更衣室であたしから誘ってみると、彼女は飛び上がって喜んだ。


帰り道、いつもは先輩が1人で好きな話を沢山して、あたしはそれを笑って聞いていることが多かったせいか、あまり話題が出てこなかった。後輩も緊張しているみたいであまり会話が続かなかった。



「……あの、センパイ。」


「ん?なに?」


「すいません、つまらないですよね。」


「あ、いや!ちゃうよ!ごめんごめん、なんか、マコ先輩と帰る時は基本あの人がずっと話してるから、調子狂っちゃって…。」


「マコさんって、そんなに話すんですか?!めちゃ無口なイメージでした。」


「あー……まぁ確かに、あんまり誰かとワイワイ話してるの見たことないかも。」


「ですよね?!へぇー。センパイしか知らないかもですね。」


「どうやろ?キャプテンとか副キャプテンの方が付き合い長いし、あたしよりマコ先輩には詳しいよ。」


「できたら…、」


「ん?」


「できたら、マイもセンパイのこといっぱい知りたいです!」


後輩は自分のことを名前で呼ぶタイプの子で、オブラートに包まずに言えば、彼女は“人工天然ぶりっ子”だった。

声色が人によって大幅に変わり、特に年上の相手になると甘えるような甲高い声を出した。天然を装う行動も垣間見えていて、正直あたしはマイのそういうキャが苦手だった。

周りはそんな彼女に気付いていないのか、彼女は男女共に友達が多かった。



「え、いっぱいって言われても…。」


「マコさんの次はマイと帰ってくれませんか?」


「あのー、別に決まった人と帰ってる訳じゃなくて…。」


「マコさんとはいつも一緒に帰ってるじゃないですかー。」


「それは、半分無理やりなところもあるから…。」


「ふーん。それやのに楽しそうですよね。たまに帰り見かけますけど、今よりもっと楽しそうです。」


「今日初めて帰るのにさー、そんなこと言わんといてよ。」


「ウフフ♪すいません!センパイの困ってる顔見たくて、意地悪言いました♪」


「なにそれ?わからんなー。」


「センパイ、どうやったらバスケって上手くなるんですか?」


「あー…んー……。」


「センパイ?」


「最近バスケばっかりしてるからさー、部活中以外でバスケの話するのやめていい?」


「…っ!そうですよね!ごめんなさい!マイ、全然センパイの気持ちわからなくて、アホですいません!」



彼女は笑いながら謝っていた。

その時あたしがバスケの話をしなかったた本当の理由は、毎日バスケばかりしているからではなくて、マコ先輩の言葉を真似をしてみたかったから、ただそれだけだった。



家が近くなるにつれてマイとの会話は少しずつスムーズになった。あたしは好きなテレビ番組と最近ハマっている漫画の話をして、彼女はそれを嬉しそうに聞いていた。実際楽しく感じていた。なのに、どうしてかマコ先輩と話している時に感じるような、心が洗われる感じはなかった。




「へー!センパイってそういう漫画好きなんですねー!いっぱいセンパイのこと知れて嬉しいなー♪…あ、でもマコさんはもっといっぱいセンパイのこと知ってるもんなー。しゅんー。」


彼女は露骨に寂しそうな態度を見せた。


「いや、マコ先輩は知らないよ?こんな話したことないし。」


「そうなんですか!?やったー♪マコさんにひとつ勝ったー♪でも、それならいつもどんな話してるんですか?」


「んー、さっきも言ったけど、基本は先輩が話してるからー…。」


「どんな話を?」


「んー……UFOとか、ピラミッドとか?」


「……???」


「そうなるよね、あはは…。でも、そういうなんでもない話かな。」


「…前にセンパイ、“大切な話してる”って言ってましたけど、それが大切な話なんですか?」


「あ!違うよ!普通に大切な話もするで!?」


「……ふーーーん…。ま、いいや♪」


たぶんマイは焦ったあたしの嘘に気付いて、それをなかったことにしてくれたみたいだ。


「……なんかごめんね?」


「何がですか?全然ですよ?……それより、別で聞きたいことがあるんですけどー…。」


「なに?」




「この間…マコさんと、この辺りで…ぎゅーしてました…?」




「…え?」


「べ、別に見るつもりはなかったんですよ?!マイは通学路2人と同じ方向だから、普通に帰ってたら、、たまたま見かけたっていうか…。」


「……。」


「あの、あれセンパイとマコさんですよね?」




逃げ場がなかった。彼女は狡猾に話を進めていた。嘘はもう吐けなかった。



「…うん。せやね。それはあたし達。やけど、別にマコ先輩とはそういう関係じゃなくて、あのとk…」


「別にどうでもいいです。理由とかは。」


「…いや、話聞いてよ。」


「いいんです…聞かなくても。マイは、センパイに…ま、マコさんと同じようにして欲しいだけです…。」


彼女は恥ずかしそうな顔を見せて、下を向いた。




「同じようなことって、だから、あれは先輩が…」


「マイじゃダメですか?」


「いや、そういう話じゃなくて…」


「マイはセンパイよりも背は低いし、ぎゅーのやり甲斐ないですか?」


「だから、そういう話じゃなくて!」 


「……わかりました。なら他の子に言います。」


「………あのさ、脅しみたいなこと言わんといてくれる?」


「いいんですか?マイは他の子に言います。センパイがぎゅーしてくれたら言いません。マイとセンパイだけの秘密です♪」



この子には敵わないような気がした。なぜそこまであたしにハグを求めるのかも分からなかったし、従わないといけないような脅威を感じた。



「……わかった。でも、一回だけやよ?」


「…わかってます!」


マイは目を閉じて、また下を向いた。

あたしは周囲を見渡して誰も見ていないか確認した。





(ぎゅぅ……)






5秒くらい経った。あたしの心は何も踊っていなかった。寧ろ“早く終われ”とさえ思っていた。




「……もういい?」


「んー…センパイいい匂いするんで、もう少しだけ…」


「もー…」



ソラはあたしにハグを頼まれた時こんな気分だったんだろうか。酷く、面倒臭かった。


心の中であと5秒だけ我慢した。



「…はい!終わり!」


「…えー?もう終わりですか?マコさんとはもっと長い時間してたのに…。」


「マイ……アンタ全部見とったやろ?」


「えー?知りませんよー♪ウフフ♪」



彼女はそう言いながらあたしにお辞儀をして1人で帰って行った。



変な後輩が懐いた気がした。


マイはあたしより少し背が低くて少しだけふっくらしていて、女の子らしい体付きだった。男子からすれば柔らかくて抱きしめ甲斐があるんだろうけど、あたしの得た感触は以前のものとは明らかに違った。


マコ先輩はもっと、なんというか、優しい気持ちになれるような、そんな感触だった。





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