あたしは友達を見放した
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ランちゃんの家は以前来た時と変わらず整っていた。床に転がっているのは、テレビの前に置かれた起動中のテレビゲームだけだった。
あたしは“いつも”座っていた場所に三角座りをした。
「ぷ…プリントありがとう…。」
ランちゃんの声はいつも以上にか細くあたしの耳に届いた。少しだけ、あたしの中に苛々としたものがあった。
あの日あたしが受けたショックはすぐに悲しみになって、その後段々と鎮まっていって、今は不思議と小さな怒りのようなものが芽生えていた。その沸々とした感情を見ないようにしていたのだけれど、ランちゃんの声を聞いて確信した。この僅かな怒りは彼女に向かうものだった。
「うん。別に、頼まれたから持ってきただけやから。」
きっと、彼女へ放つ言葉としてはとても棘のある、傷つけることを目的としたような台詞だった。あたしは自分にもその棘が刺さったような気がして、心がチクっとした。
「…そ、そっか…。、」
「ランちゃんは元気なん?」
更に畳み掛けるようにあたしは、学校を欠席している者に対して投げかけるべきではない質問をした。心がチクチクと痛かった。
「…う、う、んん。、」
「なら良かった……あの時、ごめんな?あたし、出来るだけ頑張ったんやけど…ランちゃんのこと、、ちゃんとマもられへんかった。」
本題を掲げた。最後の方はぎこちなかった、と思う。けど、あたしは“とりあえずの謝罪”をした。本音は、謝罪の気持ちなんてあまりなかった。ただ“形式的に謝っておけばいいか”くらいの感覚であたしは、彼女の顔を見ずに言った。
「…ん、!んん…ううん!ち、ちがうよ…あ、あ、んた、は、いい、いっぱい…」
その後彼女が言っていたことはあんまり聞こえなかった。彼女は、あの時の地獄の叫びのような言葉をあたしが聞いていないと思っているんだろうか。
耳を澄まさないと聞こえないくらいの彼女の声に、あたしは苛々を隠せなくなっていた。
「…ごめん、何言ってるんかちょっと聞こえへん。……モダは…あの人はあたしもめっちゃムカつくし、早くどっか行って欲しいけど、モダの言うてたことも…少しだけわかるよ。ランちゃんはもうちょっと、頑張って言葉を出さなあかんと思う。じゃないと…あたしも分からんもん。」
「………」
あたしはこの居心地の悪い、胸の痛いこの場所を早く去りたかった。だから、理由をつけて家を出ることにした。
「ごめんな?変なこと言うて。あたし今日水泳の日やから、そろそろ行かな。」
あたしが無理矢理笑顔にして彼女に向けると、少しだけ彼女の顔の筋肉がほぐれているような気がした。
「そ、そうなん?ご、ごめん、停めて…。あんたとまた話したいk…」
「せやねんー。ごめんな?」
頑張って何かを伝えようとする彼女の言葉を遮って、あたしは玄関先に行った。
靴を履いている時には、何故か怒りの感情が消えていた。胸の痛みも少し軽くなっていて、今なら彼女に何か“優しい言葉”を届けられる気がした。
「…あんな、今度な、みんなで他の先生にモダのこと相談しに行こーって言ってんねん!もうむちゃくちゃやし!それであの人がいなくなったら、ランちゃんも学校来れるようになって、全部解決するからさー……」
今度はあたしの言葉を彼女が遮った。
「え?何言ってるん?」
「…え?」
「死んで欲しい。」
「………え?」
「モダ先生は殺したいけど、あの先生のためにボクが警察に捕まるのは絶対に嫌。やから、死んでもらうか、死ぬより辛い思いしてもらわないと、、、ボクは許さない。」
彼女はいつも吃りながら会話をするのに、この時はとても流暢に、そして聞こえやすい音量でその言葉を口から出した。いつもの怯えた目が一変して、あたしを真っ直ぐに見つめていて、ほんの少しだけ笑っているような気がした。あたしはその言葉と眼力が、今までモダに受けたどんな恫喝よりも怖かった。
「それでな、、アイツがお腹痛くなった時にボクと…」
「ごめんなランちゃん、また今度話そ!!お邪魔しました!!」
あたしはランちゃんの次の言葉を聞く前に家を出た。ランちゃんの、歪な、異質な様子が怖くて逃げたんだ。
翌週、あたし達の嘆願は他先生の誰にも届かず、例の謹慎の日まで変わらない日々は続いた。そして、ランちゃんは二度と登校することはなかった。
あたしはその間、彼女の家にプリントを届けることをなるべく断った。必要な時は郵便ポストにゆっくりプリントを差し込み、逃げるように自宅に帰った。
あたしは、ランちゃんを見放した。
彼女の不登校は、その後中学生になっても終わることは無かった。
お読みいただきありがとうございます!
正直この話を書くのは、物凄くカロリーを消費しました。今でもあの子のことが、あの子が幸せで居てくれていればと願っております。
私は眼をし患っておりまして、誤字脱字等注意しているのですが多くなってしまいがちです。読み辛かったら申し訳ありません。気軽にご指摘して頂けると大変助かります。
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とは言え、読んでいただけるだけで幸せです。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願いします。




