【●れ◇▲※た】
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ランちゃんが震えている。
肩で息をしたあたしとアイツは、今の状況がなんとなく理解出来た。
2人ですぐに席に着こうとした。
「待てお前ら。」
モダがあたし達を呼び止めた。
「遅刻や。後ろで立ってなさい。」
「も、もー!せんせー!でもチャイムまだなってる最中やったやんかー?良いやろー?少しくらいおおめn…」
「それはあかんなー?チャイム間に合うルールはお前らが勝手に決めてたルールやろ。本来はチャイムが鳴る前に準備しとかなあかんよな?」
「だ、だから、ボールをな!忘れてて取りに行っただk…」
「廊下走ってたやろ?」
「えっ…」
あたしは、今のモダの怒っている内容には反抗できなかった。
「廊下走ったらあかん。遅刻するよりあかんことや。ずっと小学校で教わって来たやろ。お前らはもう小6。この学校でもう先生達の次に大きいんや。そんな“大きいの”が全速力で走って年少の子に当たってみいや?トラックにぶつかるようなもんやぞ?お前らは、自分達が遅刻しない為にそんな危険なことをしたんや。分かったら黙って後ろに立ちなさい。」
悔しいけれど、何の反論の余地もなかった。それに声を荒げるでもなく、生徒に正しく説教をする先生のような振る舞いだった。その感じにあたしは異様な空気を感じていた。たぶん、アイツも。
あたし達は、モダの言うことに従って教室の後ろに並んで立った。
モダは少しだけため息をついて、ランちゃんの方に顔をやった。
「よしゃ、ごめんなラン、話の続きしよか?」
ランちゃんは下を向いて震えているだけだった。
「あのなー。先生は難しいこと言ってないねん。“何の病気やったか”、“休んでる間何して過ごしてたか”、それを言うだけや。長いこと休んでたんやから、経験としてみんなに話してくれてもええやろう?」
「…あ、あ…あの…」
あたしは助け舟を出そうと少し笑いながら手を上げた。
「せんせー!あたしが朝言ったことわすr……」
「おまえはだあっとれ!!!!!」
教室が揺れるくらいにモダがあたしを怒鳴った。座っている数人がその声で体をびくつかせていた。
「だぁっとれボケコラ!!さっき言うたやろがい!!!」
「……。」
あたしは初めて聞く声量の怒鳴り声に怖気付いてしまった。一瞬考えることができなかった。
ランちゃんの震えが増していた。
「ごめんなーラン。また話途中で切ってもうたわ。言えるか?」
モダはさっき大声を上げた人間とは思えない程冷静に、彼女を諭すように話し掛けている。
「あんなー。。ランも、ここにいるみんなも来年なったらみんな中学生やねん。嫌でも中学生なる。そん時にな?みんなの前で声ひとつ出せんようじゃあかんやろ?って言ってんねん。わかるか?」
「……は、はい…」
段々とモダの声色が変わっていくのを感じた。
「朝みたいにな、ランのことを助けてくれるやつも今はおるわ。でもな、中学生なったらみんなまた始めっからや。そん時にはだーれも助けてくれんぞ?だから1人で言ってみろって教えたってんねやんか?」
「…で、でで…でも、ボク……」
「その“ボク”言うのやめんかぼけこらぁ!!!!!!!!」
(バギッ!!!)
モダの怒鳴り声は、さっきあたしに浴びせたものよりも大きかった。
その声と同時にモダが蹴り上げた教卓の壁には穴が空いた。
モダはランちゃんにゆっくり近づき始めた。
「なんやおまえ、ボクボク言いよって!お前女なんちゃうんか!?あーボケコラ!!?女やったら女らしく“私”とか“うち”とか言えやボケナス!!!人の顔見てすぐ怯えよるから静かに話してやってんのに、お前は一緒かい!!!一言くらいなんか言ったらどうやねん!!!ボケコラ!!!」
たぶん小6になって、その時までで1番モダが声を上げた時だった。全員その声を聞いたのは初めてで、黙ったまま、自分を守ることで、精一杯だった。
「………あ………ああ……あ…ぁ…ああアぁアああアアァ!!?!?!!!」
ランちゃんが聞いたことのない声を上げてその場に崩れた。床に向かってずっとその声を上げ続けている。
「なんや!その声は!!休んでる間に言葉も忘れてもーたんか!チッ!」
「s、せんせー。」
「あぁ?お前もだぁっとれ言うたやろが!!?」
横に立っていたアイツの声だ。
あたしは確かに分かった。彼も震えていた。
「あの、さっきの体育で足挫いちゃったみたいで、立ってるの辛くて、保健室行きたいです…。」
「またそれか!お前狙ってやってるんとちゃうやろな!!??あーコラ?!」
「ほ、ほ、本当に痛いんです、、!」
アイツの目から涙が溢れていた。あたしが見た最初で最後の彼の涙だった。
「……チッ!!!もうええわい!!!行ってこいや!!!保健委員!!!」
あたしの口がようやく言うことを聞いた。
「ほ……ほ、保健委員はランちゃんです!せ、先生自分のクラスやのに本当に覚えてないんですか?ランちゃん行こ!アイツ保健室連れてったろ!」
「待てや!何でお前までいくねんコラ。」
「あたしは体育委員なんで、体育の授業中に怪我したアイツをランちゃんと保健室に届けて来ます。」
あたしは出来る限りの勇気を振り絞った。頑張った。
でも、いつもあたしよりアイツが先に声を出してくれる。あたしは、アイツの声が無かったとしたら、きっと今も声を出せていなかった。
あたし達3人はは教室を出た。誰が誰に肩を貸してるのかも分からない組み方をしていた。
廊下に出ると3人で並んで歩いた。真ん中のランちゃんはさっきの声は出さなくなったけど、体が震えてずっと下を向いたままだった。あたしは彼女の背中に手を置いていた。
「あーモダまじこわー。」
鼻水を啜って顔を真っ赤にしながらアイツが喋り出した。
「嘘泣きなん!?」
「当たり前やん。足もな。」
「足もなん?!」
彼は服の肩部分に顔を入念に擦り付けていた。
「足は嘘やけど、泣いてるのはホンマちゃうん?」
あたしは少しニヤニヤしながら言った。
「嘘泣きやって。あーモダこわー。」
「何それ!ダジャレみたい。モダこわー。」
あたし達はゆっくりと保健室へ向かっていた。一応アリバイを作る為にアイツには保健室へ行ってもらわなければならなかった。
それに、何よりランちゃんはもうたぶんあの教室には帰れない。その言葉が、どれくらいの期間を指しているのかは、考えられない。考えたくなかった。
「…あのさ…ありがとうね。」
「なに?気持ち悪っ。」
「うっさいわ。…あんたがいなかったら…。」
「…うん。いや、おれもお前が横におったから声出せたわ。お前めっちゃ頑張ってたから、おれも何とかせなって…。」
「うん…でもさ…」
あたしは背中を摩りながらランちゃんの方を見た。まだ体の震えは変わらない。
「うん…せやな…おれら…」
あたし達2人が詰まらせている言葉は確実に同じだった。それを言ってしまうと自分が折れてしまいそうで、そして彼女の前で言うことは、匙を投げることを意味していた。
だから言えなかった。
【●れ◇▲※た】
この一言だけは考えても言ってもダメだ。
その会話から、あたし達の口数は極端に減った。
階段をおりて右へ曲がると、保健室の看板が見え始めてきた。
段々とランちゃんの震えも収まってきていた。あたしの言葉より先にアイツが彼女に声を掛けた。
「ランちゃん、もう少しや。保健室でゆっくりしよ。な?」
「……………」
なんとなく、ランちゃんが声を出している気がした。
「……t…k………s…t…k…」
何度も同じ言葉を繰り返してるようだった。
あたしはランちゃんの顔に耳を近づけた。
「………き!…つき!嘘つき!ウソ吐き!ウソつき!うそつき!………………」
あたしはそこから一歩も前に進めなかった。
アイツが“なんて言ってるん?”と聞いていたけど、答える脳が働かなかった、と思う。
“…行くで?”と言って彼はランちゃんと保健室へ入っていった、と思う、たぶん。
あたしは教室にゆっくりと戻り始めた。
目の前の風景が大袈裟ではなく歪んでいた。色味が無くなって、いつもの環境音も段々籠って聞こえて、頭の中に流れるのは彼女の声だけだった。
ランちゃんが食いしばるように何度も口から絞り出していた言葉は、
恫喝したモダへの怒りでは無く、
【守れなかった】あたしに対するものだった。
お読みいただきありがとうございます。
人生の中にある小さな石だけど、そんな少し思い出のある石を大切にしたいと思っております。
彼女達が経験した小学6年生は、嘘みたいな話ですが現実に起こっていたことです。毎日担任の顔色を窺いながら授業を受ける日々でした。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『蝙蝠の歌 -mintdrop-』をよろしくお願い致します。




