此処に来た理由
すみません。
この章、2022年11月11日に割り込みされてます。
続いて川魚のコーナー。今までは青がメインの世界だったが、今度は緑と土の世界だった。砂色の土と木々の緑がアマゾン川を連想させる。淡水魚は南国の魚達とは異なり、総じて地味な色合いをしていた。
確かこの辺り。親指以下のサイズ。砂色の魚達に目を奪われている後輩から距離を取り、私は全長約十メートルの水槽の前に立つ。体の厚みが殆どない、平べったい魚の群の中に、一匹だけ浮いた奴が。黒がベースの体色に一筋の赤銅の模様が特徴の鯰。流木の隙間に挟まって、腹を天に向けて眠っている。黙って目を向けていると、ギョロっと目玉だけが此方に向いた。
――お迎えに上がりましたよ。
――……。
返事はない。しかし呼び掛けはきっちり届いたようで、腹の辺りからピンポン玉のようなものが浮き上がった。この魚では無い別の御魂。白く発光して水面を惑うように漂った後、私の掌にすっぽりと収まった。
舞楽様の元に届いたお願いの一つに、恋愛的な縁結びがあった。親身にしている参拝者な事もあってか、自分の力の及び易い、かつ参拝者がよく訪れる水族館にお使いを飛ばした。まぁ、その回収に来たと言うわけだ。金目鯛は想定外だったけど。
よく『舞楽様は嫉妬深い』なんて言われるけど、男女の仲に楔を打つタイプじゃない。そういうタイプの嫉妬はしない。
「初めて来た時は驚きました。腹向けて寝るって、弱ってる魚しかしないのかと」
「自然界では少ないかもね」
後輩は腹這いで直線に進む魚は目もくれず、仰向けで休む魚に視線を注ぐ。そんな事が出来るのはこの守られた空間の中だけ。外に出せば直ぐにでも上位のものに食われてしまう……。余りにもか弱い命……。
「ヨハネ先輩?」
「いんや? 自分の身ぐらい、自分で守らないとね」
とりわけ片足人間辞めた身だし。




