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第四話・アチの世界・現世界〔幻想的な異世界だって、そこに住む者からしてみたら現実そのもの〕

 十数年後の……アチの世界〔現世界〕


「真緒さま、朝ですよ……起きてください、また学校に遅れますよぅ」

 メイドの瑠璃子に揺すり起こされる高校生の『魔王 真緒』は面倒くさそうにアニメの狐狸(こり)姫がプリントされたシーツの上で、狐狸姫の抱き枕を抱いたまま寝返りを打つ。

「うぅん、もう一時間だけ寝かせて」

 部屋の中には長期人気テレビアニメ……『閃光王女狐狸姫』のポスターやタペストリーなどのグッズで壁が埋め尽くされ。


 棚には狐狸姫のフィギュアが飾られている。アニメに関連した書籍やDVDも本棚に並んでいた。

「学校には敵対する巨大ロボットか宇宙怪獣が襲ってきたって連絡しておいて……昨日の夜は狐狸姫の新化身シーンを百回再生して観たから、眠い」

「ダメですよ、この間もそう言って、遅刻する寸前まで寝ていたでしょう……起きないと、あたし」

 瑠璃子の目がギラリと光る。

「変身しちゃいますよ……あの、おぞましいオナラ怪人の姿に……ここで屁ぇこいちゃいますよ」

 瑠璃子の言葉を聞いた真緒は、ベットから跳ね起きる。

 起きた真緒こと……愛称『マオマオ』に向かって微笑む瑠璃子が念を押す。

「顔洗って歯を磨いて、制服に着替えたら食堂に来てくださいよ……二度寝は絶対にダメにですからね……二度寝していたら顔の上に屁ぇこいちゃいますよ……プーッ」


 顔を洗って、狐狸姫のキャラモノ歯磨きセットで歯を磨き、制服に着替えた真緒は食堂に向かった。

 食堂では初老の執事『荒船・ガーネット』が、テーブルに真緒の朝食を並べていた。

 魔王一家が、コチ〔ファンタジーな〕の世界からアチの世界[現実世界]に移動する前から、ずっと仕えている人間に化けた魔物の執事、荒船・ガーネットが真緒に言った。

「おはようございます、真緒さま」

「おはよう、荒船さん」

 テーブルについた真緒は朝食を食べながら、荒船に訊ねる。

「ねぇ、荒船さん……荒船さんと、ボクのお父さんお母さんは、赤ん坊だったボクを連れて【アチの世界】に魔王城ごと引っ越してきたんだよね……ドラゴンや魔物がいる、剣と魔法の異界大陸東方【コチの世界】から」

「さようでございます……真緒さまが、お生まれになった時。魔族の占い師が言ったのでございます『この子は、もうすぐこの魔王城にやってくる勇者に名づけ親になってもらうと。最高の幸運な人生を手に入れて幸せになれる。育てるのは別世界のアチの方がいい……勇者が到着した特別の夜に、月の魔力でこの地の【引っ越し魔法】が発動する。それまでに引っ越し準備を』と、言われました」

「それで、アチの世界の春髷市〔はるまげし〕ラグナ六区に、引っ越してきたんだよね……ボクはぜんぜん、覚えていないけれど」


 真緒がコントローラーのスイッチを入れたモニターに映る、特番『閃光王女狐狸姫ZZZ』の再再再放送を、荒船はさりげない動作でスイッチを切る。

 不満そうな顔の真緒は、狐狸姫の顔イラストが焦げ目で描かれたバタートーストを食べながら言った。

「会ってみたいな、ボクの名づけ親になってくれた勇者さまに──きっと誰からも尊敬される立派な人なんだろうな」

 荒船は無言で魔王の息子を眺める。

 真緒は壁にかけられている水牛の角を生やした父親の魔王と、赤ん坊の真緒を抱いた母親が仲良く寄り添う肖像画を眺めた。

「母さんは、また世界の未確認生物の調査と保護活動? 今はどんな未確認動物を調査しているんだっけ?」

「確か水棲未確認生物のナウエリートの調査だったと──接触できたナウエリートが保護を望んでいたら、魔王城敷地内の湖へ連れてくるそうでございます」

「ふ~ん、お父さんはまだ、散歩から帰って来ていないの?」

「まだで、ございます」


 真緒の父親の魔王は、アチの世界に点在していた悪の組織を統一して悪くない『亜区野組織』なる、怪人や怪獣やロボットで構成された世界の平和を守る一大組織を作り上げた。

 すべては息子、真緒が幸福にアチの世界で暮らせるために。

 悪の組織統一という壮大な計画をやり遂げた魔王は、ある日の午後。

 執事の荒船に「ちょっと気晴らしにジョギングがてらの散歩をしてくる」

 と言い残して魔王城を出て行ったきり。

 今だに、城にもどって来ていない。


 荒船がテーブルの上に置かれている肉食植物の苗木に、真緒が食べ残したピーマンとニンジンを与えながら答える。

「長い外出でございますな」

 マオマオが狐狸姫のキャラコップで、ミルクを飲んでいると。

 花粉対策マスクをして消臭剤スプレーで消臭しながら、やって来た瑠璃子が言った。

「真緒さま、少しお急ぎにならないと……正門で果実さまが、お待ちです」

「わかった……瑠璃子さん、その格好。まさか……」

「はい、さっき通路を歩いている時、歩き屁で少し漏らしてしまいました。消臭小隊を呼ぶほどの悪臭ではないので自分消臭を」

 その言葉を聞いた途端、手で鼻と口を押さえた真緒は慌てて食堂から飛び出した。


 学校へ向かった真緒に対して、荒船の隣に立った瑠璃子がタメ息混じりに呟く。

「真緒さまの将来を考えると心配になります……あのような状態で魔王さまの正統な後継者として、今後『亜区野組織』と世界をまとめていけるのでしょうか」

「わたしたち怪人衆が真緒さまを信じて、サポートしていきましょう……とりあえずは、メイド長の瑠璃子さん」

 荒船の顔が、単眼が並び狭角(きょうかく)が蠢くクモの顔に変わる。

 クモ顔で少し瑠璃子から距離を空けて荒船が言った。

「シャワー浴びてきてください、少し臭います」


 コチの世界から魔王城と一緒に転移してきた火山や湖やサバンナや森林やジャングルや砂漠などがある、広大な敷地を取り囲む城壁の正門──侵略怪獣か肉食巨人か異星人の侵略宇宙船ロボットや、異次元からの侵略兵器の侵入を阻むかのようにグルッと囲まれた、高い城壁の正門横の扉が開いて。

 敷地内の専用平面電磁レールの上を浮かぶ、ホバーボードに乗って軽快に移動しながら竹ぼうきで掃き掃除をしている影人間の『シャドーピープル』や、空を飛んでいる『ジャージーデビル』に軽く挨拶をしながら。真緒は門外で待っていた制服姿の女子生徒に言った。

「お待たせ果実」

「遅い! 女の子を待たせるな、さっさと学校行くよ」

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