冤罪で断罪された聖女は滅びの魔女になる
・2025年2月14日 誤字修正
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・2024年11月16日 誤字修正
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むかし、むかし、そのむかし。
とても大きな帝国がありました。
その帝国ができる前は小さな国がたくさんありました。
どの国もとても仲が悪く、ちょっとした理由ですぐに戦争がはじまりました。
戦争ばかりの世の中に、人々はとても困っていました。
そんな時、一人の英雄があらわれました。
英雄はたくさんの小さな国を一つにまとめ、大きな帝国を作りました。
一つの大きな帝国ができて、英雄がその皇帝になったことで、戦争はおこらなくなりました。
また、英雄の仲間である賢者の叡智によって帝国はとても豊かになりました。
平和で豊かな帝国は、ずっと繁栄していくとみんなが考えていました。
けれども、わざわいは突然やってきました。
滅びの魔女があらわれたのです。
魔女は帝国を呪いました。
魔女の呪いで皇帝と賢者が倒れて、帝国は大騒ぎになりました。
次の皇帝をだれにするかで悩んでいる間にも、魔女の被害は増えて行きます。
作物は枯れ、家畜は病で死に、食べるものがなくなった人は飢えて苦しみました。
恐ろしい魔物がどこからともなくあらわれ、人々をおそうようになりました。
帝国は、魔女や魔物をとうばつするために騎士を向かわせましたが、騎士たちを指揮する英雄も、魔物を倒す知恵を授けてくれる賢者ももういません。
騎士たちは勇敢に戦いましたが、一人また一人と傷付き倒れて行きました。
こうして、魔女を倒すことができないまま、帝国は滅びてしまいました。
帝国が滅びた後も人々は苦しみ続けました。
食べ物は少なく、いつ魔物におそわれるかわかりません。
人々は不安におびえていました。
そんなある日、勇者があらわれました。
勇者はとても強く、出てきた魔物を次々と倒して行き、そしてついには魔女も倒してしまいました。
すると、次に聖女があらわれました。
聖女は傷付いた人々を癒し、病の家畜を治し、呪われた大地を清めて実りを取り戻しました。
こうして人々は滅びの魔女のわざわいから救われたのでした。
――民間に伝わる昔話より
◇◇◇
「ビアンカ、お前との婚約を破棄する!」
「え? 婚約……破棄……ですか?」
始まりは小さな反抗心からだった。
聖女ビアンカはサイラス王子が物心ついた時には既に婚約者だった。
聖女は国で保護する。そのために王族または王族に近い上級貴族の中から年の近い男子が聖女を娶る。
それはこの国の古くからのしきたりだった。
聖女が自分の婚約者になると初めて聞いた時には、サイラス王子は幼い胸をときめかせた。
英雄。
賢者。
勇者。
昔話に登場する偉人達と肩を並べる存在が聖女である。
それは王族として生まれたサイラス王子にとっても十分に特別な存在だった。
最初に聖女ビアンカと直接会ったのは、サイラス王子が十歳の時だった。
その第一印象は「何を考えているのか分からない女」だった。
サイラス王子よりも一つ年下のビアンカは、見た目だけならば美しい少女だ。
聖女らしいと評判の微笑みを浮かべた顔は、絵画から抜け出してきたようと讃えられていた。
だが、その表情が一切変わらないのだ。
こちらが何か質問すれば素直に答えるが、自分から積極的に話すことは無く、何を言われてもまるで表情を動かさない。
まるで絵画と話しているようだ、サイラス王子はそう思った。
それまで思い描いていた聖女とはまるで違っていた。
婚約者として会う機会が増えると、印象も少しずつ変わっていく。
サイラス王子は思った。
ビアンカは「何を考えているのか分からない女」ではなく、「何も考えていない女」なのだと。
自分から積極的に話さないのは、話すような何かを考えていないから。
聖女らしい慈愛に満ちた微笑と呼ばれるその表情は、何の感情も表さない無表情に等しい。
常に何も考えていないから、常に同じ表情をしているだけだ。
質素で慎ましい生活をしていると人々は褒めるが、何かを欲しがるという考えを持っていないだけだった。
人を癒す聖女の力を持っていることは間違いないが、人に言われて事務的に癒している気がする。
そこに慈愛の心があるのか疑問だった。
知れば知るほど面白みに欠ける女だった。
こんな女が本当に聖女なのか。
自分は将来こんな女と結婚しなければならないのか。
貴族の令嬢の中には、癒しの力は無くても、多少欲深くても、もっと民を想う心を持った者はいる。
ビアンカに対する不満は、思春期を過ぎた頃には父である国王への、そして理不尽なしきたりを押し付ける国への反抗心に育った。
サイラス王子も成長するにつれ王族としての公務を担うようになっていった。
それにともない王子としての権力も拡大し、国内の情勢もより詳しく知るようになった。
そんなある日、サイラス王子は一つの情報を得た。
聖女ビアンカの出自である。
ビアンカは、国王の信頼厚い宰相マクシミリアン・ラネーベの娘、ラネーベ伯爵家令嬢と言うことになっている。
だが、彼女は養女だった。その身にラネーベ伯爵の血は流れていない。
おそらく、どこかで見つけた癒しの力を持つ子供を聖女として祭り上げるために引き取ったのだろう。
そんな得体のしれない女を、王家に迎え入れてよいものか?
燻っていた反抗心が大義名分を得たことで、サイラス王子は行動を開始した。
「お前は聖女ではない。聖女と偽り国を騙した罪は重い。」
「私が……聖女ではない?」
状況が分かっているのかいないのか。
変わらぬ聖女の微笑を浮かべたままのビアンカにサイラス王子は言葉を続けた。
その変わらない表情を、驚愕で歪めてやりたい。そんな気持ちが行動の奥底にあったことをサイラス王子は自覚していなかった。
「お前は滅びの魔女だ! 証拠も揃っている。」
「私が……魔女? 滅びの魔女? ……」
これは真っ赤な嘘だった。
用意した証拠は全てサイラス王子が捏造したものだ。
詳しく調べれば嘘はばれて、サイラス王子は父から叱責を受けるだろう。
だが、それでもよいとサイラス王子は考えていた。
一度婚約破棄を言い渡し、しかも滅びの魔女扱いするという不名誉な濡れ衣を着せたのだ。
冤罪であることが明白になったとしても、婚約の継続は不可能だろう。
そして、ここまで明白に意思を示せば、古いしきたりに固執する父も少しは考えを改めるだろう。
そんな甘い見通しも持っていた。
「俺に取り入って王家を呪い、国を滅ぼすつもりだったのだろうが、その企みもここまでだ。観念するがいい!」
「私は魔女……王家を呪い……国を滅ぼす……」
サイラス王子は言い切った。
ここまで言えば、いくら何も考えていないビアンカでも笑顔ではいられまい。
怒り狂って抗議するか。
無実を訴えて懇願するか。
いずれにしても今まで見たことの無い表情をしてくれるだろう。
サイラス王子は内心期待しながら、今だ理解が追い付かないのかぶつぶつと独り言を言うビアンカの様子を覗った。
だが――
「フフフフフフ……」
ビアンカの反応は――
「ハハハハハハ……」
サイラス王子の想像したどのパターンとも――
「アーハッハッハッハッ!!」
異なっていた。
「よくぞ見破った、王子よ、私は滅びの魔女!」
「なっ……」
必死になって否定するだろうと思っていたサイラス王子は絶句した。
堂々と肯定されたら、用意していた次の台詞が全て無駄になってしまう。
一瞬、サイラス王子の思考は停止した。
「だが、もう遅い! これから王家を呪い、この国を滅ぼしてくれよう!!」
一方、ビアンカはまるで別人に入れ替わったようであった。
顔も姿も変わらないのに、表情と話し方、態度が変わるだけでここまで変わるものなのか。
聖女らしい慈愛に満ちた微笑は消え、その顔には邪悪で妖艶な笑みが浮かんでいた。
サイラス王子に何も考えていないと評されたおっとりとした態度は失せ、国を滅ぼそうという強い意志が感じられた。
この場に居合わせた者は全員、聖女が消え去り、魔女が登場したことを本能で理解した。
「ハッ! ま、魔女を捕らえよ!!」
茶番劇として行われた断罪劇であっても、だからこそ、断罪されたビアンカを捕縛するための兵士は用意してあった。
王子の護衛を行っている近衛兵である。
だが、彼らは「古い因習を打破するために大げさな罪で捕まえる」というサイラス王子の説明を聞いてこの場に連れてこられただけの者である。
何の抵抗もできないか弱い少女を取り押さえるだけの予定だった彼らに、本物の滅びの魔女を捕縛する気概も準備もなかった。
そもそも、どれほどの気概や準備があったとしても滅びの魔女を捕らえることが可能であるかは分からないのだが。
それでも王族を守る使命を持った近衛である。王族を脅かす存在がいれば、果敢に立ち向かうのがその役目だった。
彼らは果敢に挑んで行った。
その姿を笑うことは誰にもできないだろう。
たとえ一瞬で全員弾き飛ばされ、気を失ったとしても。
サイラス王子以下その場に居合わせた全員が気絶してしまったので笑うことのできる者がいなかったということでもあるが。
彼らが目を覚ました時、既にビアンカ――滅びの魔女の姿はなかった。
「言いたいことは色々あるが、今は時が惜しい。簡潔に答えよ、ビアンカ嬢に何と言った? いや、ビアンカ嬢を何者だと言った?」
意識が戻ると、サイラス王子はすぐに国王の前に連れてこられた。
そして、サイラス王子が何か言う前に国王からのこの質問であった。
言いたいこともあったサイラス王子だったが、いつになく真剣な国王の気迫に押されて質問に答える。
「王家を呪い、国を滅ぼす滅びの魔女だと言いました。ですが……」
「話は後だ。滅びの魔女の伝承では作物が枯れ、家畜が病気になり、魔物が現れる。これらの事が起きていないか、今すぐ調べよ。」
「ハッ、直ちに!」
サイラス王子の言葉を遮り、宰相に指示を出す国王を見て、サイラス王子は違和感を覚えた。
サイラス王子の行ったことはでっちあげた罪による断罪である。決して褒められたことではない。
だが、たとえ偶然であっても滅びの魔女の正体を暴いた自分は英雄扱いされてもおかしくないはずだ。
一方で、宰相は滅びの魔女を王宮にまで引き込み、将来の王妃にしようとした大罪人である。
魔女の企みを暴いた自分が犯罪者のように詰問を受け、その魔女を引き込んだ宰相が王の片腕として働いている。
いくら滅びの魔女が現れた非常事態とは言え、この扱いは何かおかしい。
そう思ったサイラス王子は、一段落したところで国王に問いかけた。
「父上、分かっているのですか。ビアンカは滅びの魔女だったのです。ラネーベ卿はその魔女を連れ込んだ本人なのですよ!」
「そんなことは最初から分かっておる。分かっていないのはお前だ、サイラス。」
しかし、サイラス王子は相手にされなかった。
そして、しばらく時間が経つと報告が入り始めた。
「王都近郊の農地で不自然に枯れている農作物を確認しました。」
「複数の酪農家で家畜の病気が発生していました。」
「王都北部の森で、今まで見たことの無い獣を見たという証言を得ました。おそらく魔物です。」
国中を詳しく調べて回るには何日も何ヶ月もかかるが、近場で見つかった異変ならばその日のうちに報告が上がる。
そして、王都周辺だけでも即座に複数の異変が見つかるということは、国中ではさらに数多くの異変が発生している可能性が高い。
「これは、確定ですな。」
宰相がぼそりと呟く。
「うむ。滅びの魔女が現れ、行動を開始した。この国は滅びる。」
それは王が口にしてはならない発言。だからこそ、その事実を重く受け止めた。
国が滅びるというつらい事実を。
「まずは魔物の動向を調べ軍を出動させてその侵入を阻止せよ。その間に一人でも多くの民を国外に脱出させよ。それから……ッグ、ゴホッ」
指示を出している途中で国王はせき込み、その口から血を吐いた。
「陛下!」
「父上!」
「慌てるな、おそらくこれは魔女の呪いだ。呪われるのは王家の者……サイラスも免れられなかったか。」
気が付くと、サイラス王子の鼻からも、一筋の血が流れていた。
「死なぬ程度の呪いと期待すべきではないだろう。マックス! 王家の血の入っていないラネーベ家ならば呪われることは無い。この後の指揮はお前が取れ!」
「父上! それは――」
いくら非常時でも、滅びの魔女の養父に王の代行を任せるのは問題ではないか?
そう思ったサイラス王子が声を上げるも、国王に制された。
「サイラスよ、そしてこの場に居合わせた者達よ。これから話すことは国でも一部の者しか知らぬ、サイラスにも王太子の教育が終わってから話す予定だった内容である。」
そう前置きして国王は語り始めた。
「今回現れた滅びの魔女は、聖女ビアンカである。だが、魔女が聖女に化けていたのでも、聖女が魔女に堕ちたのでもない。聖女も魔女も彼女の側面の一つに過ぎないと言えるだろう。」
その場がどよめいた。
国王の話は、出だしの部分だけで聞く者を混乱させる内容だった。
滅びの魔女と聖女は正反対の存在、相容れぬものという認識が一般的だった。
滅びの魔女が聖女ビアンカだったということだけでも衝撃的なのに、一人の人間が聖女と魔女を兼ねるかのような発言は理解を超えていた。
ビアンカが滅びの魔女へと変わる瞬間を見ていたサイラス王子でさえ混乱していた。
彼も滅びの魔女が聖女のふりをしていたと理解していたのである。
「どういうことですか父上。ビアンカはいったい何者なのですか?」
「彼女の正体は不明だ。分かっていることは、遥か昔から存在していること。人知を超えた力を有していること。」
「待ってください、ビアンカは人ではないのですか?」
「人間ではないだろうな。今の姿も聖女の肩書に合わせた仮のものだろう。今頃は滅びの魔女に相応しい格好になっているかも知れぬな。」
「そんなぁ。」
得体のしれない存在と婚約していたと知り、サイラス王子はショックを受けていた。
「聖女であるうちは癒しの力を持つ以外は人間と同じだ。人と同じように成長し、子を成すこともできる。生まれた子供はただの人間だ。王家にもその血は入っているが、癒しの力もその他の特別な力も発現した者はいない。」
一方、国王はその事実をしっかりと受け入れていて、淡々と語った。
「人として生きた聖女は人としての寿命を迎えると死ぬ。だがそれは人としての死であり、人外の存在が滅びることは無い。赤子に戻って再び生を始める。先代の聖女もそうやって死を迎え赤子に戻ったのでマックス――ラネーベ卿が引き取り育てた。その際に聖女だと言い続けて聖女に仕立て上げたのが聖女ビアンカだ。」
「……まさか、ビアンカが滅びの魔女になったのは――」
「お前が『滅びの魔女』だと言ったからに違いあるまい。」
「ああ、なんてことだ。」
サイラス王子は絶望した。
自分は魔女の正体を見破った英雄ではなく、滅びの魔女を生み出した犯人だった。
おかしいと思えた父親の態度は、信頼する家臣よりもむしろ、息子に対して甘い態度だったのだ。
そのことを、はっきりと理解した。
最初から最後まで、自分に正義は無かったことを。
「ビアンカは、あの存在は強い力を持っているが、目的も自我も持っていない。だから周囲の人の認識しだいでその在り方を変える。聖女と言えば聖女に、魔女と言えば魔女に。人の認識しだいで神にも悪魔にもなる、そういう存在だ。」
「で、でしたら、もう一度聖女だと言えば、滅びの魔女から聖女に戻るのではないでしょうか?」
その場にいた大臣の一人――聖女の秘密は知らされていなかったらしい――が恐る恐る国王に提案する。
しかし、国王は首を横に振った。
「残念ながら、一度明確な目的を持つと、それを果たすまでは止まらない。あれはそういう存在なのだ。『王家を呪い、国を滅ぼす』――王家はもう呪われたから、後は国が滅びるまで滅びの魔女は聞く耳を持たぬだろう。」
わずかな希望は絶たれた。
国王が国の滅亡を覚悟した理由が明らかになった。
「あれは人の手に負える存在ではない。安易に利用すれば予想外の行動をした場合に制御できない。一つ間違えば古代帝国のように国ごと滅びることになる。だから存在を隠すしかなかった。」
そこで国王は一息入れてサイラス王子に向き直った。
「特に若いものは予想外の利用方法を思い付く。それゆえ王子であっても一定年齢に達するまで教えられない決まりになっていた。それが今回は裏目に出たようだ。すまなかった。」
「父上! ……いえ、自分の方こそ考えなしの行動で大変なことをしでかしてしまいました。申し訳ございません。」
責められないことで、むしろ居たたまれなくなったサイラス王子は、心の底から反省し、謝罪の言葉を口にした。
しかし、いくら反省しても謝罪しても、すでに取り返しのつかない事態になっていた。
「滅びの魔女への対処は昔話の通りにすればよい。国が滅びれば目的を失った魔女とも話ができるから、まずは勇者になって魔物を倒してもらうといい。魔物が片付いたら聖女になって傷付いた人、呪われた大地、病になった家畜を癒してもらうのだ。」
国王の言葉を皆静かに聞く。それは一国の王として遺言にも等しい言葉だった。
「国が滅ぶまで魔女に手出ししてはいけない。人の手では決して倒せないし、目的を果たすためにより強大な力を使うようになる。最後は聖女になってもらうように。癒しの力を使う聖女ならば暴走しても悲惨な被害にはなり難い。彼女に願う時は具体的限定的になるように言葉を選べ。それで予想外の行動はかなり防げる。」
これまで秘されていた情報を次々と吐き出す国王。
今は秘匿するよりも、対応を誤らないために少しでも知ってもらうべきという判断である。
「平穏を取り戻したら、新しい国を興すといい。そして、今回の出来事を糧に、二度と間違えぬように。」
「必ずや、成し遂げて見せます!」
宰相が国王に向かって頭を垂れると、周りの者も自然とそれに従った。
国が滅びても全ての国民が死に絶えるわけではない。国土だった土地も残る。
もう一度国を興すことだってできる。
だが、その未来に国王は、そして今の王家は含まれていなかった。
たとえそうであっても、国が滅び王家の血筋が途絶えるとしても、その先の未来を願う国王に応えるべく、人々は動き出した。
◇◇◇
むかし、むかし、そのむかし。
一人のわがままな王子がいました。
王子には親の決めた婚約者がいましたが、王子は自分の婚約者のことが嫌いでした。
王子は婚約者に向かって、「お前は魔女だろう」と言って、なにか悪いことがおこればすべて婚約者のせいにしました。
畑の作物が枯れれば、「お前が枯らしたのだろう」
家畜が病気で死ねば、「お前が殺したのだろう」
王様が風邪をひくと、「お前が王家を呪っているのだろう」
そんなことを繰り返すうちに、婚約者自身も自分は魔女なのだと思い込んでしまいました。
そしてある日、王子の婚約者は恐ろしい滅びの魔女になってしまいました。
滅びの魔女は国中に大きなわざわいをもたらしました。
畑の作物は次々と枯れ。
家畜は病気で死んでゆき。
恐ろしい魔物があらわれて人々を苦しめました。
人々は長く苦しみましたが、やがて勇者があらわれて魔女と魔物を倒しました。
次に聖女があらわれて傷ついた人を癒し、病の家畜を治し、呪われた大地を清めました。
こうして人々は救われましたが、その時には既に魔女の呪いで王子も王様も亡くなっていて、国も滅びた後でした。
もしも、とても嫌いな人がいたとして、自分が嫌っているからと相手を悪人だと決めつけてはいけません。
嫌われているから、怪しいからと言って、ちゃんとした証拠も無く悪い人だと決めつけると、本当の悪人になってとんでもなく悪いことを始めてしまうかもしれません。
それはとても怖いことなのです。
――ある国に昔から伝わる教訓話より
ビアンカはイタリア語で「白」。何色にも染まる存在としてこの名を付けました。
昔話に出て来る「賢者」「滅びの魔女」「勇者」「聖女」は全て同じ存在です。
(「英雄」だけは別で、賢者を利用して帝国を作り皇帝になった男です。)
「賢者」は魔女の呪いに倒れたのではなく、自らが「滅びの魔女」になりました。
「滅びの魔女」は勇者に倒されたのではなく、自らが「勇者」に変わりました。
「勇者」が魔物を倒し終えると「聖女」に変わり、それ以降はビアンカまでほぼ聖女を続けてきました。