予言
目を覚ますと、そこは後輩と訪れた水族館だった。誰も居ない。人っ子一人。まるで平日のように、この神秘的な空間を独り占め出来る。その壁際には黒を基調とした空間に水の箱。透き通る空の液体を舞うのは南国の魚達。鮮やかさで言えば一、二を争う程に人目を引く。
その光景を薄ぼんやりと眺めていると、酷く心が癒されるような気がした。ずっとこのままで居たいと言える程。
――また此処に来てしまったのか。
脳裏に直接響くような声。低く、やや暖かみを帯びたそれに引き寄せられ、そのまま視線を向けると一匹の赤魚。胸びれを忙しなく動かして此方に向かって来る。
此処で一つ、普段の世界では絶対に有り得ない事を上げておこう。その魚は水の中をさ迷っている訳ではない。“大気中”を浮かびながら此方を目指して迫って来る。非現実な光景ではあったが、特段驚くことは無かった。
「これ、夢ですね」
――あぁ、幸いにも君の夢だ。
赤魚、金目鯛はくるりと空中を一回りすると、ギョロっとした目を此方に向けて来た。御丁寧に体を横向きにして。その気遣いに敬意をし、嗤う事無く見詰め返した。
気配的には舞楽様と同じ匂いがする。お使いだろうか? まぁ今の所、敵では無いさそうだ。私は頭を掻き乱すと、一つ溜息を着いた。
「貴方様の御忠告通り、危険な目に逢いましたぜ」
――あんなのはまだ序の口さ。□□は夢を苗床として、常世に現れる。
赤魚が身を翻す。私もそれに習って歩き始める。この館内を案内するかのように、薄い胴体を揺らし、時折私の方を振り返る。着いて来ているかを確認しているようだ。
誰も居ない水族館は快適であると同時に何処か不気味であった。生存者は私。それ以外は全て皆展示品。余りにも歪な光景。
――良い機会だ。君のお前の大切なものを守るため、□□を出してはいけない。あくまで、君の世界で殺すんだ。
――もし、出てしまったら?
黒の双眸が白の濁りが生じる。
――君の知り合いの武闘派を頼むと良い。
そう、この予言をしたばっかりに、最後が物凄く呆気ないんですよ。
規格外と言えば聞こえは良いんですけど。
それにしたって、最後さぁ……。という感想です。




