性悪ちゃん
私は誠也と共に近所の喫茶店を訪れていた。一昔前をイメージしたレトロな喫茶店。茶褐色の木枠や飴色のステンドグラス。コンクリで覆われた無粋な店外と異なり、落ち着いた印象を与える。そこの最奥を陣取って、私達は互いにアイスコーヒーに口を着けていた。先に口を開いたのは誠也だった。
「ヨハネ、来週は暇か?」
「暇じゃないよ。でも暇にするよ」
私は大して顔も上げず、文庫本に目を走らせながら返答する。インキと紙の匂いが心地良い。内容はちょいとホラー。取り憑かれた女の子の話。その縦に連なる文を、切りの良いところまで追うと顔を上げた。
黒の短髪よりも少し長めの髪。冷徹にも見える冷ややかな双眸。両腕には筋肉が張り付いている。顔立ちに反し、此奴が肉体派である事を物語っていた。誠也は黙って鋭利な目を向けて来る。
「何?」
「空けとけ」
「午後からね」
午前は可愛い後輩との約束がある。何でも梅香の君と三狐神様の小説が纏まったので、今度は舞楽様の話が聞きたいとの事。私に聞かなくとも、本人に聞けば、くどい程語ってくれそうなものなのに、何故か周りからの印象を第一として書くつもりらしい。
最近、後輩は舞楽様の元に訪れていない。…………そろそろ不味いかも知れない。
銅マグに入った夜の闇のような黒。硝子玉のような氷が“ふより”と浮き、中の温度を保ってくれている。黙ってコーヒーのストローに口をつけると、ほろ苦い味が口一杯に広がる。
こういうところがヨハネの好きな所。
敵には遺憾無く発揮しそうですが、誰彼構わず色毛も口説き言葉も振りまくタイプじゃありません。
ま、身内しか今回出ないんですけど。
ただの性悪ちゃんにしか見えません。