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蝙蝠の歌 -mintdrop-  作者: u
19/62

オカザキさんとソラ




--5-




昔からあたしは誰かに負けることが嫌いだった。

“負けず嫌いだった”と一言で言ってしまえば簡単ななのに、こんな言い方を選んだ理由は、特に異性である男子に対して、その意識が強かったからだ。たぶんそれはあまり一般的な負けず嫌いのイメージとは違う位に、男子にだけは負けたく無かった。


とにかく、自分が“女子”ということで区分されることを嫌った。何より一番腹が立つのは、あたしが負けた後に慰めようとする大人が放っ、


『相手は男の子やから。』

『お前は女やし、仕方ない』


こういった言葉だった。


だから、あたしは女子に人気のスポーツではなく、男子が好むスポーツを小学校の習い事に選んでいた。

サッカーは、チームの中に女子は自分1人だけで、小5でレギュラーを獲得した。空手も、進んで男子との組手を申し出た。

あたしは男子と対等に、同じ目線で戦うことが自分の心を保つ方法のようになっていた。


その後、小学校を卒業する頃にはその意識は少しずつ減っていって、女子バスケ部を選択することになるのだけれど、心の何処かでは“男子なんかに簡単に負けてたまるか”という闘争心を常に燃やし続けているような気がする。







-10141-




中2の初夏。

夏用の制服が解禁になって肌の露出が増えたせいか、みんな少しだけ開放的な気分になっていた。


あたしは例の“お願い事”をした日から学園生活は順調で、誰とも軋轢のない日々を過ごしていた。

あの日先輩達に芽生えた不思議な感情は、あれからあまり顔を出さなかった。ただ、たまに校舎で彼女達とすれ違ってニコッと手を振ったり、あたしに気付かないフリをするヤマネセンパイに床を鳴らして“知らせる”時にだけ、ひょこっと顔を出した。その瞬間には、身体に電気が流れるようなゾクゾクする感覚を得ていた。

それは、そんなに嫌な感覚ではなかった。



キャプテン達には“あの人達と仲直りしました”と伝えた。キャプテン達は驚いて怪訝な顔をしていた。“それなら良いけど…”と副キャプテンと顔を見合わせていたけど、実際にあたしが3人と“笑顔”で交流しているのを見て一安心しているようだった。

マコ先輩は、眠たそうな目であたしをまたじーーっっと見つめて、“……またわたしと帰りたい?帰りたいよね?今日帰る?決まりね?”と言って去って行った。帰り道、先輩は小石をジャラジャラと拾い集めながら好きなテレビ番組と、都市伝説の話をしていた。



そして、もうすぐ先輩達にとっては最後の大会が始まる。その為に我が部は朝練、放課後練に加えて昼休み練習も追加された。

何度も着替える時間が勿体無いので、監督が職員会議で先生達を説得して、“女バスは登下校は制服、授業等の校内生活は部のジャージ着用”が特別に許可された。あたし達は着替えが楽になることと、自分達だけがジャージを着て授業を受けられる特別感に喜んだ。




-10141#-




ある午後の休憩時間。中2になって同じクラスになったソラとあたしは、バレー部員の子達と4人程で机を囲んで談笑していた。何の取り留めのない内容に笑っていた時、廊下の方から男子の大きな声がした。


「おい、ソラー!なんか教室の外に1年来てるぞ!」


「え?うち?!はいはーい。」


ソラが、廊下にいたクラスの男子に呼ばれて教室の入り口へ向かった。バスケ部の後輩が来たのかと思って彼女の向かう先に目をやると、学校の制服を着た知らない顔の女子生徒が2人、オドオドしながら彼女を待っていた。

残ったあたし達は3人で談笑を進めた。


5分くらい経ってソラが帰ってきた。もうすぐチャイムが鳴る。


「おかえりー。誰?あの子ら。入部希望とか?」


「え…?あー、、違う違う。陸上部とか言ってたわ。」


「知り合い?」


「んー、、まぁ。……ふふっ!」


「何ー?隠し事なん?」


「ちゃうって!あんたはもうすぐ分かると思うわ!」


始めとぼけたような顔を見せて、その後面白そうにあたしを見て彼女は笑っていた。なんとなく、不愉快だった。あたし以外の子達と隠し事をしているソラに、少しだけ嫌な気持ちになった。



部活は練習量が増して、練習時間はいつもの1.5倍は長くなっていた。

練習後、あたしは片付けを担当の後輩達に任せて更衣室に向かおうとしていた。


「あ、あの……」


暗い物陰からあたしに声を掛けたのは、昼休みにソラを呼び出した女子生徒の1人だった。すごくオドオドしていた。身長は中1の頃のあたしくらいで、今のあたしと同じようなショートヘアをしていて、なんとなく親近感を覚えた。


「え?あー、ソラかな?ソラならそっちにおると…ってあれ?あの子どこ行ったんやろ?ちょっと待ってなー?今呼んでくr…」


「い、いえ!…あの、、先輩に、は、は、話がありましてっ!


「…?あたし?」


「あの……少しついてきてほしくて…」


その子はどんどん人気の無いところへ向かって行った。RPGゲームのパーティみたいに彼女の後ろを追った。


「…あのさ、こんな暗いとこ来て何するん?」


「………あ…あ、あのっ!!」


その子は急に振り返ってあたしに大きな声を掛けた。


「っ!??ビックリしたー!なに?!」


「………せ、先輩、ソラ先輩から……先輩は、す、好きな人いないって聞きました…。」


「何それ?そんなこと昼休み話してたん?」


「好きです……!!!」



夏に向かう生温かい風が音を立てながらあたしの髪の中を駆け抜けて行った。



「…はい?」


「せ、先輩のこと…前から好きでした!」


目の前にいる1年生は、あたしの膝の方に顔を向けながら、震えていた。息も少し荒かった。


「…いやいやっ!何これ?!どういうこと?!あたし…その、えっと…」


「…オカザキです…」


「あー、ごめん、オカザキさんのこと、ほら、今名前知ったくらいやし…」


「そうです…先輩は私のこと知らないです。でも私は先輩のことずっと知ってました!」


「ぇー…?あー、あれかな?友達なりたい的な感じのやつ?」


「……すいません。先輩の気持ち、、分かりました……つ、伝えたかっただけ、なので………失礼します!」


彼女は鼻を何度も啜りながら、その言葉を告げて逃げるように去って行った。





-10141##-




更衣室に戻ると、まだちらほらバスケ部員は談笑しながら着替えていて、その中でソラがニヤニヤしながらあたしを待っていた。


「おかえりー。どうやった?」


彼女は凄く楽しそうに、目をキラキラさせていた。


「………ソラ、あの子から何聞いてたん?」


あたしは白けた顔をして低いトーンで質問した。


「ん?昼休みのこと?なんかあの子が“センパイは彼氏居ますか?好きな人とかいるんですか?”とか聞くから、“好きなん?”って聞いたら恥ずかしそうにしててさー。“居ないと思う”って言ったら今日の練習終わる時間聞かれたから答えただけやよー。可愛いよね、あの子!んで、どうやったん?」


ソラは楽しくて堪らないみたいだ。あたしはイライラした。


「それなら昼に教えてや!ビックリしたやんか!」


「あはは!誰が言うんよ!あの子の気持ちうちが先に伝えたらルール違反やんか!」


「そんなルール知らんって!急に“好き”とか言われてさーもう訳分からんかった。」


「おー!言ったんや!頑張ったなーあの子!で?あんたはなんて返事したん?」


彼女の目の輝きは増す一方で、あたしはイライラを通り越して少し笑いそうになっていた。


「……そもそも、そこで話すまで名前も知らんかったくらいやし……ってか、女子やん?“友達なりたい的な感じ?”って聞いたら、“伝えたかっただけ”って言って泣きながら走って帰って行ったわ。ほんま訳分からん。」



「うわ、ひっどぉ…」



さっきまでキラキラしてたソラの目が、急に蔑んだ目になった。あたしは、身勝手な彼女の態度に少し感情が出てしまった。



「はぁ?!なんでそうなる?しゃーないやん!あたしもテンパってたんやし!」


「いやー、でもそれは“無い”んちゃう?可哀想やわその子。」


「なんなんそれ!?大体ソラが面白がって昼休みにあたしに言わなかっt…っっ!??」


周りを見ると残っていた部員達があたし達のやり取りに興味津々で見ていた。



(わぁー先輩告白されたってこと?)

(相手誰やろー?)

(あの感じは、相手玉砕か…)



「う……うるっさい!!!コソコソ話すな!!あほ!!!」


「あはは!あんたうるさいんか小さい声なんかどっちなん?!」


「小さい声がうっさいんじゃー!!!」


更衣室はソラの的確なツッコミで笑いに包まれ、そして、そのまま解散となった。



帰りの道中、ソラはあたしの横に付いてきて、話の続きをしたがっていた。


「なーなー、ごめんってー。別に面白がってないってー。」


「ニヤニヤしながら言わんといて!余計ムカつくから。」


「酷いなーあはは!……でも、ほんまに面白がって言わんかった訳ちゃうよ。」


彼女は少し真面目な顔になった。


「何急に?」


「だって、自分の気持ち人に言われるの嫌やろ?あの子の大切な気持ちは、あの子が直接伝えないと。」


「……うん、、まぁ、それはそうやね。」


「たぶん、すっごい勇気出したと思うで?その、オカザキさん?」


「……せやね。」


「だって、ただでさえ告白なんて勇気いるのに、相手が自分のこと知らない先輩で、しかも同じ女やもん。……うちには出来ひんなー…すごいよ、オカザキさん。」



さっきまで子どもみたいに笑っていたソラが、急に大人に見えた。



「……せやね。」


「…うちがさっき“酷い”って言ったのは、それだけ勇気出して自分の想いをあんたに伝えたのに“友達なりたいの?”とか茶化されたら、そりゃ傷つくよなってこと。」


「ち、違うって!それは、茶化したんじゃなくて…!」


「あんたの気持ちも分かるよ。でも相手からしたらそうなるって。向こうは真剣やったんやで?」


「…それは……。でも、でもさ、あの子も“伝えたかっただけ”って言ってたし、別にスッキリしてるかも知れへんやんか…?」


「……あんた、それ本気で言ってる?本気やったらあんたのことちょっと嫌いになるわ。」


「………。」


見苦しいのは分かっていた。自分の正当性を示す為に必死だった。


「あんたねー、伝えたいだけの子がわざわざ上級生の教室まで来て、うち呼び出して“彼氏いるか”、“好きな人いるか”とか相談する?そんなんもわからんの?……あんたさ、他人のことに関しては結構偉そうなこと言ってるのに、自分のことになったらめちゃくちゃアホすぎん?」



ソラの言っていることは何も間違っていなかった。全て正論だった。でもあの時のあの状況で、そんなに相手を思いやれるほどあたしには恋愛の経験は無かった。

小学生の頃は男子から告白されてもそこから“付き合う”という流れにはならなかったし、返事という返事はしたことも無かった。本当に経験不足だった。



これが、生まれて初めてされた“交際を目的とした告白”だった。



ソラは黙って歩くあたしの横を何も言わずに付いてきてくれた。もうすぐ分かれ道だ。



「……ちょっとは、うちの言ってること理解出来た?」


「うん…ごめんな。」


「ええよー。でも、明日かは分からんけど、早めにオカザキさんに何か返事してあげや?」


「……うん。んーー、でもなー、相手がなー。」


「どうしたん?相手が何なん?」


「だから、相手女子やんかー。」


「え?」


ソラが段々と普段の感じに戻ったことで、ちょっとふざけたように大袈裟に困っている素振りを見せていると、彼女はきょとんと、あたしを不思議そうな顔で見つめた。


「なにー?」




「いや、…あー…あんたはそういうの理解してあげれる子やと思ってたわ。」





生ぬるい風が吹いた。その風は身体全体を舐めていくようだった。


「…あ、、えっと…。」


「……まぁ、あんたが真剣に考えた答えなら、相手は何でもちゃんと受け止めてくれると思うで?じゃーまた明日な!健闘を祈る!あはは!」



彼女はいつも通りに笑いながら家に帰って行った。

“そういうの理解してあげれる子”という言葉の意味は分からないのに、自分の知らない自分を彼女に見せられたみたいで、妙に心を揺らした。




お読みいただきありがとうございます。

シリアスな展開が多かったので、少し中学生ならではの物語を。

この物語が気に入ってくれた方は、ブックマーク、広告下の評価に星をつけていただけると幸いです。

とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。

これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願い致します。

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