2、子犬との出会い
「お前な!いい加減にしろ!」
鬼の形相で睨まれるアイツは、ヘラヘラと火に油を注ぎ続ける。それもこれも、鬼の問いに全く答えないアイツのせいでしかない。だが、どれだけ怒ってもアイツに効果がないことが鬼変化の原因かもしれない。
ただこれは、いつもの光景だし、この後に訪れることも容易に想像がつく。
鬼が怒り、
「なんでだ!お前は本当に!!」
アイツが頓珍漢な回答をし、
「え、なんでだろう...」
鬼が呆れて、
「....はぁ、お前に聞いた俺が馬鹿だった」
アイツには課題が課される。
バサッ
「これ、今日中にやっとけ」
あはははははっはははは
教室中に笑い声が響きわたる。
我がクラスの問題児、アイツ改めコウタロウは、クラスのムードメーカーというやつであろう。人懐っこく、顔も態度もまるで子犬だ。
友達も多く、笑顔が似合うやつで、みんなに好かれている。私的には、周囲の顔色を読むのに長け、爪を隠した賢い犬に見えているのだけど。
「ねぇね、サキネちゃん?」
至近距離から急に声をかけられ、身体が飛んだ。
「あっ、ごめんね!びっくりさせちゃった!」
目の前でわたわたと私以上に動揺しているのはコウタロウだった。
今まで、ろくに話したことがないというのに、何の用だろう。
「今日の課題がちゃんと出来ないと、
次のテストを受けさせてもらえないかもしれないんだよね....」
頭を掻きながら、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
なんとなく、要件の全貌がみえてきた。
「だから、課題を教えて欲しいっ...て感じ?」
なぜ分かったのかと言わんばかりに、くりくりとした瞳を開きながら、うんうんと顔を上下に振る姿は、確実に子犬だ。愛嬌のある子犬でしかない。