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蝙蝠の歌 -mintdrop-  作者: u
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どっちが好きなん?





-10139-




中2の4月。春が近づくに連れて少し遅めの成長期を迎えたあたしは、身長が一気に伸びた。とは言え、気付いたのは身長を気にするバスケ部やバレー部の友達だけで、クラスメイトは特に気付く様子もなかった。その程度の成長だったけど、レギュラーになっても驚かれないほどの身長は手にしたのだ。

女性としての胸の膨らみも、以前よりは感じた気がしたので、春休み母にブラジャーのことを相談すると“まだまだ早い”と一蹴された。




ソラとの一件があってから3ヶ月ほど経った。あの夜以降、あたしはソラと後片付けが一緒になると彼女に頼んでハグをさせてもらうようになった。人に見られると恥ずかしかったので、ボールをしまう体育倉庫の中や他のみんなが帰った後の更衣室であたし達は60秒程度抱きしめ合った。

初め体育倉庫でお願いした時、ソラは驚いてあたしを笑いながら“いいよ”と抱きしめてくれた。

2週間に一度はソラと後片付けをすることがあったので、あたしがその度にお願いすると、彼女の顔は少しずつ困った顔になっていった。それは決してあたしを嫌悪したり拒否をするような顔ではなくて、ただ困っている顔だった。

あたしはそれを分かっていた。理解していたし、自分がおかしいことも自覚していた。それでも、ソラと隠れて2人きりになって抱きしめ合うこの時間が、この頃のあたしの1番幸せな時間だったんだ。




「……満足したー?」


「…んー…後10秒…」


「もー…はいはい。」




「はい!今日は終わり!」


あたしの両肩に手を置いてソラはあたし達の身体を引き離した。


「あー…うん。ありがと。」


「あんたさー、こんなこと言うんうちも嫌なんやけど、こんなんいつまで続けるん?」


「…いいやんかー。別にハグくらい。」


「あのさ、うちも別にめちゃくちゃ嫌じゃないねんで?でも、なんか、こういうのおかしくない?こんな暗い倉庫とかで女子同士で…ハグっていうか、なんか…。、」


「……いいやんか!ソラはあたしのことイジめたんやから、罪滅ぼしや!」


「んー…それ前も言ってたやん?わかってるよ。あたしが言ったことは悪かったと思ってるし、何回も謝ったし、どちらかと言えば今1番仲良いやん。あんたの頼みならなんでも聞くつもりやよ?だからうちは今こうしてるやん。

…でも、やっぱりこういうの変かなって思って…。」


「………。」


「あんた、好きな男子とかおらんの?」



突然ソラがあたしに質問した。



「え!?おらんよ!」


「そうなんや。好きな男子いるんならその人とハグした方がいいと思っただけなんやけど。」


「なんでそんなこと言うん?!あたしはソラが、、なんか丁度いいねん!」


「“丁度いい”って、あんたさ。」



そう言ってソラは笑っていた。

あたしはその頃、恋愛というものに関して全くと言っていいほど、無頓着だった。だからこそ、本来なら中学2年がするようなソラの普通の質問に焦ってしまったのだ。

あたしは、ソラのことが好きなのかどうかは分かっていなかった。今でも正直、判らない。だけど、“大切な存在”だったことは確かだった。



「……ソラは、…ソラはさー」


「え?なに?」


「…好きな男子とかおるん?」


「あー、うん。」



正直、こんなにあっさりと答えられるとは思っていなかった。彼女は何の躊躇いもなくあたしに軽返事をした。



「へ、へーソウなんやー。その人って、。」


「え?誰とか聞きたいん?」


「….ううん。その人と…あたし…」


「あー、仲良いんかな?あんまり知らんけど、たまに話してるし仲良いんちゃうん?あんたと同じ小学校やし。」


「…へ、へー。」



あたしの思惑とは違う返答を彼女はした。彼女はきっと、“その人とあたしは仲が良いのか”を質問されたと思っていたんだろう。あたしが本当に聞きたかったのは、


“その人とあたし、どっちが好きなん?”


だった。




ソラの想い人への質問はその後一切しなかった。名前も聞かなかったし、知りたくもなかった。

あたし達は体育館を施錠した後、更衣室へ行って着替えをした。



「ソラー。」


「なにー?」


「…もう、あの、あんなお願いはしないから、安心してくれて良いよ。」


「……あー良かった!うちは助かるわー!あんたはまた頼んできそうやけどねー?」



ソラがニヤニヤしながら、あたしを揶揄うような目をしてそんなことを言った。



「もうしないから!安心して!…約束……」



あたしはそう言って小指を出した。



「…ふふ。ハグとか指切りげんまんとか、あんたってほんま小学生みたい…クククっ!あんたもう後輩いるんやからね?しっかり先輩しなあかんよ?」



そんな風に笑いながら彼女はあたしの小指に、小指を絡めた。





「そういえば!あんた、先輩達になんか言われた?」


制服に着替えて更衣室の鍵を閉めるあたしにソラが問い掛けた。



「え?なんも知らんよ。」


「あんたのこと、先輩達がなんか色々話してるらしいで?あたしはあんまよく知らんけど、クミが練習中に聞いたみたい。」


「そっか…どうせあの“補欠の人ら”やろ?」


「ちゃうんやって!なんかレギュラーの先輩達みたいやで?キャプテンとか、マコ先輩が言ってたらしいけど、あんたなんか知らんの?」


「ほんま?!知らんよ!えー、またそういう感じなん?めっちゃめんどいやん。」


「あんた、また先輩達に嫌われても、もうさっき約束したからな?ククっ!」


「うっさいわ!もう“ハグ”とか言わんって!」



そうやってあたし達は学校を出た。ソラは揶揄いつつも少しあたしを心配しているようだった。あたしは、怯えていた、と思う。



もうあんな思いはしたく無かった。

レギュラーの先輩達は最後の大会に向けて必死だったし、あたしを虐めてる場合ではないと、そう思っていた、そして先輩達を信頼していた。






翌日の練習中、“後で更衣室に1人で来て”と、キャプテンに耳打ちされた。



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