センパイ達のお願い事
-10139.96-
あたし達の中学校には室内スポーツの部活が〈バスケ部〉、〈バレー部〉、〈卓球部〉と3つ存在していて、体育館を防球ネットで2分割し、それぞれ時間を割り当てて練習を回していた。
ただ卓球部は、あまり活動的な部活ではなく週に3日程度の練習だったので、基本的にはバレー部とバスケ部を中心に練習が行われていた。
厳密に言うとバレー部には女子バレー部しか無く、ほぼ毎日体育館を使用していたけど、バスケ部には男女の部が独立してあったので、監督同士が話し合いをして使用する時間を打ち合わせていた。と言っても、大会の成績や練習内容のおかげで女子バスケ部にかなりの権力があった為、男子バスケ部が少しだけ譲歩して運動場の脇にある外コートを使用する割合が多かった。
週に2度程度女子バスケ部も外コートでの練習はあって、その際の片付けは体育館でのそれとは比べ物にならない位大変だった。
重たい鉄の塊のトンボを何度もかけてコートを慣らし、防球ネットなどを移動させ、練習道具を体育館横にある部室に戻す。
2、3人でしても30分は超える作業だった。
その日、外コートの片付け当番は“補欠先輩”達の日だった。
「…なんでさー、3年にもなって片付けやらされなあかんのかなー。もう新しい部員おるのにさー………あ、来た来た!あんた!こっち!」
「はい!すいません、ちょっと水飲みに行ってて…。」
あたしはまたこの人達に呼び出された。今日もあたしにこの片付けを押し付けて帰るつもりなんだろう。
ソラとクミが“手伝いに行くから”と言ってくれたけど、今日はなんとなく、練習中から少し違和感を感じていたので“今日は大丈夫”と言って1人ですることにしていた。2人は心配していたけれど、あたしがこの間キャプテン達から話されたことを打ち明けると、すごく安心した様子で“それなら大丈夫かな”と言って聞き入れてくれた。
練習中に感じていた違和感は、この3人のあたしに対する態度だった。いつもあたしに対してキツくパスしたり、あたしのパスコースが僅かにズレるだけで大袈裟にボールをキャッチする素振りを見せたりしていたのに、今日は何故か至って普通に練習が行われていた気がした。
あたしはこの3人が何か企んでいるんじゃないかと思っていた。どちらかといえば、何事もなくいつものように1人で片付けをすることになる方が、それはそれで辛いとも思っていた。
「あの…今日もですかね…?」
「え?何が?」
「あ、片付けです。先輩達は帰るんですよね?」
「…あー、そんなこともうせんよ。」
「そうなんですか?」
「たださー、1年も2年も先に帰られるのなんか淋しいやん?少し手伝ってや。あんたくらいにしかこんなお願いできへんし。」
「あー…まぁ、はい。」
正直拍子抜けだった。何を言われるのか様々なイメージをしてここに臨んで、1番想像もしていなかった依頼だった。
3人は仲良く話しながら、ダラダラと片付けをしていた。たまにあたしに他の部員の愚痴を漏らして同意を求めてきたけど、あたしは適当に相槌を打って片付けが早く終わるように遂行した。
20分と少しが経過した。
「終わるの早ー!やっぱりあんた呼んでよかったわー。助かるー。最後部室の鍵だけお願いしていい?先に更衣室行くわー。」
そう言って部室の施錠をあたしに託して3人はまたダラダラと喋りながら更衣室へ向かっていった。
鍵の施錠は大したことではない。むしろ頼まれなくても後輩のあたしがやるものだと思っていたし、鍵を閉めて職員室に届けるだけで、そのまま更衣室へ向かうことと3分程しか違わない。
あたしはいつも通り鍵を施錠し職員室に届け、少しだけゆっくりと更衣室へ戻った。
(ガラガラ…)
「失礼します。」
「………おー、鍵ありがとー。」
3人はまだ制服に着替えもせずにパイプ椅子に馬乗りになって揺らしながら談笑していた。あたしは特に興味もなかったので、その輪には入らずに着替えようとした。
「なー、あんたさー。」
3人の中の1人があたしに声を掛けた。このグループの中ではリーダー的な人物のヤマネ先輩だ。彼女があたしに話し掛けると、他の2人は急に静かになった。
「…なんですか?」
「監督から控えの優先順位みたいなん聞いてる?」
「…知りませんよそんなの。あたしに言うならみんなに言うてますよ。」
「そうなん?あんたとソラは監督の“お気に入り”やからそういうの聞いてるんかなって。」
「…別に気に入られてるとは思ってませんし、ソラも絶対知りませんよ?そういうズルいのあたし達は嫌いなんで。」
「まーまー!そんな怒らんといてや!あのさー、ウチらももうすぐ引退なんかー?」
「…はい、まぁ…。」
開いたロッカーの中を見ながらあたしは前キャプテンにした返事を彼女達にもした。ただ、この単純な返事の中にある意味は以前のそれとは180°違っていた。
この辺りで、あたしは先日キャプテンから聞いていたことが事実になったことに気付いた。
「ウチらもさー、まぁ塾とかあったりして、周りのみんなよりは練習出来てないんやけど、3年間頑張ってきたわけやんかー?いつが中学最後の試合になるかも分からんから、ウチのオカンも出来るだけ試合観に来てくれるって言うてるねんか。この子も、この子の親も。」
「…そうなんですね。」
「ウチらが試合出られへんのは実力不足やし、しゃーないんやけど、やっぱり一回くらい親に試合出てるところ見せたいやん?」
「…出れるんじゃないんですか?怪我人出るかもしれませんし、退場とかもあるし。それに監督も鬼じゃないですしね。」
「あーだからさー、わからんかなー。先輩に恥ずかしいこと言わせんといてよー。今の感じやったらあんたとかソラの方が試合出れそうやんかぁ?」
ヤマネ先輩はイライラしている様子を隠しながらあたしに媚びるように話し掛けていた。その態度に、イライラしていた。
「…そうですか?」
あたしは、少しだけパイプ椅子に座っている3人を見下ろして、睨んだ。
「そ、そんな顔せんといてやー。まぁー、あんたには色々迷惑かけたのは分かってるし、こういうのを今更言うのが変なのも分かってんねんで?ウチだって馬鹿ちゃうし、少しははんせーしてるし…」
少しの反省もしていないことは、奴らの今の態度を見れば一目瞭然だった。
「…それで?」
「そ、それでって……だから、あんたとか、ソラから監督にこう、今みたいな話してくれへんかなって思ってさー。」
ヤマネはまだヘラヘラとしていた。あたしの中にあるイライラが身体中に拡がり始める感じがした。
「……なんであたし達が?自分で言えばいいじゃないですか。」
「なんなん?あんたさっきからその態度…!」
金魚のフンみたいな片割れの女が騒ぎ始めた。
「ちょっと待ち!今ウチが話してるねん!」
「…ごめん。」
一言ヤマネが言葉を掛けただけで片割れはシュンとして黙ってしまった。
「あはは…ごめんな?ウチらは別に手荒なことするつもりはないんよ。……話の続きやけど、ウチが言う言葉とあんたらが言う言葉って監督への届き方違うやんか?」
「…そうですか?そうは思わないですけど、そう感じてるなら、何か心当たりあるんじゃないんですか?」
あたしはこの時、自分の中に棲んでいたとんでもない何かが起き上がる予感がしていた。
そして、その予感はあっという間に的中することになった。
お読みいただきありがとうございます。
彼女の反撃です。この反撃でスッキリするかしないかは、読者の皆さん次第です。
この物語が気に入って頂けましたら、ブックマーク、広告下の評価に星をつけていただけると幸いです。
とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願い致します。




