第二十八話・ガシャガシャ〔恒河沙・GOガシャ〕
神社の石段を往復して、お百度参りをしている、ガンメタル色のロボットがいた。
「ガシャ、ガシャ、恒河沙……ガシャ、ガシャ、GOガシャ」
祈っている恒河沙に、境内の掃き掃除をしていた神主が声をかける。
「いつも、熱心だね」
戦闘空間発生マシンの恒河沙は、汗が出るはずがない手の甲で額を拭き取る動作をしながら答える。
「わたくし、不器用なマシンですから……神サマにお願いして、少しでも多くのヒーローの方に戦闘空間に入っていただきたくて」
恒河沙が、春髷神社のご神体に向かって両手を合わせていると、網タイツ姿の色っぽい、真緒の学校の保健医。
百々目 一色が、やって来て言った。
「やっぱり、ここに来ていたのね、恒河沙」
純白の白衣コートを風に揺らす百々目 一色は、片方の手をプラナリアに変化させると、ハンドパペットのように口をパクパクさせる。
「困ったコトが起こった、戦闘空間に変な異世界がランダムに紛れ込むようになった」
「それって、そんなに困ったコトなんですか?」
「開いた空間が、いきなり竜の胃袋とかに繋がっていたら。そこに入ったヒーローは消化されてウ●チになっちゃうでしょ……まぁ、ご都合主義の戦闘空間を開く時は、十分気をつけてね」
「わかりました、ガシャ、ガシャ、GOガシャ」
数日後──緋色軒の休日、勇者メッキと銀河探偵・極神 狂介の二人は、カッパーロボを探して春髷市のスクラップ置き場にやって来た。
廃車や家電製品が積み重ねられたスクラップ置き場を眺めながら、メッキが狂介に聞く。
「本当に、こんな場所にカッパーロボがいるのか?」
「半年前に、出前の途中に動いているのを見たんだけれど……おかしいなぁ」
「どんな格好しているんだ、カッパーロボって画像とかないのか」
「画像はない、例えるなら胴体はドラム缶、頭はタライ頭で、蛇腹の手足で、輪っかみたいなハサミの手で、目は車のライト、胸にメーターみたいなのが付いていて」
メッキが落ちていた、タライのような銅色のモノを持ち上げて狂介に訊ねる。
「頭はこんな感じか?」
「そうそう、胴体はあそこに転がっているみたいな感じで……いっ!? メッキが持っているのカッパーロボだ!? なんでバラバラに? そう言えばアイツ、半年前に『最近、やたらとネジが緩む』とか言っていたから……転んだ拍子にバラバラに?」
「これじゃあ、どうしょうもならないな……ガラクタの山に放り込んで帰るか……けっ、ムダ足だったな」
悪心のバロメーターが規定の数値を越えたメッキの姿が、老人に変わる。
「いや、ちょっと待て……そんなコトをしたら、緋色が激怒して来月のこずかい減らされる。緋色は仲間に対しては情が厚いからな、直してやろう」
狂介は近くにあった、リサイクル家電を運ぶ時の台車にバラバラになったカッパーロボを縛り乗せると、家電量販店に持ち込んで修理を依頼した。
持ち込まれたカッパーロボを見て、家電量販店の店員は即座に「うちでは、そういうモノの修理は行っていませんから」とか。
「メーカーがわからない、ロボットの修理はちょっと」とか、理由をつけて断られ続けた。
大型家電量販店を数店回って歩き疲れた、老人姿のメッキが愚痴をこぼしはじめる。
「もう、その辺の粗大ゴミ置き場に棄てて知らん顔するとか、リサイクルショップに売っ払って、金に換えちまった方がいいんじゃねぇか」
「いや、もう一店だけ小規模な町の電気店を知っているから、そこに持ち込んで、修理できるかどうか聞いてみよう」
町のちいさな電気店で、家電を修理していた眼鏡の老店主は、台車に乗せられて店に入ってきたカッパーロボを一目見るなり言った。
「ふんっ、ついに壊れたか、そこに置いておけ……修理してやる」
「直してくれるのか?」
「ふんっ、元々儂が道楽から廃物利用で作ったロボットだからな」
「あんた、もしかしてカッパーロボの制作者か?」
「ふんっ、儂は町の気難しい電気屋さんだ。ちっとばっかし、ロボット工学をかじっただけの老店主だ……カッパーロボは、完成してすぐに店から逃げ出した。今日の夕方までには直しておいてやる……修理代は無料だ」
狂介とメッキは、カッパーロボを電気店に残して帰った。
◆◆◆◆◆◆
春髷市の某喫茶店──カウンター席に、オレンジ色とグリーン色の斑模様で、フルフェイスのバイクマスクのような頭をした怪人ヒーロー『モリブデン』が座ってコーヒーを飲んでいた。
緑色のマフラーをして、鋭いノコギリ刃のようなトゲトゲが付いた黒い手袋とブーツを履いて。
腰にサバイバル生活ベルトを巻いたモリブデンは、毒トゲの背ビレを広げたり閉じたりしながら、カウンターの中にいる初老男性に話しかける。
「おやっさんの、煎れるコーヒーはいつも美味しいですね……ウゲェェ」
モリブデンの下アゴが、深海魚のように前方に伸びてフレームの間から、口に入れたコーヒーが手にしたカップの中に落ちる。
モリブデンは、コーヒーカップの中に溜まったコーヒーをまた飲む。
「本当に、おやっさんの店のコーヒーは美味しいからオレ好きですよ……ウゲェェ」
下アゴからカップにコーヒーを落として繰り返して飲む、モリブデンの姿に喫茶店のマスターの、おやっさんは露骨に嫌な顔をした。
「おい、モリブデン……うちのコーヒーが、美味しいのはわかったから。その飲み方やめてくれ」
「どうしてですか? オレ、長い時間おやっさんのコーヒーを味わっていたいから……ウゲェェ」
「だから、やめろって言っているだろう! その飲み方を見ていると気分が悪くなる!」
おやっさんが怒鳴っていると、店のドアを開けてオートバイから二足歩行の等身ゾウムシに変形した『疾風の黄砂』が、普通に入ってきて。
体の前面に泥で汚れた前輪と後輪を露出させた状態で、モリブデン隣のカウンター席に座るとオカマの口調で言った。
「おじさ~ん、エンジンオイルちょうだ~い。いやぁん、ぬかるみ走ったらタイヤ汚れちゃったわぁ」
ワナワナと震える改造人間のおやっさんは拭いていた、コーヒーカップを握り割ると。
疾風の黄砂に向かって怒鳴り、おやっさんキックで、ゾウムシオートバイを蹴っ飛ばして店から叩き出す。
「出ていけ!! うちはバイク屋じゃねぇ!! オートバイがお客のフリして毎回、喫茶店に入ってくるんじゃねぇ!!」




