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蝙蝠の歌 -mintdrop-  作者: u
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大切な話




-10169#-




“おにぎり事件”の後の午後練習は、キャプテンの予想を大きく裏切り、マコ先輩の鬼気迫るワンマンプレイで無双状態だった。監督に“もっと周りを見ろ”と注意を受けていた。

それでも、彼女の謎の気迫に合わせるように全員の動きが良くなった姿を見て、監督は午後練を2時間で終了にした。


練習後、昼休憩の時に監督のお金で買ったスイーツを更衣室で食べた。キャプテン達も楽しそうにスイーツを選抜して気に入ったものを美味しそうに口にしていた。すごく和やかなムードだった。

あたしは大好きなシュークリームを食べた。天に昇るようだった。

数個残ったものは、後輩数名が監督まで届けに行った。


特に待ち合わせをすることもなく、マコ先輩はあたしに“………そろそろわたしは出ていく”と言い残して更衣室を出て行った。校門までの何処かで待っているんだろう。




部屋を出ようと荷物を持ち上げた時に後輩の1人があたしに声を掛けた。話を聞くと、どうやら後輩はあたし達2人と一緒に帰りたいらしい。きっとこの子は“マコ先輩推し”だ。


自分だけでは判断ができない為、後輩にはその場で待ってもらって先輩へ相談しに行くことにした。先輩は、校舎を出てすぐ隣にある花壇の煉瓦に腰かけていた。


「あ、あの、先輩。」


「………行くぞい。」


「あ、いえ、なんか後輩の子が1人、あたし達と一緒に帰りたいみたいで…どうしたらいいですかね、、?」


「………あんたはどうしたいの?」


「えー、と。どうしたらいいか分からなくて先輩に聞きに来たんですけど…。」


「……そっか。…ならわたしも分からないから、あんたが決めていいよ。」


「そんな、ひどいですよー。」


「……先輩命令。」


そう言って彼女は上げかけた腰をまた花壇に下ろした。

あたしは先輩の意図も全く汲み取れず、後輩が待つ更衣室へゆっくり足を進めた。




「ごめん、待たせたねー。」


「い、いえ!」



「んー…、なんか、マコ先輩とはいつも、少し大切な話しながら帰ってるから、ちょっと難しいかも…。」



あたしは、自分の意思で嘘を吐いた。マコ先輩とは特に帰りの道中で大切な話なんてしたことがなかった。そもそも先輩は、部活動中以外でバスケの話をすることはあまり好んでいなかったし、大切な話をするタイミングなんてなかった。

その嘘に加えて、“いつも”という言葉を使って更に後輩を遠ざけた。“今日は大切な話があって…”と伝えても良かったのに、“じゃあ次は必ず…”と食い下がられることを予期して、その芽さえ摘み取った。

先輩の考えていることはわからないけれど、あたしはなんとなく、あたし達2人の間にに第三者が介入することを、拒んでいたんだ、と思う。



「…そうですかぁ、残念です…。あ、あの、また一緒に帰ってください!」


「あー、了解。マコ先輩にはそう伝えとくね。」


「…ま、マコさんじゃなくて、センパイに言ってます!」


「あ、あたし?!あ、そうー。…全然ええよー。また誘って!」


“そう来たか”という気分だった。

少し考えを張り巡らせた結果、また今度一緒に帰ってあげれば気が済むだろうと開き直り、先輩の元へと足早に向かった。




彼女はさっきと変わらずに花壇に腰を下ろしていた。


「すいません、遅くなりました。」


「………1人?」


「はい、あの…断りました。」


「……………なんて言って断ったん?」


「えーとですね……嘘、つきました…。」


「………そう。…どんな嘘?」


「……先輩とはいつも、少し大切な話してるからって……。」


「………ふうん。ぬへへ…。」


「っ!?」


「……行こ。ぬふふ…。」



先輩はそう言って歩き出した。

キャプテン達と話していて笑っているところをごく稀に見かけたことはあったけれど、あたしに向けた笑顔はこの時が初めてだった。

彼女のその時の笑い方、いや、表情も含めて、はっきり言ってしまえば可愛いというよりはなんとなく“いやらしい”感じだった。


あたしはその笑顔を見れたことが内心嬉しくて堪らなかった。けれど、その意味はあまり分からなかった。嘘を吐いたあたしを嘲笑っているようにしか思えなかった。ただ、不思議と嫌な気持ちはなくて、許されているような感覚だった。




その日の帰り道、マコ先輩は校門に落ちていた小枝を拾い上げ、それをダウジング棒に見立てて宝探しをしながら、ウォンバットの習性についての話をしていた。


彼女が帰り道でするどんな話も、あたしにはさっぱり分からないものばっかりだった。なのにいつも聞き終わる頃には何故か心が満たされていた。





「………ねぇ。」


少しだけ会話の間に空白ができた時、先輩が話し掛けてきた。


「どうしましたか?」


「………嘘つき。ぬふふ…」


「もー、やめてくださいよ!なんでその話の時笑うんですか?!」


「ぬへへ………じゃぁ、嘘つきじゃないようにしてあげよっか?」


「はい??」


「……………高校に行ってもバスケ、やっぱりしようかな…って、今日思った。」


「…い、いやいや!先輩どこの高校からでも推薦くるでしょ!?変な冗談やめてくださいよ!」


「………推薦で高校行く気はないよ。…それに別にもうバスケやらなくてもいいし、他のスポーツとかもある。」


「えぇ?!もったいないですよ!」


「………もったいない、か、、考えたことなかった。」


「謎ですよ、先輩…。」


「………でも、今日は高校行ってバスケしようと、思った。明日もそう思ってるか、分からないけど、たぶん…結局バスケってなると思う。」


「…それがお昼に先輩が言ってた“好き”っていうやつですか?」


「………たぶん、そうかもね。」


「へー……。」


「………これで嘘つきじゃなくなったね。」


「あー、まぁ…今日だけですけどね…でもありがとうございます。ふふ…!」


「……………南高梅のおかげかな。」


「あはは!ほんっと先輩は謎です!全然意味わからないです!………?」


あたしは冗談だと思って笑っていたけど、先輩はさっきまで笑っていた顔が無くなって、少しだけ寂しそうな顔をして昼下がりの空にぽつりと浮かぶ雲を眺めていた。

彼女があたしを気遣ってしたであろう“大切な話”は、そこで簡単に終わった。その後は先程のウォンバットの話に戻って、あたし達はいつもの道を歩いた。








翌日から二日間、マコ先輩は学校を欠席した。勿論、部活も。


朝練が始まる前、キャプテンに理由を聞いた。



“昨日、先輩のお婆ちゃんが亡くなった”



マコ先輩のお婆ちゃんは、たまに試合会場にも顔を出していたから、何度か挨拶をしたことがあった。

優しい顔をして、腰が少し曲がっていて、杖で体を支えながらもう一方の手で“よぉがんばってるねぇ”と、汗だくのあたし達の頭を抵抗感なく撫でててくれた。



キャプテンは凄く寂しそうに、少しだけ強がって無理に笑っていた。

そして、言葉を続けた。



「マコはめちゃくちゃおばあちゃんのこと大好きやったんよね。あの子がバスケ始めた理由も、“バスケしてるマコ見るのが好き”って小さい頃におばあちゃんに言われたからとか言ってたし、今かなり落ち込んでると思う。

最近元気なかったのも、寝込んでるおばあちゃんのこと心配やったんやろうね。」



小学生の頃に遠い親戚の葬儀に出た記憶が微かにあっただけのあたしは、初めて身近な誰かがこの世から居なくなることに、今までに無いショックを受けた。


そして、マコ先輩と仲良くなっていたつもりが、最近元気がなかったことにも全く気付かず、昨日先輩が話してくれた“大切な話”の意味を今更理解して、昨日それを“冗談”と言い放った自分の愚かさと、キャプテンの言葉に何の返答も浮かばない自分の馬鹿さ加減が、みっともなくて堪らなかった。




お読みいただきありがとうございます!

眼を少々患っておりまして、誤字脱字等注意しているのですが多くなってしまいがちです。読み辛かったら申し訳ありません。気軽にご指摘して頂けると大変助かります。

もし気に入っていただけたら、ブックマーク、評価、コメント等よろしくお願いします。

とは言え、読んでいただけるだけで幸せです。

これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。

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