身体が汗ばんだ
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二日間欠席したマコ先輩は、何事もなかったような雰囲気で翌日から登校した。勿論、部活も。
キャプテン達みたいに彼女の様子をしっかり窺ってみたけれど、あたしにはいつものようにしか見えなかった。
朝練も昼休み練も、放課後練も先輩は至って普段通りに練習をこなしていた。
その日の練習が全て終わった。今日はマコ先輩には帰りを誘われなかった。最近よく一緒に帰ることが多かったが、別に毎日一緒だったわけではなかったから不思議ではなかった。
でも、少しだけ寂しい気持ちがあった。こういう時にはキャプテン達と一緒に帰ったりして弱音を言ったりするんだろう。後輩のする役目ではない。
そう思いながら更衣室で着替えていると、マコ先輩は先に部屋を出ていった。それとすれ違うようにキャプテンが部屋に入ってきた。
「…あれ?あんた、今日マコと帰らんの?」
「あー…てっきりキャプテン達と帰るものかと思ってました。あたしは、なんて言えば良いか、、はは…。」
「えー?いや、あんたやろ?行くべきなの。私達には荷が重いってー。なぁ?」
キャプテンが周りに同意を求めると、先輩達は声を揃えて“うんうん!”と言っていた。
「で、でも、どんな話したら良いかわからないですよ…。」
「……はぁ?」
「え?」
「あんた、マコといっつもどんな話してるの?」
「…まぁ、よく分からない話ですね。」
「そうやろ?あはは!いつも通りわけわからん話したらいいやん!」
「は、はい!ありがとうございます!」
キャプテン達に軽くお辞儀をして、急いで着替えを済ませてマコ先輩を追いかけた。今ならまだそんなに遠くへは行っていないはずだ。
あたしは校門を出て一度立ち止まり、先輩の背中を探した。けれど、背中は見えなかった。
「…………おーい。」
「っ!??」
後ろから声がして振り返ると、マコ先輩が花壇の淵の煉瓦に足を乗せてバランスを取っていた。
「先輩!何してるんですか?!」
「………何って……待ってたけど?」
「え?……あたしを?」
「………行くぞい。」
先輩は煉瓦から降りて、驚くあたしの顔をまるで気にしない様子で足を家の方向に進め始めた。
あたしは一度だけ軽く溜息をついてからまた振り返って、先輩に追いつくように足を少しだけ早く進めた。
帰り道、先輩は蹴り飛ばした小石をケンケンで追いかけながら、なぜアダムスキー型のUFOが多いのかという話と、源頼朝がチンギスハンかも知れないという話をあたしに解説していた。
「〜って感じで、頼朝公がげんk………?……聞いてる?……つまらない?」
「いえ、、、先輩…少し聞きたいことあるんですけど。」
「……何?」
「…あの、無理してないですか?」
「………なんで?」
「なんでって、、だって…。」
「………わたしは無理したことない。」
「前、言ってましたね。すいません。」
「………でも、あんたが無理してるように見えたなら、無理してるんかもね。」
「いえ、そういうことが言いたいんじゃなくて…。」
「……でも、無理したらアカンの?」
「…無理するのってしんどくないですか?そんな先輩はできるだけ見たくないです…。」
「………知らない間に無理してたら、仕方ないんじゃない?」
「まぁ……。」
「………わたしは、いつの間にか無理してたみたいやね。……どうしたら無理しなくなるんかな?」
先輩は少しだけ寂しそうに下を向いていた。
「えー、と。それはー…。」
「………じゃぁ…。」
「え?……せんp」
(ぎゅぅ……)
マコ先輩は腕をあたしの頭に回して、胸の中に閉じ込めるように抱きしめた。先輩の顎が頭の上に乗っていた。
あたしは何も言えず、いや、言わずにそのまま直立していた。
「………このまま、ちょっとだけ。」
「…はい。いくらでも…。」
あたし達が帰っているこの道は、そんなに人通りが多いわけではないけれど、車が通れるほどの幅はあって、その時もきっと誰か通り過ぎていたかも知れない。
通りすがりの人達からはどう見えただろう。変に見えたのかな。そんなこと考える余裕なんてその時にはなくて、まるでこの世界に2人きりのような、時が止まっているような、そんな感覚だった。
あたしは、先輩の腰に少しだけ手をかけて、ほんのちょっとだけ、身体を寄せた。
「………ねぇ。」
「…はい?」
「………ハグ好きなん?」
「…バレました?」
「………へぇ。」
もうすぐそこに夏が近づいているからか、柔らかくて温かい腕の中にいるせいか、妙に身体が汗ばんだ。
「………よし。充電できた。」
1分程度の時間が過ぎて、彼女はあたしを腕の中から出した。
「大丈夫ですか?」
「……まぁ。」
「…良かったら、全然まだ、いいですよ…?」
「………ぬへへ。それはあんたがしたいだけやん。」
「ちゃ、ちゃいます!先輩のために言ったのに!ならいいです!」
「ぬふふ…。」
あたし達はまた歩みを始めた。
先輩は普段通りにアダムスキー型のUFOが1番かっこいい理由を力説しながら、見失った小石の代わりを探していた。
分かれ道まで着いた。あたしはまだ胸が強く鳴っていたけれど、平然を装った。
「じゃぁ、また明日ですね!失礼しm…」
「………あのさ。」
「はい?」
少し離れた先輩に向かって上げた手を下ろした。
「………あの3人に、何したん?」
彼女の質問は、あたしが何時間予想しても出てこないような問いだった。
お読みいただきありがとうございます。
これは何かありそうで何もない、誰にでもある物語です。だらだらと見守っていただければと思います。
この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、評価に星をつけていただけると幸いです。
とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願い致します。




