3話
そんな一年前の出来事を思いながら、私は先輩にポスターを渡した。私はおとなしく先輩の隣でコメントを待っていた。この位置で、距離で座るのに離れた。いや、嘘だ。全く慣れない。
だって、好きな人とこんな距離にいてドキドキしないほうがおかしい。
当然ではあるが、先輩と触れあったことなんてない。よくクラスの子たちがやるような、抱きついたり、頭を撫でたり、手を握ったりなんて事は。女の子同士だし、ためらう事なんてないけど、先輩は違う。だって、私が先輩が好きなんだ。その行動は、交友的なものじゃなくて、ただの下心だ。
「さすがね。今回のもすごく素敵」
「ありがとうございます」
先輩はそのままカウンター横の掲示板にポスターを貼る。古い、前に渡した私のポスターは丸めて輪ゴムで止めて、先輩は自分のカバンの側に置いた。
「また持って帰るんですか?」
「えぇ。私、百合さんの絵が好きだから」
「あ、ありがとうございます」
好きだと言われるたび、絵のことだとわかっていても胸がすごくドキドキする。
「ねぇ百合さん」
「あ、はい。なんですか?」
「また先生に、生徒会選挙のポスター頼まれてる?」
「え?あぁ、はい。今日ここに来る前に頼まれました」
「そう……もうそんな時期なのね」
なぜか先輩はどこか寂しそうに天井を見上げていた。私はまぁ、もう先輩と出会って一年になるんだなぁと、嬉しい気持ちになる。
「私ね、いつも貴女がここに来るの楽しみにしてるの」
「え!?そ、そんな!先輩にそう言っていただけるなんて……」
突然の言葉に驚きながらも、少しもじもじしながら私は照れた。だって、そんな風に言ってもらえて、正直嬉しい。私は自分の顔を両手で覆いながら、真っ赤になった顔を隠して悶々としていた。
「私ね、来週の金曜日で、当番終わりなの」
高ぶっていた気持ちは、その言葉でどんどん下がっていった。覆っていたては自然と離れていき、私は先輩の顔を見上げた。いつも通りの、優しい笑顔。
「驚くことじゃないでしょ。再来週からは、一、二年で当番を回すの。三年生の当番は来週まで」
「そ、そうなんです」
当然だ。先輩は三年生。こんな日がいつか来るのはわかっていた。だけどそっか、もう先輩とは会えなくなっちゃうのか……ずっと楽しみにしていた週末の図書館通いも、来週が最後。
「だから貴女にお願いがあるの」
「お願い、ですか?」
「そう。来週、またここに来て、その時に私の我儘を聞いて欲しいの」
「我儘、ですか?」
不思議なお願いに、私の頭の中には?マークがたくさん浮かんでいた。でも、先輩からのお願いだ。断るはずがない。
「わかりました。先輩の頼みなら!」
「ありがとう。それじゃ、今日はもう閉めましょうか」
気づけば、図書館にはもう誰もいなかった。私たち二人だけ。そう思うと、なんだかドキドキしてしまう。
「それじゃあ、私は職員室に鍵を返して来るから」
「はい、それじゃあお先に失礼します」
いつも、ここで先輩と別れる。一緒に寮に帰ることはない。寂しいとか、もっと一緒にいたいと思う。だけどそれは私の我儘だから。
遠くなってく先輩の背中を見送り、昇降口へと向かった。いつもなら沈んだ気持ちになるが、来週のことを考えると口元がニマニマしてしまう。
「早く来週にならないかな」




