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此処は通路と併用となっている為、混みやすい。立ち話には向かない。だから彼らの背を抜けて、別の場所へ。照明がワントーンが下がる。今までは薄暮だった世界が、一瞬で深夜になる。深海魚のコーナーだった。私はその中の嘴の長い魚に目を向ける。食事中のようで、砂に嵌った小魚の頭に一心不乱に口を付けている。
「後輩、その思い、少しだけ十割あるうちの九厘で良い。分けてくれないか? 私が言えたことじゃないが、君に不利益はないよ」
「何に? 使うの? ですか?」
突然の願いに、言葉一つ一つに疑問符が浮いている。ま、一般市民にとっちゃそう思うのも無理はない。それに私も説明を省き過ぎた。脳内でどう言えば伝わるかどうかを思案する。うーん……。
髪を人房掴んで擦り合わせながら、一つ、いい単語が浮かんだ。
「君へのお守り。ま、他にも使うけど」
「はあ」
後輩は疑問符を浮かべながらも、僅かに顎を引いた。了承の意を受け取った。
私は小魚の水槽から右に視線をずらし、真横の筒状の水槽に目を向けた。この深海魚のエリアは定期的に見世物が変わる。今回は金目鯛。そういや『鯛』なんて名前が着いているが、石鯛や真鯛とは違う種類だったな。
そんな事を考えながら、じっと水槽に目を這わせていると、水上に向かって舞いながら此方に寄ってきた。金目鯛の名に相応しい金赤の胴体。それに反した巨体な黒目は底なしの虚無。私と似たような匂いがする。見つめ合うこと数秒、先に口を開いたのは金目鯛の方だった。
この、他にもって所が大事な所。取り分けヨハネにとっては。
あんまり心配してないと思います。
梅香の君のお呪いもありますし。