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覚醒

突然だが、俺には前世の記憶がある。どんな記憶かって?

そりゃあ、日本でせかせか働いていた、しがない一般サラリーマンの…なーんていえりゃ良かったんだが、


「実際はその逆なんだよなぁ…」


何が逆か?簡単だ。

この手の話は現代社会からナーロッパな中世へ行くのがお決まりだ。そんで、その逆ってことは___前世の方がナーロッパ人で、かくいう今がサラリーマンだった。

しかもサービス残業三昧、ブラック上等なクソ会社。洗う暇もねぇスーツは草臥れ、合皮の革靴はひび割れている。やり場のねェストレスをネトゲやら、コミカライズされたネット小説やらで何とか逃がしてる中年予備軍だ。RPGな漫画を読むたびあァどうせなら俺も転生してぇな…なんて思ってた現実がこれだよ。


魔法があった世界から、魔法もロマンも無いクソな世界に来て一体何が面白いんだ…


ズキリと痛む頭から、例の『前世』が流れ込む。もはや笑っちまえるレベルで剣と魔法があった世界では、俺は冒険者をやってたらしい。…だがその稼業もイイもんではなく、安定しねぇ稼ぎの中で何とかその日暮らしすんので精一杯な毎日だった。そのせいか手にしたあぶく銭ですら、ガキの頃から好きだった小説やメダル集めに使っちまうようなオタク拗らせた中年だった。魔法は魔石頼りだったし、剣どころか拳の才覚もねぇ俺はしがねぇ弓使いだった。

なんだ、今と大して変わらねぇじゃねぇか。結局、俺はどこ行っても同じって訳か……


(いや、そもそも、こんなハチャメチャな記憶ある方がおかしいよな…そうか、俺はとうとう頭をやっちまったのか?)


そこで、()()()()()()()()()()()に、そういや物理的にやってたなと面を上げる。

瞑っていた両目を開ければ___暗く頑丈な鉄格子が見えた。その前には無数の人がいて、皆項垂れた様子で倒れ込んでいる。ただし、その服装は囚人とは程遠く、むしろ黒や紺を基調としたスーツやスカートを着ている者がほとんどだった……そう、『現代』と呼ばれる『日本社会』に生きる、サラリーマンの服装だった。


「ハッ、ハハ……勘弁してくれよ…」


両手両足をガチガチに縛られ、頭からはイカレた記憶が流れ、周りは呻きでいっぱいだった。

何だこりゃ?集団拉致か??まさか日本でテロに遭うとは思ってもみなかったが…何にせよ、助けなんてそうそう来ないだろう。無駄にイカレた『前世の知識』が訴える。

呻く声が響く範囲だの、空気の流れだのがヤバすぎる。どう考えてもバカでけぇ施設だし、この独特な気圧からしてダンジョンに近い…地下施設なんじゃないかと思った。

そんなエライ所まで、一般人を連れ去り閉じ込める…ゴブリンの仕業じゃねぇのなら、『前世』じゃあよくあった人浚いだろう。…たとえこの記憶がイカレてようが、人身売買は現実にもあるんだ。そうおかしな話じゃねぇだろうとは思った…しっかし、ゴブリンだの、ダンジョンだの…我ながらホントに笑っちまうな。剣と魔法の世界、ねぇ…


「魔法なんてもんがあったなら、この世界でも使わせてくれよ……」


それこそ血止め代わりに使ってた、精神さえ鍛えちまえば、集中するだけで誰でも使える聖魔力とかさァ___


ピシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


「!?」


ダメ、元だった。『前世』では散々やっていた感覚をなぞり、頭へ雫を垂らすイメージで肩を落としつつ目を閉じた瞬間……濁流のようなナニカが流れ込み、稲妻のような衝撃が走った。


「な、んだ……今の。……!」


頭の痛みが、無くなった?ハッとなって膝で額を拭えば、さっきまであった筈の切り傷どころか、流れていた血の痕すら消えていた。ハ、?嘘、だろ…?


血痕すら飛ばすとか…パンピーが使える聖『魔力』じゃない、聖『魔法』の方じゃ……!?


「喜べ貴様ら!!___改造の時間だぁ!!」

「「「ビィー!!!」」」

「う、うわあああああああああああああああああああ!?」

「なっ、なんだあ!?」

「いや、いやアアアアアアアアアア!!!!」


その時だ。鉄格子がガシャンと開かれ、外から連中がやってきた。

白模様の混じった全身タイツに目出し帽をかぶったような男が三人、そして___見るも恐ろしい熊のような異形に、ゴーレムがごとき岩肌がついた怪物のような男が一体、高笑いを上げつつ踏み入ってきた。

周囲は一気に阿鼻叫喚へ。かくいう俺もタイツ男に担がれ、地下牢から3人が運び出された。


「グギギギギ…どう足掻いても無駄だ。これから貴様らは手術を受け、素晴らしい結社の思想の元に、絶対の忠誠を誓うこととなるのだ__改造人間としてな…!」

「い、いやだ、いやだぁあっっ!!」

「誰かッ!誰か助けてーーーッ!!」

「無駄だ無駄だァ!!ここは既に我らが結社、ドッカーの秘密基地の中!貴様らもドッカーン様の偉大なる理念……世界征服に賛同するがいい!!ガーッガッガッガッガッガッ!!」

「___せ、かい……せい、ふく…?」


グルグルと前世の記憶が回る。俺が好きだったシリーズ小説、それに必ずと言っていい程でる敵の野望…それが世界征服だった。それだけじゃない。改造人間、闇の秘密結社、果ては変な鳴き声兵士…そうだ、ここは『魔法が無い世界』で『その代わりとなる超技術が発達した豊かで平和な別世界』……!


「マジ、かよ…」


この現代が、日本社会が____<改造ベルター>(ぜんせのしょうせつ)の世界だとォ!?


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