1話
最近、一層寒くなったような気がする。
先月は、十月だというのに日によって気温が変わっていた。ひどく暑い日もあれば寒い日も。
最近は安定してきて、吹く風は冷たく、頬や体を撫でられると身震いが起きてしまう。そんな気温だから、最近はマフラーをつけたり、コートを着ている子をちらほらと見かける。
「最近寒いもんな」
廊下を歩きながら、窓の外を眺める私は、暖色の世界に目を向ける。
木々の葉はすっかり秋色に染まり、はらりはらりと地面に落ちて行く。こういう時期、枯葉を集めて科学の佐賀沼先生が焼き芋をしていて、タイミングが合えばおすそ分けをして貰えたりする。
もうすっかり秋だ。と思いたいが、もう十一月。冬マジかなのに、今頃になって訪れた季節に、なんだかここだけ時間がずれているようにも感じてしまう。まぁ、全校生徒に同じようなことを聞けば、多分半分近くの生徒が同意してくれるだろうと思った。
この学校は、高台にある女子校。別にお嬢様学校というわけではないが、それなりに偏差値も高い。入学した学生は量での生活を強制される、まぁ女の子を閉じ込める鳥籠みたいなところだ。でも、何不自由のない生活が約束されてるから、みんなのびのびと勉学や運動に勤しんでいる。私もまぁ、そのうちの一人だ。
「あ、こんなこと考えてる場合じゃなかった」
と当初の自分の目的を思い出し、私は止まっていた足を進める。
すれ違う生徒は、休みをどう過ごすか楽しそうに話をしていた。週末になると、いつもよりも少しだけ足がふわふわと浮つく感じがする。けど私のそれは、他の生徒たちとは違う。休みなんてどうでもいい。私の楽しみは、週末の放課後の図書館だ。
「し、失礼します」
もう慣れたはずなのに、気持ちが高ぶっていつも扉を開くときにドキドキしてしまう。さっきの言葉も、上ずってなかったか少し不安になる。
日の傾きが早くなったこともあり、図書館の中はほんのりオレンジ色に染まっている。生徒の数も、夏場に比べればほとんどいない。しんと静まり返ったこの空間は、まるで時が止まっているようにも感じる。
また少し緊張した体が強張ってしまう。下唇を強くかみながら、私は敷居を跨いだ。
「あら、こんにちは」
柔らかい声音が、私の耳に心地よく届いた。
ゆっくりと顔を上げると、図書館のカウンタースペース。そこに背筋を正し、レンズ越しに私を見つめる綺麗な女性は、柔らかい笑みを向けてくれた。
「こ、こんにちはです。菖蒲先輩」
涙雨菖蒲(るいう_あやめ)先輩。私より一つ上の三年生。図書委員長をしていて、毎週金曜日の放課後にカウンター当番をしている。
そして、私の片思いの相手……
「そこに立ってると邪魔になるわよ」
「え。あっ、ご、ごめんなさいです」
出入り口の側で出たそうにしている生徒に気づいて、私は慌てて少しずれて謝罪をした。「大丈夫ですよ」とそう言いながらその生徒さんは出ていったが、少し笑われていた。先輩に見惚れて周りが見えたなかった。
私溜息を零して落ち込んでると、先輩が軽く手招きをしてくれた。私は手にしていた紙で口元を隠しながら先輩へと近づいていった。
「相変わらずおっちょこちょいね」
先輩もクスクスと笑い始める。恥ずかしくて顔を覆いたくなるけど、先輩が私のことで笑ってくれるのが嬉しくて、顔を隠すどころか、じっと先輩を見てしまう。今の私は一体どんな顔をしているんだろう……




