心配事
俺は平たい葉が何処までも浮かぶ池の前に立っていた。前に浮かぶのは縦に長い堂。中国風の装いを見せるそれは、外周の何処から見ても異彩な存在感を放っている。
溜息を着くと、堂へと繋がるコンクリの橋に足を踏み入れる。屋台から漂う香りに惹かれ、一瞥すると、作りたての焼きそばや、牛串が山になっていた。
さて、手水舎で身を清めるか。そう杓に手を伸ばした時だった。僅かに甘い香りが鼻腔を掠めた。花のような、檜のような。首だけを曲げて振り返ると一人の白い麗人。彼女は“のそのそ”と此方に向かって歩いてくると、俺の背中目掛けて軽く頭突きをした。
「こんにちは、舞楽様」
「……こんにちは」
サラサラした癖のない長髪を乱すように、脳天を擦り付けてくる。挨拶以外の言葉が見えない。こりゃ少し厄介だな。俺は未だに離れようとしない舞楽様を無視し、そのまま振り返った。離れた事を恨むように、此方を睨めつけてくる。
色白な素肌に似合の白髪は踝辺りまで伸びていた。蜜を流し入れたような透き通る黄色の目。女の中でも華奢な部類に入る体は、折れそうな程に細い。何時もは気張って優しく、寛大な神として接しているが、根っこは結構な乙女である。気が緩むと嫉妬深かったり、狭量だったり、まぁなんと言うか……。
「どうせ面倒な女だよ。三狐神からも言われた。『面倒臭ぇな。湿地帯か?』って」
「機嫌直して下さいよ」
どうやら不機嫌さの理由は一つだけでは無いようだ。ま、気心知れているからこそ、言い合える仲でもあるもんだ。俺は黙って彼女の白髪を耳に引っ掛けながら頭を撫でた。触り心地は見た目通りサラサラしている。暫くそうやって頭を撫で続けると、薄い唇が僅かに開き、言葉を紡ぎ始める。
まぁ、舞楽様は乙女なので。
とっても乙女なので!! そこら辺は専売特許のやつにお任せします。
追伸
すみません。
一つ章を飛ばしてました。割込入れます。
此処に来た理由 という章です。




