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清らかな巫女服を黒い液体で穢し、苦しげに歯を食いしばっている。腕には赤子のような小さな生き物を抱えていた。
「舞楽、お前の水を穢すことを許して欲しい」
「ちょっと」
たった一言。それだけを吐き捨てると、慌てて蓮池に飛び込んだ。淡水が淀む。墨汁を入れたように、黒く染まって行く。慌てて飛び降りた舞楽様は、三狐神様の腕に抱え込まれている生き物を見て、絶句した。よく知った顔の少女だった。親戚のような間柄。
「丸呑みされた少女を、腹裂いて取り出したんだ。さながら赤子の出産に立ち会った気分だったよ」
「でもお前、その子はもう瀕死じゃないか……。御魂がごっそりイカれてる」
舞楽様は三狐神様から小さき生き物を受け取ると、心臓部に耳を傾ける。まだ息をしているようで、胸が大きく上下している。気がつくと、ぽつりと一言。
「……助かるんですか?」
黙って舞楽様の裾を掴んで横目で見ると、俺の頬を軽く叩いた。
「誠也。少しだけ御魂を分けてくれ。出来るだけ楽しい思い出を描いて、そう」
思い浮かべるのは、博物館、科学館、美術館、水族館を放浪した思い出。新しい知識が、新しい世界へと連れ出してくれた、あの感動。楽しいとは違うが揺さぶられた事には変わりない。
俺がそうやって馳せていると、舞楽様の元に球状の光の粒が形成されていく。
「もう少し、あと少し」
まぁ、これがヨハネの御魂がちょっと変わってる。
という伏線回収の一部なんですけど。
三狐神様に引き摺り出されて、誠也に御魂を分けてもらった存在。
そんな一風変わった子です。




