第三十二話 封印の少女
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一同、息を呑んだ。
氷の塊のような結晶の中で、一人の少女が眠っている。
背丈は人間で言うところで十三~十五といった所か。
長く真っ白な絹のような髪を湛え、低い身長の割に豊かな乳房が目立つ。
瞼を閉じてはいるが凄まじい美貌だ。顔の良さではフォリントに勝るとも劣らない。
ただ、フォリントの美しさが太陽の如き暖かなものとすれば、少女のそれは底冷えのするような冷たい美しさである。
白い髪から覗く長い耳はエルフを彷彿とさせるが、背中から生える黒い翼と禍々しい禍々しい二本の角がそれを否定している。
魔族だ。
「なんてこと……ここはダンジョンなんかじゃなかったんだわ。
ここは、この子を封印するためだけに作られた施設よ」
エブリーの声に呼応するように、結晶に亀裂が入る――というより、元よりあちこちに罅が入っていた。
もしもう少し来るのが遅ければ、先に結晶が割れていたかもしれない。
それはつまり、得体の知れぬ魔族が予期せぬ内に解き放たれていたことを意味していた。
ああ、だからなのね。
だから、ガーゴイルがいたんだわ。
外からやってきた盗掘者ではなく、内から敵が逃げ出すのを防ぐため。
ガーゴイルは門番ではなく、看守であったのだ。
「あら、でもこの子……。
三人は下がって。レド、お願いできる?」
「ああ」
エブリーを含めた四人は入口近くまで後退し、レドだけが結晶の前に立ち、腕を広げた。
やがて音を立てて結晶が崩れると、重力に沿うように少女がレドの腕の中でするりと落ちてきた。
降り注ぐ結晶を拳で払いながらおい、と背中を数度叩いてやると、切れ長の瞼から、夜の闇を染めるような深紫の瞳を覗かせた。
「毛皮のベッドでお迎えとは、随分気が利いていますわね」
アニス達には聞き覚えのない言語だが、愛の魔女の魔法の効力で何を言っているのかは分かった。
ただ、エブリーだけが驚きとともに少々目を見開いていた。
「冷たい石のベッドのほうが好みだったか?
減らず口が叩けるなら、自分で立て」
ゆっくりと降ろされた少女が、アニス達の方へ視線を向ける。
実に妖艶かつ、酷薄な笑みを浮かべる女である。レディエールが冷や汗をかきながら、アニスを庇うように前へ出た。
「なんと、まあ。可愛らしい子ばかり集まって。
取って食べたりしませんわよ、安心なさって。
……というより、今はそんな事ができない程度には華奢な、ただの女の子なのです」
「ごめんなさいね、そう言われて警戒を解けるほど、私達も優秀じゃないのよ。
あなたの言葉……古アルダモン王朝時代のものよね。一体何者なの?」
エブリーに問われ、初めて少女がきょとんと眼を丸くさせた。
「言われてみれば、どうして話が通じるのかしら。
わたくしがいた頃とはだいぶ変わってしまったようですわね。
ですが、何者だ……とは、こちらのセリフとは思いませんこと?
一応あなた達のほうが侵入者なのではないかしら」
「いいえ、私達は綻びを正しに来た、いわば管理人の立場よ。侵入者ではありません。
……その割にあなたの事を知らなかったのは落ち度だと言われれば、仕方のないことですけれども」
その答えが気に入らなかったのか、ふぅんと鼻から息を吐いて、今度はエブリーではなくその奥――敵意を剥き出しにしているレディエールに語りかける。
「ねえ、勇ましい騎士様。一ついいことを教えてあげましょう。
今のわたくしは、あなたよりずっとずぅっと弱くってよ。
その魔術師なら分かるでしょう、わたくしが今どんな状態なのか。
構えるのはそれを聞いてからでもよくなくって?」
レディエールは表情は変えずに、視線のみをわずかにエブリーへ向けた。
この女の前で、如何なる隙も見せたくなかった。
話しぶり、佇まい、そして一種蠱惑的なまでの美貌。全てにおいて自分より下であるとは到底思えない。
寧ろ、遥か遠くの存在のように感じられる。
底の見えなさで言えばあのウーラスーラですら及ばない。
一瞬でも隙を見せれば次の瞬間には全員の首が飛んでいてもおかしくはない。
それぐらいの力量差を感じてしまっていた。
「……そうね、私だけじゃなくて多分、アニスちゃんにも分かるんじゃないかしら。
レディエールちゃん、この子はね、マナが全く無いのよ」
「全く?」
マナとはこの星に生きとし生けるもの、時には死した者にすら宿るエネルギーである。
路傍の石にすら僅かに含まれるマナが全く無いということは、存在するためのエネルギーがないということだ。
人間からマナが全く取り払われてしまえば、少なくとも身動き一つできないはずであり、普通に考えれば死んでいるのと同義である。
「いまわたくしが動けているのは、この首輪のおかげです。
もっとも、マナが回復しないのもこの首輪のせいなのですけれど。
魔術どころか騎士様の持っている剣すら持ち上げられませんでしてよ。
ご理解いただけましたかしら。わたくしはあなたが警戒するに足るような存在ではないのです」
再びエブリーに視線をやると、少し疲れた様子で首肯するので仕方無しに剣を下げた。
それにつけても、そんな状態だというのにこの余裕を湛えた笑みはどうだ。
無力であるということの恐れも、不安も全く感じられない。
それは即ち、封印される前はその余裕に足る力を持っていたことに他ならない。
自分の力はさておき、周囲の力も取るに足らないものに見えているのだ。
「ありがとう。これでやっと、少しは話そうと思える場になりましたわね。
わたくしはエンデレア。魔王アルゲンスタインの一人娘でしてよ。以後お見知りおきを」
「アルゲンスタインですって!?」
エブリーが声を荒げた。普段温厚で落ち着いた彼女には珍しく取り乱した様子だが、それに疑問を覚えた者はこの場にいない。
魔王アルゲンスタイン。かつて勇者ハインウェルと聖女マリアベルがその命と引換えに葬り去った伝説の大魔王である。
その性格は残虐非道にして冷酷。歴代の魔王たちの中で最も人間を憎み、殺したとされる人類の敵であった。
「ああ、その反応。どうやらお父様の悪名は現代にも轟いているようですわね。
それで、最期はどうなったのです? 流石にもう生きてはいないのでしょう?」
「……勇者ハインウェルと聖女マリアベルが討伐しましたよ。
最期まで人に対して怨嗟を吐き続けた、壮絶な死であったと残っています」
エブリーが恐る恐るといった様子で説明すると、わずかに悲しげに瞼を伏せ、エンデレアは溜息をついた。
「そう。お父様は最期まで治らなかったですのね。
お可哀想に……輪廻の火にあの方の怒りも焼き尽くされていればいいのですけれども。
さて、わたくしは自己紹介をしましたわよ。今度こそあなたたちの番ではなくて?
特にそこのあなた。騎士様の後ろの子。
ハインウェルと同じ祝福を受けておりますわね。現代の勇者なのかしら?」
「えっ、ええっ!? わたし、ですか!?」
レディエールの陰からこそこそと様子を窺っていたアニスが素っ頓狂な声を上げる。
その場全員の眼が、アニスに集中した。
特にレディエールなどは、今度は勇者ですか!? とでも言わんばかりに瞳が輝いている。
「ええ。勇者を鍛え上げるために苦難を呼び寄せる祝福。
かの仔龍アトリア・ベールトが自らの戦士たちに施す祝福と同じものです。
今でも彼女は仔龍の角を募っているんですのね、お変わりないようで何よりですわ」
「ちょ、ちょっと待って、待って下さい、情報が、情報が多いですから!
苦難を呼び寄せる祝福ってなんですか!?
それめちゃくちゃ困りませんか!?
なんでわたしにそんなのがついてるんですか!?」
「お、落ち着いて下さいアニス様!
偉いドラゴンが何の考えもなしにそんな祝福をするとは考えられません、きっと重要なことかと……!
それこそ、アニス様が立派な聖女、いや勇者になるための!」
「わたし勇者なんて柄じゃないですから!
どう見ても勇者になるならレディさんの方でしょう!?
見て下さいよわたしのこの腕! 細い!
これで勇者を名乗るのは流石に無理がありますって!」
「筋肉量だけが強さを決めるわけではありません! アニス様には……」
「ストーーーップ! そこまで! あんたたちふたりともヒートしすぎ! 流石に状況考えて!?
あのエンデレアって子めっちゃ笑い堪えてるから!」
フォリントの静止にはっと広場を見れば、疲れたように目頭を揉むレドと、眉を垂らして苦笑いを浮かべるエブリーと、口元隠しつつ肩を震わせるエンデレアの姿とがあった。
「ふ、ふふっ、いや。封印されていた甲斐がありましたわね。
まさか人間が魔族の前でこんなにも面白い漫才を披露してくれるなんて。
随分良い時代になったようですわね。もしかして魔王なんて言うのももういなかったりするのかしら」
かぁぁっと顔を真っ赤にして身を縮こませるアニスに代わって、エブリーが苦笑いを湛えたまま応える。
「いえ、残念ながらまだ魔王はいますよ。それどころか四人もいます」
怪訝そうに眉根を潜ませるエンデレアに一呼吸置いた後、エブリーはなんだか身構えていたのが馬鹿馬鹿しくなり、相好を崩した。
「それでもあなたの時代よりはずっと、ずっと平和になっているから安心してちょうだい。
私はエブリー・スペルマン。そっちの狼男は相棒のレド。
こっちの三人は私が今回護衛に雇った冒険者の皆さんです」
「おいエブリー、いいのか?」
「いいの。どっちにしろマナがないのは事実ですし。
色々聞きたいこともあるのに名乗らないのは失礼だわ」
羞恥に縮こまっていたアニスも、恐る恐るといった様子で手を挙げる。
「その……わたしも大丈夫だと思い、ます。
うまく説明はできないんですけど……そんなに危ない人には思えないんです。
あの、わたしは……もう聞こえちゃいましたかね、アニスって言います。よろしくお願いします……で、いいんですよね?」
おずおずと前へ出、はにかみながらも頭をペコリと下げた。
マナがないのがわかるから、だけではない。
彼女の態度は強者のそれに間違いないし、本来であれば怖い存在に見えるはずなのに。
なぜだか、ほとんど直感的に危険な人物ではない。そうとしか思えなかった。
「ええ、宜しくお願いしますね、アニス。先程は驚かせてしまってごめんなさい。
知らないとは思いませんでして。あの方も気まぐれで困ってしまいますわね」
ほんの少し同情を交えた微笑みが、なんだかとても心地よい。安心感すら覚える。
言うなれば、懐かしさ。それに近いものをアニスは感じていた。
主人が頭を下げたのに騎士が下げぬわけには行かない、とでも言わんばかりにレディエールも剣を仕舞い、丁重に辞儀した。
「私はレディエール・シルバーストームと申します。
先程は無礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした。
アニス様の騎士……になるべく鍛錬中の身です。よろしくお願いします」
「あたしはフォリント。見ての通り射手よ。よろしく……っていうかおはようって言ったほうがいい?」
フォリントの軽口が気に入ったのかくす、と濃紫の瞳を細め控えめに笑み頷きを返す。
こういう仕草の一つ一つが、いちいち絵になる美女である。レディエールをして、内心ううむと唸るほどであった。
「ええ、おはようございます。レディエールにフォリントですわね。本当に華やかなパーティですこと。
それで? わたくしはこの後どうなるのかしら。
随分長いこと眠っていたようですし、秘密を抱いていても仕方ありませんから知っている限りであればお話しますけど。
出来ましたら実験動物のように扱われるのは勘弁願いたいところですわね」
「そんなことはしませんよ。今どきは人と魔族は和平を結んでいるのですし。
ただ、そのまま開放するわけにはやっぱりいきません。
ひとまずは魔術師協会に来てもらいます。
封印されていた理由はさきほど簡単に聞きましたけど、もっと詳しく調べて、危険性がないのかを判断しないといけませんし」
まあ当然ですわね、とぼやきながら肩を竦めるエンデレアに、アニスはもう危険性などないのではないかとつい思ってしまう。
しかし相手は魔族。それも現代の魔族とは違い人類と戦争をしていた時代の魔族である。笑顔の裏で何を企んでいるかなどわかりはしない。
仮にエンデレアをその場で開放すれば、エブリーは魔術師協会で激しい糾弾を受けるだろう。どんなに安全と思っても、連れ帰らないわけにはいかないのだ。
「では込み入った話はそちらでするとして……アニス達はなにか聞きたいことあるかしら。
残念ながら仔龍についてはわたくしもそこまで詳しいわけではないのであまりお話できませんが」
「う、うーん……その祝福って、外せたりはしないんですかね……?
あと、苦難って言うとどれぐらいのものが来るんですか……?」
アニスのたどたどしい問いにエンデレアは頬に手を添え、しばし長考するような素振りを見せた。
悩ましげに眉間に皺を寄せている辺り、芳しい解答は得られなさそうだな、とレディエールは肩を竦めた。
「彼女……アトリア・ベールトは世界最古の龍ですし、その力は魔王ですら足元に及ばないほどと聞いています。
神話級の魔女、それこそアンネリーゼやクェンベリ、ミリアリスといった方々なら可能性はあるかも知れませんが、断言はできませんわね。
そもそもあの仔龍がもたらした祝福、仮に外せたとて意に沿わぬようで恐ろしくて、わたくしなら断念しますわね。
苦難がどんなものかは、まあ、いわゆる勇者のお話……英雄譚を読めば察しが付くのではないかしら。
たくさんの物語がある勇者は、往々にして彼女の祝福が背景にありますから」
ふらっと倒れそうになったアニスを、レディエールが腕を掴んで支えた。
出てくる単語がどれも途方もなさすぎて、眼の前が真っ暗になった心地である。およそ自分に関わりのある話には思えない。
英雄譚は好きでよく読んでいたが、どの話もとてつもない困難が克明に描写されており、それが我が身にも降りかかるなど想像するだけで気を失ってしまいそうであった。
「しかし、祝福を知らないというのは妙ですわね。
普通仔龍の角といえばきちんと儀式を経てなるものですのに。
見ていると、まるで事故か何かで祝福を浴びたような感じですけど、そもそも仔龍とはどうお知り合いに?」
「ちょっと夢……っていうか、幽体離脱? をしたことがありまして、その時に……。
そんな儀式なんてしてないはずなんですが……あれ、いやでもまさか……」
「アニス様?」
「そういえば別れ際に"あなたのそばにいつでも勇気がありますように"って言われたんですけど……」
「「あっ」」
ほとんど別れの挨拶のように言われた言葉だが、祝福と言えなくはない。力を持つ龍が口にすれば、あるいは。
眼を泳がせる二人を見て、わぁっとアニスが両手で顔を抑えて泣き始めた。
「勇気を出させるためにわざわざ困難を呼び寄せるなんて、そんなのあんまりですよぉっ!
励ましじゃなくって脅しじゃないですか!」
「別に脅しているつもりはないと思いますけど……でも妙なのは確かですわね。
先程言ったように仔龍の角はそれなりの儀式を経てなるものですし。
案外、彼女も祝福になっていることに気づいていなかったりするかも知れませんわね。
そんな気なく言ってみたら、思いがけずマナが乗って祝福なってしまった、とか」
様子を窺うように話を聞いていたエブリーが静かに手を挙げる。
「そんなこと、ありえるの?
私が見る限りこの祝福はとんでもなく強固なもの……言葉にしただけで施されるようなものには到底思えないのだけれども」
「それほどまでにかの仔龍は強力な存在、ということですわ。
この星の誕生からいると言われておりますし、それぐらいはあっても不思議ではありません。
ただ、意図せず祝福になってしまっていると言うなら困りものですわね。
はた迷惑極まりない祝福ですし。
確か彼女はいくつか自分の神殿を持っていたと思いますが……エブリーはなにかご存知?」
「いいえ、その名前は初耳よ。でもそれだけ強力な存在の名前が記録に残っていないのは不自然ね。
おそらくは……魔女の力が働いているんじゃないかしら」
苦虫を噛み潰したような渋い顔でエブリーは肩を落とした。レドが"またか"などと吐き捨てているのを見るに、今までにも魔女による被害を被っていることが容易に読み取れた。
与えるものも多いが、或いはそれ以上に魔女が人類から取り上げた知識や技術は多く、過激派の魔術師からは星の管理者気取りと揶揄されるほどであった。
「わたくしが覚えているのですもの、少なくとも"記憶"の方ではありませんわね。"記録"の方でしょう。
それがアトリアの要請によるものなのか、魔女たちの都合なのかは知りませんが。
魔女たちはいつだって隠し事がお好きですものね。ええ、よく存じておりますとも」
同じく、何度も煮え湯を飲まされたのだろう。エンデレアの眉もまた、不愉快気に多少つり上がる。
「まあそんなわけなので、なんとかするなら仔龍に会うのが確実ですわね。
魔族と和平を結んでいる、と先ほどおっしゃいましたわよね。
それなら長生きしている魔族に聞けば、なにか分かるかも知れませんわよ」
「うう、お姉ちゃんを探す旅だったのにどんどん目的が増えているような……」
がっくりと肩を落とすアニスをなだめながら、次はフォリントが手を挙げた。
「次あたしね。あたしは覇王オルゴイって昔の偉い王様が使ってたっていう弓を探してるんだけど、何か知らない?」
「覇王オルゴイ……? ごめんなさい、存じませんわ。なにか伝説的な方で?」
流石に古い時代の魔族であれば何かしら手がかりを持っているだろうと期待を膨らませて聞いたフォリントだったので、この解答にはずるっと態勢を崩した。
「うっそぉ、アルゲンスタイン時代の魔族でも知らないワケ!?
魔族と人間を整復したっていうすっごい昔の王様みたいなんだけど……」
「わたくしの時代よりも古い王で? ふむ、それを知らない……」
あ、とフォリントが声を上げる。先程のエブリーとエンデレアの会話を思い出して、知らないという理由に見当がついたからだ。
「ま、まさか魔女の……」
「十中八九、そうでしょうね。逆にあなたはなぜ知っているのかしら」
「あたしはおじいちゃんが見つけた古文書で……」
エンデレアの瞼が、一気に同情的に垂れ下がる。嫌な予感がしてフォリントは冷や汗を一筋落としてしまった。
「では、記憶の魔女の方ですわね。おかわいそうに。それを探すのは至難の業ですわよ。
あれは眼の前にあるものですら記憶から欠落させて見失わせることができる魔女ですから」
「はっ、はぁぁぁぁ!? なに、どういうこと!?
見つけても見つけたって思えないってこと!?
魔女ってなんでそんないじわるすんのよ!」
この悲痛な叫びには、エンデレアのみならずエブリーとレドも大いに頷いた。
魔術師は魔女を嫌う。その理由の大半が、こういった知識や記憶の略奪によるものである。
叡智の探求者たる魔術師にとって、記録の魔女に記憶の魔女、この両者は不倶戴天の敵と言ってよい。
「ただまあ、あなたがその覇王の話を記憶できているのは、記憶の魔女が敢えて魔法の範囲から除外しているのかも知れませんわね。
それならあなただけはちゃんと見つかるかも知れません。あくまで仮定の話ですけれど」
「な、なるほど……でもそれってあたししか見えない可能性が高いってことよね?
つまり手がかりを探すっていうのは……」
沈痛な面持ちで目を逸らすエンデレアに、じゃあどうやって探せっていうのよぉー!という魂の叫びが虚しく広間に木霊した。




